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ドラゴンと山暮らし  ~休日は異世界でキャンプライフ~  作者: EDA
第15話 五人のキャンプ

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02 歓談

 咲弥がタマネギとニンニクの切り分けを終えた頃、薪割りの作業も完了した。

 二つに割ってもまだ太い薪は、同じ手順でさらに細かく割られている。ケルベロスたちは曲芸めいた手腕で薪割りに励んでいたが、咲弥が仕上げる際とまったく遜色のない出来栄えであった。


「やっぱりケルベロスくんたちは、器用だねぇ。普段から、口で道具を扱ってるの?」


「いえ。そもそも道具を所持していないので、滅多に機会はありません。ただ、戦闘の際には刃物を扱う経験がありましたので」


 そのように語る際も、ルウはドラゴンのように切なげな態度を見せることはない。

 しかし咲弥は、ドラゴンのときと同じ言葉を返すことにした。


「それがキャンプに活用できるなら、何よりの話だねぇ。また機会があったら、よろしくお願いするよぉ」


「はい。アトルとチコの領分を侵さないていどであれば、如何様にも」


 アトルとチコは仕事がかさめばかさむほど意欲を燃やす、働き者であるのだ。そんな二人のことを咄嗟に思いやれるルウの優しさに、咲弥は感じ入ることになった。


「それじゃあさっそく、みんなの力作を使わせていただくよぉ。ギューちゃんも、ありがとうね」


 ギューは青と黒の瞳を輝かせながら、「ぎゅう」と応じる。ギューもドラゴンと同様に表情筋というものが備わっていないようであるが、目つきと瞳の輝きだけで存分に感情をあらわにしていた。


 そうして咲弥は愛くるしい四名に見守られながら、調理を進める。

 まずは、パスタの茹であげだ。廃棄物処理の『貪欲なる虚無の顎』がまだ手もとにないため、ひさびさに水が残らない手法で茹であげることにした。


「いやぁ、この人数でキャンプを楽しむのは新鮮だねぇ。せっかくだから、ケルベロスくんのことを色々と聞かせてほしいなぁ」


 咲弥がメスティンとコッヘルでお湯をわかしながら問いかけると、ルウはいくぶんけげんそうに「は……」と応じた。


「それでサクヤ殿の無聊が慰められるのでしたら、否やはありませんが……しかし、何を語ればいいのでしょう?」


「別に、なんでもいいんだよぉ。たとえば、ケルベロスくんって何歳なの?」


「この身が生まれ落ちたのは、おおよそ百二十年前となります」


「おー、百二十歳かぁ。じゃ、ドラゴンくんが王様になった頃は、二十歳ぐらいだったんだねぇ」


「はい。その頃には分別もついておりましたので、火竜族の討伐などという愚行には加わらずに済みました」


 ケルベロスがその愚行に関わっていたならば、今もこうしてドラゴンのもとに留まる心持ちにはなれなかったことだろう。咲弥にとっても、それは何より幸いな話であった。


「そういえば、個体種っていうのは親から生まれるものじゃないっていう話だったよねぇ。それって具体的には、どんな感じなの?」


「魔族の個体種は、地中や水中の魔力が結晶化して誕生いたします。あえて言うならば、この世界そのものが親であるのでしょう」


「おー、なんだか、ロマンチックだねぇ。あと、個体種はこの世にひとりしか存在しないって話だったっけ?」


「はい。正確には、ひとつの世代にひとりということになります。この身が朽ちたのちに、また新たなケルベロスが誕生するということです」


「ほうほう、不思議な話だねぇ。それって、どういう理屈なんだろ?」


「魔力というものは、理屈で語りきれる存在ではありません。そんな魔力を理に収めるのが魔法ということになりますので……個体種が誕生する理が解明されたならば、魔法の術式によって魔族を生み出すことが可能になってしまうのでしょうね」


 お湯が沸騰したので、咲弥はメスティンとコッヘルに四人分のパスタを投入した。


「それってなんだか、ギューちゃんのことみたいだねぇ。ギューちゃんの誕生は、そっちの世界でもレアケースなんでしょ?」


「はい。これだけ力のある魔族を自由に生み出すことがかなうようになったならば、この世の力関係は根底からくつがえされることになるでしょう。余計な懸念とは思いますが、ギューの素性は外界の者たちに秘匿するべきかと思います」


「外界っていうと、冒険者のみなさんとか?」


「はい。あの者たちであれば竜王殿の意に沿わぬ行いに手を染める恐れもないやもしれませんが、うっかり口外するだけで思わぬ災いを招き寄せる結果にもなりかねませんので」


 それは何とも、ありがたい忠告であった。


「じゃ、あとでドラゴンくんとも相談だねぇ。そろそろ冒険者のみなさんが顔を出す頃合いかもしれないからさぁ」


「はい。世界の融合の影響で生まれた新たな種とでも言っておけば、不審に思われることもないでしょう。ギューは竜王殿に魔力を封印されているため、特殊な個体種であるということを気づかれる恐れもありません」


 かえすがえすも、ルウは頼もしかった。

 しかし、先刻から語っているのはルウばかりだ。それで咲弥が残る二名に視線を向けると、「なんだよ?」と言葉を返された。


「そーゆーこまけー話は、真ん中の首の領分だよ。俺が頭をひねる理由はねーや」


「そっかぁ。でも、みんなの声も聞きたいから、たまには相槌をよろしくねぇ」


「なんだよ、そりゃ」と、ケイは仏頂面でもじもじと身を揺する。その愛くるしさに微笑みつつ、咲弥は具材の調理に取りかかった。まずは、スキレットをバーナーの火にかけて、ニンニクの香り出しだ。


「話を戻すけど、個体種が生まれた後はどうなるの? 育てる親がいないと、大変なんじゃない?」


「いえ。個体種は生まれ落ちた瞬間から相応の魔力を携えていますので、少なくとも危険はありません。そして、個体種の本能に従って、まずは世界のことを学ぶのです」


「ふむふむ。世界のことを学ぶとは、どのように?」


「生まれ落ちた身が安定したならば、自然に走査の魔法が発動されるのです。それで世界の理や言葉などを知ることができますので、その時点で人間族の幼子ていどの知識は得ることがかないます。あとは自分の意思で走査の魔法を発動し、より深く世界のことを知っていく――といったところでしょうか」


「にゃるほど。魔法を使えない人間なりに、そこはかとなく理解できたような気がするよぉ。ギューちゃんは、その走査の魔法っていうのが使えなかったわけだねぇ」


「はい。あのままでは、個体種の力を持つ魔獣同然の存在として、世界を脅かしていたことでしょう。かえすがえすも、竜王殿の手腕には感服いたしました」


 自分の名前が呼ばれるたびに、ギューは発言者のほうに向きなおる。そして、不思議そうに「ぎゅう?」と小首を傾げた。


「今のギューちゃんは、なんの魔法も使えないんだよねぇ?」


「はい。そもそもギューには、魔法の術式を組み立てる知恵が存在いたしません。それでも本能で危険な魔法を暴発させる恐れはありますので、生存に必要な魔力だけを残して封印する他なかったのでしょう」


「ふん。それで竜王は、一割ぐらいの力を失ってるんだろうなー」


 咲弥が勢いよく振り返ると、ケイは「な、なんだよ?」と後ずさった。


「いや、なんか不穏なワードが聞こえたような気がしたから……もうちょっと詳しくお願いできる?」


「そいつの魔力を封じ込めるのに、竜王はずっと封印の術式を発動させてるんだよ。さすがのあいつでも、一割ぐらいの魔力を削られっぱなしってこった」


「……それって、温泉につかったりごはんを食べたりしても、補充できないの?」


「食ったそばから、魔力を持っていかれるんだよ。それぐらい、個体種の魔力を封印するってのは大ごとなんだからよ」


「そっか……」と、咲弥は思わず眉を下げてしまう。

 すると、陰気に黙りこくっていたベエが鬱々とした声をこぼした。


「サクヤは竜王の身を案じているようだが、杞憂であるぞ……一割の魔力を削られたところで、竜王は無類の存在であるのだからな……」


「そーそー。あいつはたった一匹で、魔族と人間族と亜人族の連合軍をぶっ潰したんだぞ? もともとの力が、ケタ違いなんだよ」


「ええ。なおかつ竜王殿とて、この百年で大きく成長しているはずです。現在の九割は、百年前の十割を凌駕していることでしょう」


 ケルベロスが口々に言いたてるため、咲弥は目頭が熱くなってしまった。


「みんな、ありがとう。やっぱりみんなは、優しいねぇ」


「なんだよ、そりゃ? 見当違いの心配を抱えて、料理を失敗するんじゃねーぞ?」


 と、奥ゆかしいケイはぷいっとそっぽを向いてしまう。

 そして咲弥の足もとには、ギューがすり寄ってきた。


「あたしは、心配いらなよぉ。……ドラゴンくんはギューちゃんのために頑張ってくれてるから、ギューちゃんはいいコに育ってね」


 ギューは咲弥の顔を見上げながら、元気いっぱいに「ぎゅうっ!」と鳴いた。

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