第1話異世界転位?ここは、どこ?
朝。いつも通り学校へ向かう神崎守(17歳)は、特に変わったこともない平凡な日常を過ごすはずだった。
しかし、登校中に起きた異変が、彼を新たな運命へと導く――。
「はぁ……今日も遅刻ギリギリだよ。」
守はランドセル……ではなく、普通のリュックを背負いながら、急ぎ足で通学路を進んでいた。
「でも、いつもと変わらない平和な朝って感じだよな。こういう時に限って、ラノベみたいなこと起きたり……しないか。」
そう呟いた瞬間、辺り一面に白い霧が立ち込める。
「え……何これ?霧?こんな天気予報、聞いてないけど……」
視界がどんどん奪われ、周りの音すら聞こえなくなる。不安になり、立ち止まろうとした瞬間――ふっと、足元の感覚が変わる。
「えっ?」
次の瞬間、守の目の前に広がっていたのは……見渡す限りの草原だった。
「は?え?ここ……どこ?」
守は呆然としながら、辺りを見回す。目に入るのは青い空、緑の草原、そして遠くに見える山々だけ。
「いやいやいや……こんな場所、近所にあったっけ?」
頭を抱えながら、ひとまず考える。
「……待て。落ち着け俺。いつもラノベで読んでるだろ?こういう時は、まず状況確認だ。」
まずは足元を確認。いつものスニーカー。次に、自分の身体。制服のままだ。
「うん、俺は無事。周りに誰もいない……いや、これはもしや、異世界転移ってやつじゃね?」
ラノベ好きの守は少しテンションが上がりながら、ある“定番”を試してみる。
「よし、まずは……ステータスオープン!」
……。
「……何も起こらん。」
気を取り直してもう一度。
「えっと……スキルボードオープン!」
……やっぱり何も起こらない。
「何も起こらんのかい!!」
両手を広げて叫ぶ守。だが、周りには当然誰もいない。
「いやいやいや……どうすんだよ、これ……」
途方に暮れながら、とりあえず歩き出す守。
「こういう時は、動いてみるのが一番って、ラノベで読んだし……」
そう呟きながら、しばらく歩き続けると――茂みの中で小さな影が動いた。
「ん?あれ……うさぎ?」
守は慎重に足を止め、茂みの中を覗き込む。そこには一匹のうさぎがいた。
「いやいやいや、待て待て待て……異世界のうさぎなんて、絶対ヤバいやつだろ!」
心の中で警鐘を鳴らしつつ、遠巻きに距離を取りながら歩き続ける。だが――。
「……ん?」
うさぎがこちらを向いた。そして――。
「やばっ!こっち見た!」
次の瞬間、うさぎが猛スピードでこちらに向かってくる。
「え、嘘だろ!?速い速い速い速い!!」
守は慌てて全力疾走で逃げ出す。
「何でだよ!普通、うさぎって草食動物だろ!?」
後ろを振り返ると、うさぎは信じられない速さで迫ってくる。
「これ……完全に捕食者の動きだよな!?」
必死で草原を駆け抜ける守。その時――頭の中で突然アナウンスが流れる。
「特殊スキル『適応力』が発現しました。」
「脚力がLV1になりました。」
「えっ……何これ?」
驚く間もなく、身体が軽くなり、足が自然と前へ進む。
「うわっ……速い!?何これ、脚力が上がったってことか?」
そのおかげで、守はギリギリのところでうさぎの追撃を振り切ることができた。
ようやく安全な場所に逃げ込んだ守は、地面に倒れ込みながら息を整える。
「はぁ……はぁ……何とか、助かった……」
ふと、先ほどのアナウンスの意味を考える。
「……俺の特殊スキル、これか?『適応力』……ってこと?」
確信はないが、この異世界で何とかやっていけるかもしれないという希望が、守の中に芽生え始めていた。
「よし……次は水とか食べ物とか、探すか。」
再び立ち上がり、一歩を踏み出す守。こうして彼の異世界での冒険は幕を開けるのだった――。