#4 図書館の秘密
ある日、館長の娘が誕生日で図書館の戸締りを任せられた。普段ならアリアもいて一緒に帰るのだけど、その日はアリアは用事があって僕一人だけだった。鍵を受け取り、みんなが帰るのを見届けて鍵を閉めようとした。けれど僕の心に好奇心と言う名の出来心、初めはちょとした気持ちだったんだ、もしも就職出来ずに家出した時に、この図書館になら泊まれる部屋が余っているかもしれない、家出先はここかも、なんて思って、ジャラジャラ重い鍵の束を揺らしながらこの図書館を探索してみることにしたんだ。
図書館の入り口の扉の鍵を閉め灯りも消した、これで外から見ても誰もいない閉館した図書館だ、初めに館長室に入ることにした。館長室の中は館長のデスクとコンピュータそれと沢山の書類と印刷機もある、このファインでは図書館長が一番の知識人で博学者として有名だ、もしかしたら何か発見があるのかもしれない、館長の本棚はこの町の歴史についての本や館長自らが書いた本が多く並んでいる、館長は特に歴史に強い、けれどこの町の歴史なんて誰でも知っている。
[200年前に神様が海からわずかな大地を人々に与えた]それがこのファインだ。でもファインの人々は神様よりも精霊が物に宿っていると考えている、ものづくりは素材から形にして魂を込めると言う神秘的な価値観がある。
もしかしたら、まだ読んでいない物語が本棚にあるかもしれない、歴史よりも物語の方が興味がある僕は、普段なら入れない書庫に入った。
夜の誰もいない図書館は不気味で、昼間はあんなに人がいて穏やかなのに今は静寂が不安を暗闇が恐怖をそそる、でも好奇心の方が不安や恐怖に勝っていてどんどん書庫の奥へと進む。
館長室から拝借した懐中電灯の明かりを照らす、僕の背の二倍はある本一つ一つタイトルを見ていくが、ほとんどが機械や産業や商業の本ばかり、この町は機械や物を作ることしか考えていないのか、、、物語は子供が読むものって先生も言っていた、もうユークタースの歳の頃にはみんな物語なんて読まなくなっていた、僕だけがこのままなのかもしれない、それでも自分に嘘を付いて本当にしたいことをしないなんて、そんなの絶対にいやだ、そんなことを考えてたらなんの取り柄も能力もないまま卒業か、僕の求めているものは空虚なのか、もうこのファインには物語は人々に必要とされていない、そう思うと、僕の居場所がまた一つ無くなってしまう様に感じる。
やっと物語のタイトルを見つけても、読んだことがある本ばかりでがっかり、僕はもう読む本も無くなって、物語さえも人々から必要とされなくなっていくのだと悲しくなった。
全ての本棚を見終えて新しく見つけた数冊の物語を館長室まで持ってきた、これを読み終えたら僕がこの町で読む本が無くなる、こんな事今まで考えたことがなった、急に見せつけられた残りわずかな自分の時間、好奇心のむくままに行動した結果、こんなにも現実を見せ付けられるなんて。
僕は心の中にある重いガラスのランタンを地面に落とした、「ガシャン」と鈍い音がなりランタンが砕け散る、僕は最後の物語を読めるように、書庫から館内の本棚にバレないように入れることに決めた。
物語なんて子供しか読まないのだからバレる心配もないのだけれど、せっかくなら僕だけが分かるようにして本棚にしまおう。そうだな並べられている本の裏なんかいいな、そして本棚の一番下の段の端の、一番奥の壁側の本棚にしよう。
隠すために分厚く大きな本を取り出して、床に腹這いになり奥に懐中電灯の光を当てる、すると不可解な事に本棚の奥に鍵穴が二つある。
こんなの推理小説でしか見たことがない、心臓が早鐘のように打ちつい口元がつい緩んでしまう、すぐさま館長から預かっている鍵の束を本棚の奥の鍵穴に差し込んだ、そうして刺さった!僕はまるで物語の中の主人公みたいな気分になった、けれどもう一つの鍵穴にはどの鍵も刺さりはしない、鍵穴を覗くとはじめに刺さった方はごくありふれた鍵穴だけれど、も一つは昔の城で使うような大きな鍵穴だった。だから僕は絶対にこれを開けてやるって思いもう一度館長室に戻った。
時計をみるともうすぐ早朝だ、早くしなければ、いくら館長が優しいからって図書館の鍵を渡すのはじめてのこと、このチャンスを逃さない手はないんだ。