06 激闘
アトルとチコにじゃんけんの作法を教示したのち、プレイの順番が決められた。
トップバッターは、咲弥とベエのチーム。以下は、チコとケイ、アトルとルウ、陽菜とドラゴンという順番である。
「まずはチームのひとりずつが順番にプレイして、二巡目でふたり目がプレイしていくんだってさぁ。あたしたちは、どっちが先に行く?」
「うむ……我はいまだ、こちらの遊戯の本質を理解しきれていないので……サクヤに手本を示してもらいたく思う……」
「りょうかぁい。さてさて、どんなもんかなぁ」
標的は歩いて五歩分、三・五メートルていどの見当であるので、空振りする恐れはごく低いだろう。咲弥は足もとに設置した薪に触れないように気をつけながら、モルック棒を握りなおした。
投擲は下手投げと、ルールで取り決められている。ほどほどの重さを持つモルック棒を下から振りかぶり、咲弥は山なりに投げつけた。
が――狙いはわずかに脇にそれて、密集したスキットルの右側を崩すに留まる。倒れたスキットルの数は、十二本中の五本であった。
「ありゃ。意外に下手投げって、コントロールがきかないんだなぁ」
これはきっと、他の面々にいい手本を示せたことだろう。咲弥はメモ帳にポイント数を記してから、スキットルのほうに移動した。
「倒れたスキットルは、根っこの場所に合わせて立てなおすんだってさぁ。こんな具合かねぇ」
「なるほどなのです!」と、アトルたちもスキットルの再設置に協力してくれる。
それから投擲のフィールドに戻ると、ルウも「なるほど」と発言した。
「投擲のたびに、的が分散するのですね。それで、一度にすべてを倒すことが困難になる代わりに、必要な数字の的だけを狙う余地が生じるというわけですか」
「ふん! とにかく最初は、全部ぶったおしゃいいんだろ!」
「ええ。何にせよ、一度の投擲で狙える最高得点は十二点です。それで五十点を目指すということは、四手目までは高得点を目指して問題ないのでしょう」
「こんなもん、楽勝だぜ!」
二番手の出番であったケイは、意気揚々とモルック棒をくわえこむ。早くも、やる気スイッチがオンにされたようである。パートナーのチコは、「が、がんばれなのですー!」と声援を送っていた。
薪の枠内に四肢を踏まえたケイは、おもいきりうつむいて、おもいきり首を振り上げる。その口から投じられたモルック棒は、十メートルばかりの高みに舞い上がり――そして、密集していたスキットルのど真ん中に墜落した。
さらに、密集していたスキットルが弾け飛び、いくぶん離れた場所に散っていた分も次々となぎ倒していく。結果、すべてのスキットルが地面に倒れ伏すことになった。
「そら見ろ! 俺にかかりゃー、こんなもんよ!」
「ケ、ケイさま、すごいのですー!」
えっへんとばかりに首をそらせるケイも、ぱちぱちと拍手を送るチコも、二人まとめて微笑ましい限りである。すべてのスキットルが派手に弾け飛んだため、スキットル同士が折り重なることもなく、文句なしの12ポイントであった。
「おー、ほんとにお見事だねぇ。いきなり差をつけられちゃったなぁ」
「ええ。なおかつ、的がずいぶん広範囲に広がってしまいました。今後はまとめて倒すことも困難になりますため、的確に高得点の的を狙う必要がありましょう」
そのように語るルウは、どうやら論理的な戦略を練ることを楽しんでいるようである。同じケルベロスでも、楽しみ方は人それぞれ――狼それぞれであった。
「こちらも、私が先行して問題ありませんでしょうか?」
ルウに凛々しい眼差しを向けられたアトルは、「も、もちろんなのです!」とモルック棒を差し出す。ルウはそれを、縦向きにくわえこんだ。
下手投げであれば、モルック棒のつかみかたおよびくわえかたは自由である。それでも横向きのほうが狙いやすいのではないかと思われたが――ルウのしなやかな所作で放り投げられたモルック棒はくるくると縦向きに回転しながら飛来して、見事に『12』のスキットルだけを地に這わせたのだった。
「すごーい! ほんとに『12』を倒しちゃった! ケルベロスくんは、みんな上手だねー!」
「うむ。我々も、うかうかとはしておれんようであるな」
陽菜とドラゴンは、遠慮なく言葉を交わしている。咲弥はどちらを向いても微笑ましい心地で、競争心も二の次の状態であった。
「ひなたちは、どうしようか? ひなはこういうのヘタだから、外しちゃうかも……」
「たとえ的を外そうとも、その経験を次に活かせばよい。何事も、失敗なくして成長は望めなかろうからな」
「うん! それじゃあ、ひなからやってみるね!」
陽菜はドラゴンに笑いかけてから、投擲の場に立った。
顔はにこやかなままであるが、目つきは真剣だ。遊びとは、真剣に取り組むからこそ楽しいのだった。
陽菜は何度かスイングの練習をしてから、「えいっ」とモルック棒を投じる。
モルック棒は罪のないゆるやかな放物線を描き、『4』のスキットルに命中する。ただし、そのスキットルが跳ねて『7』のスキットルも倒してしまった。
「あーっ! ほかのも倒れちゃった! 一本だけなら、四点だったのにー!」
「うむ。しかし、得点は獲得した。実に立派な戦果であるぞ」
「えへへ。本当は、『12』をねらったんだけどねー」
沈着で優しいドラゴンと素直で元気な陽菜は、それこそ祖父と孫娘のような和やかさである。
自分とドラゴンが戯れる姿は周囲にどう見られているのだろうと頭の片隅で考えながら、咲弥はベエに笑いかけた。
「ではでは、ベエくんの番だねぇ。ともに勝利を目指しませう」
「うむ……しかし我は、繊細な動きを不得手にしているので……期待はしないでもらいたい……」
モルック棒をくわえたベエはもともとうつむいている首をひかえめに振り上げて、モルック棒を放り投げた。
先刻の陽菜とあまり変わらない印象で、モルック棒はゆったりと飛んでいく。そして、何もない場所にぽとりと落ちた。
「やはり、力にはなれなかった……せめて横方向から投げることが許されれば、もう少しは成果をあげられたと思うのだが……」
ベエがいっそううつむいてしまったので、咲弥は「いいんだよぉ」とそのモフモフの背中を撫でた。
「誰だって、得手不得手はあるんだからさぁ。あんまり気張らずに、楽しむことが一番だよぉ」
そうして次はBチームの二番手で、チコの出番である。
十二本のスキットルは、すでにずいぶん広がってしまっている。やはり、ケイの豪快なプレイが強く影響しているのだ。それでチコも残念ながら、的を外すことになってしまった。
「せ、せっかくケイさまががんばってくださったのに、わたしはおやくにたてなかったのですー!」
「気にすんなって! 俺がいりゃー、誰にも負けねーんだからよ!」
ケイはまったく気を悪くした様子もなく、尻尾をぴこぴこと振っている。
しかし次の順番で、情勢が大きく動いた。アトルの投じたモルック棒が、『10』のスキットルを倒したのである。
「わーい! おやくにたてたのですー!」
「ええ。『11』や『12』を狙えば、他なる的を倒す危険も高かったことでしょう。欲をかかずに『10』を狙ったのは、素晴らしい判断です」
どのペアも、独自に絆が育まれているようである。それだけで、この遊戯をキャンプに持ち込んだ甲斐があったというものであった。
そうして二巡目の最後の出番は、ドラゴンだ。
長い尻尾でモルック棒を絡め取ったドラゴンは、黄金色の澄みわたった眼差しで広範囲に散らばったスキットルを見回した。
「我も、細かな動きは得手ではない。最初から、複数の的を狙うべきであろうな」
長い尻尾をぐっとたわめたドラゴンは、下からすくいあげるようにしてモルック棒を投じた。
しかしモルック棒は上空に舞い上がらず、地を這うように駆けていく。ドラゴンの尻尾の動きによって凄まじいスピンをかけられつつ、うなりをあげて並み居るスキットルに襲いかかったのである。
最初に『2』のスキットルが弾き飛ばされて、その次に『5』と『7』と『11』のスキットルが弾け散った。
そしてそれらのスキットルが、近からぬ場所に散っていた『1』と『8』と『12』のスキットルをもなぎ倒す。結果は、7ポイントであった。
「すごいすごーい! ドラゴンくん、上手だねー!」
「否。力まかせで、恥ずかしい限りである。これでも棒が砕けてしまわぬように、加減をしたつもりであるのだが……如何であろうか?」
「うん。さすがに、折れてはないみたいだよぉ。まあ、棒を壊しても反則ってルールはなかったはずだし、いざとなったら作りなおそうねぇ」
そうして二巡目が終了して、Aチームは5ポイント、Bチームは12ポント、Cチームは22ポイント、Dチームは9ポイントという結果である。
やはり、ペアの両方が高得点をあげたBチームが群を抜いている。最下位となった咲弥は、しょんぼりとうつむくベエのモフモフを堪能するばかりであった。
そしてその後も、順当にゲームは進められていったが――四巡目が終了する頃には、咲弥にもモルックの奥深さがだんだん理解できてきた。
まず前提条件として、ケイとルウとアトルは優れたプレイヤーである。ケイとルウは戦闘の経験で、アトルはデザートリザード釣りの経験で、それぞれ遠距離の的を狙うという行為が得手であったようなのだ。
しかしそんな面々でも、毎回12ポイントを獲得できるわけではない。『12』のそばに別なるスキットルが立っていると、一緒に倒してしまう危険が生じるのだ。現に、ケイは『12』と一緒に『3』のスキットルを倒してしまったし、『10』から『12』までが狙いにくい状態であったルウは冷静に『9』のスキットルを狙うことに相成った。
そうして四巡目が終了した時点で、Aチームは17ポイント、Bチームは23ポイント、Cチームは40ポイント、Dチームは21ポイントという結果である。
Aチームの咲弥とベエは、それぞれ『6』のスキットルを倒すことができた。
Bチームのケイは2ポイントであったがチコが『11』のスキットルを倒したため、いまだ二位をキープできている。
Cチームのルウとアトルは、やはり優秀だ。目標の50ポイントまで、王手がかけられた。
Dチームは陽菜が堅実に『5』を倒し、ドラゴンがまた強烈な一撃で七本を倒したため、この数字であった。
「なんとか高得点を狙いたいけど、『12』は遥か彼方だなぁ」
ケイが連続で『12』を狙い、さらにドラゴンが数々のスキットルを跳ね飛ばすものだから、すでにスタート地点から大きく遠ざかってしまっている。それをピンポイントで狙う力量は、咲弥に存在しなかった。
「ここは無難に、『10』かなぁ。一歩ずつ、地道に進んでいこぉ」
二ケタのポイントであるスキットルの中で、もっとも狙いやすそうに見えた『10』を目指してモルック棒を投じる。
モルック棒はワンバウンドしたが、なんとか目的のスキットルを巻き込んでくれた。これで、合計27ポイントである。
そしてBチームはケイが意地を見せて、再び『12』を倒してみせた。ドラゴンの一撃で『12』が遠く飛ばされて孤立したのが、功を奏したようである。
そして、勝負がかかったCチームだ。
こちらはすでに40ポイントであるので、『10』を倒せば決着がつく。
ただし、さきほどの咲弥の一投で、『10』は難しい位置に移動していた。そのすぐ背後に『11』が立ちはだかっており、単独で狙うのは厳しい位置取りである。
「……あなたはこの山における、先達です。よって、指針を定めていただけますでしょうか?」
ルウの沈着なる呼びかけに、アトルは「え? え?」と目を泳がせた。
「おそらく『10』のみを正確に倒せる確率は、およそ四割といったところでしょう。ここはやはり『10』よりも小さな数字の的を狙って、次の手番で勝負をかけるべきでしょうか?」
「ぼ、ぼくにはよくわからないのですけれど……それでも、しょーりをねらえるのです?」
「はい。他の方々が目標を達成するには最低でも二手かかりますため、我々の優位は動きません。しかし、もしも誤って『11』を倒してしまった場合、我々の持ち点は二十五点に減点されますため、他の方々と横並びという結果になりましょう」
「そ、それでしたら、むりをするひつようはないようにおもうのです。つぎはぼくのばんですので、なにもえらそうなことはいえないのですけれど……しょーりをめざしてしりょくをつくすと、おやくそくするのです!」
「承知しました。意見が一致したことを、喜ばしく思います」
ルウが目礼をすると、アトルは嬉しそうに微笑んだ。
そうしてルウは、しなやかな所作でもって『9』のスキットルを倒す。『10』以下であればどれでもかまわないのであろうが、一点でも高いポイントを狙おうというルウの心意気が表れているように思われた。
「ひなたちは、どうしよう? 『12』はちょっと遠いし、『10』と『11』はぴったりくっついちゃってるもんね」
「うむ。それらの三本よりも、『9』のほうが狙いやすかろうな」
「それじゃあ、『9』にするね!」
宣言通りに、陽菜は『9』を倒してみせた。
なんだかんだで、陽菜は毎回スキットルを倒している。ベエとチコが一回ずつ外していることを考えれば、こちらも見事な戦績であった。
かくして五巡目も終了して、Aチームは27ポイント、Bチームは35ポイント、Cチームは49ポイント、Dチームは30ポイントである。
ルウの言う通り、Cチーム以外は目標の50ポイントまで最低でも二手はかかる数値であった。
しかし六巡目で、波乱が生じる。
ベエはひかえめに『6』のスキットルを倒すに留まったが、『9』を狙ったチコのモルック棒がおかしな具合にバウンドして、四本ものモルック棒を巻き添えにしたのである。
ポイント上は四点で、べつだんおかしな成績ではない。
ただし、チコの一投が倒したのは、もともと密接していた『10』と『11』、そして『1』と『7』であり――その『1』と『7』がころころと転がった末に、おたがいの側面をぶつけあって仲良く横並びとなったのだった。
『10』と『11』は左右に散ったが、今度が『1』と『7』が密接してしまった。
その結果に、ルウが「そうか……」と牙を噛みしめる。
「……申し訳ありません。私が先刻、『9』を狙ったために、戦術の幅をせばめてしまいました。これでは、低い確率で勝利を目指すか、あえて的を外して勝負を次に持ち越す他ありません」
「は、はいなのです。ぼくも『1』をたおすじしんはないのです。しりょくをつくすとおやくそくしたのに、ふがいないかぎりなのです」
「いえ。この状況を作ったのは、私です。どのような結果になっても決して文句は申しませんので、どうぞあなたの思うままにお振る舞いください」
ルウが思い詰めた面持ちでそのように告げると、あわあわしていたアトルがにこりと微笑んだ。
「き、きっとルウさまなら、しょーりをつかみとってくれるのです。ぼくはむりをせずに、ルウさまにうんめーをゆだねるのです」
かくして、アトルはいずれのスキットルにも届かない位置にモルック棒を投じて、あえて0ポイントを選択したのだった。
(そっか。2ポイントを取るには二本の的を倒してもいいけど、1ポイントを取るには『1』を倒すしかないんだ。……案外、奥が深いんだなぁ)
咲弥が感心している間に、ドラゴンがモルック棒を尻尾で巻き取った。
そしてその強烈な一撃が、また八本ものスキットルをなぎ倒す。どれだけスキットルが広範囲に広がっても、ドラゴンの暴虐なる投法からは逃れられないようであった。
六巡目が終了して、Aチームは33ポイント、Bチームは39ポイント、Cチームは49ポイント、Dチームは38ポイントである。
Aチーム以外は、ついにゴールを目指せるポイントに至った。各人の技量を考えれば、これが最終フレームであろう。
「でも、最後まで勝負はあきらめないからねぇ」
咲弥はベエに笑いかけてから、モルック棒を投じた。
しかし、最後の最後で空振りである。咲弥は「ごめんよぅ」とベエの背中にすがりつき、どさくさまぎれでモフモフを堪能させていただいた。
次のBチームは、気合の入ったケイの出番だ。
狙いは、『11』のスキットルである。かなりの遠方であるが、周囲に立ち並ぶスキットルは存在しないので、ケイの力量であれば勝負が決まりそうなところであった。
しかし、勝利の女神は微笑まなかった。
ケイの投じたモルック棒は『11』に的中したが、勢い余って地面を跳ね回り、遠く離れていた『5』のスキットルまで倒してしまったのだ。
ケイは「ちくしょー!」と、地団駄を踏む。結果は合計41ポイントで、勝利ならずである。
そして、Cチームのルウの登場であったが――ここでも勝利の女神は、そっぽを向いていた。ドラゴンの一撃で『1』と『7』は分離したが、今度は『1』の遠からぬ位置に『8』が鎮座ましましていたのだ。
うまくいけば、『1』のみを倒せることだろう。
しかし、もっと有利な状況にあったケイが失敗したばかりである。モルック棒やスキットルの跳ね方ひとつで『8』も巻き添えになりそうな位置取りであった。
「……ぼくは、ルウさまをしんじているのです。どうかルウさまのこころのままに、おちからをつくしていただきたいのです」
アトルに純真なる言葉と眼差しを向けられたルウは、「承知しました」とモルック棒をくわえこむ。
そして、よどみのないフォームでモルック棒が投じられ――くるくると縦回転しながら、吸い込まれるようにして『1』のスキットルに向かっていった。
回転するモルック棒に上部を叩かれて、『1』のスキットルはぱたりと倒れ伏す。
だが、地面に落ちたモルック棒は、まだ鋭い回転のさなかにあり――大きくバウンドして、『8』のスキットルをかすめていった。
『8』のスキットルは立ち眩みでも起こしたようにふらふらと揺れたのち、力尽きたように倒れ込む。
ルウは無念の表情で天空を仰ぎ、アトルは涙目でその背中に取りすがった。
「ルウさまは、ごりっぱであられたのです! ルウさまとともにたたかうことができて、ぼくはしあわせいっぱいいっぱいなのです!」
「申し訳ありません……力及ばず、無念の限りです……」
どうやら両名は、咲弥が思っていた以上に絆が深まったようであった。
そんな中、陽菜がおずおずとドラゴンに向きなおる。
「ひなたちは、『12』を倒したら勝てるんだよね? でも……『12』は遠いから、ひなだと届かないかも……」
「うむ。しかし我も、狙った数字だけを倒す力量は持ち合わせておらぬ。次の手番で我々が勝利する確率は、ごく低かろう。ここは、ヒナが勝負をかけるべきではなかろうかな?」
ドラゴンが重々しくも穏やかな声音でそう伝えると、いくぶん不安げな表情であった陽菜は笑顔を取り戻して「うん!」とうなずいた。
『12』のスキットルは孤立しているが、すでに投擲の場から七、八メートルは離れた場所にある。その一本を正確に倒すことは、常人にはきわめて難しい話であった。
陽菜はきらきらと瞳を輝かせながら、入念にスイングの練習をする。
そして、「えいっ」とモルック棒を投じると――やはり、ずいぶんな手前に落ちてしまった。
しかし、モルック棒は真横の状態で落ちたため、大きくバウンドしたのちに、真っ直ぐころころと転がっていく。
そうして最後には、『12』のスキットルにちょんと触れて――『12』のスキットルは迷うように揺れてから、しかたなさそうに倒れ伏したのだった。
「しゅーりょー。この勝負は、陽菜ちゃんとドラゴンくんの勝利でぇす」
咲弥がベエの背中に頬をうずめながら宣言すると、陽菜は「わーい!」と両腕を振り上げたのち、ドラゴンの首を抱きすくめた。
ドラゴンはいくぶん気恥ずかしそうに咲弥のほうを見やってきたが、こちらもベエのモフモフを堪能している身である。そうして咲弥とドラゴンは、おたがいに異なる相手の温もりを享受しながら、同じ満足感を分かち合うことに相成ったのだった。




