【30秒で読める怪談】知らない番号
つい先日、スマホを新しくしました。
今まで使っていたのは、iPhone8。
たったの3時間でバッテリーが半分になる有様だったので、さすがに変えるしかありません。
やはり使いなじんだ機種がいいと、次もiPhoneにすることにしました。
いろいろ調べたところ、13も14も15もたいして値段が変わらないみたいで。
しかし、高いですよね。
0円携帯などといっていた時代が遠い昔のように感じます。
悩んだものの結局、iPhone15に変えたわけですが、機種変更時のデータ移行の簡単さには本当に驚かされました。
Bluetoothを使うようで、新旧2台の携帯を横に並べ、ちょこっと操作するだけでいいんです。
ものの数十分で完了したときには、Appleという会社に対し、畏敬の念すら覚えました。
ともかく、移行に際して一番重要なデータは、電話帳だと思います。
電話番号を消去してしまったら、二度と連絡がとれなくなる知り合いがたくさんいるんじゃないでしょうか。
「いい断捨離になった」との意見にも一理あるものの、私の場合は恩師などの連絡先も含まれているので、できれば失いたくないのです。
そんなわけで、移行がきちんと行われたかチェックすべく、電話帳を念入りにスクロール。
すると、見慣れない番号を見つけました。
iPhoneを持っている人は電話帳を見てほしいのですが、あ行からスクロールしていくと、アルファベットのXYZと来て、最後に#の項目が現れるケースがあると思います。
「佐藤」や「鈴木」などの名前をきちんと登録していれば、「さ」や「す」それぞれの文字項目に分類されますが、名前の欄が空欄だと#に分類されるのです。
私の電話帳には、#に分類された電話番号が一つだけありました。
090から始まる番号。
まったく記憶にない番号で、その番号のメモ欄を見ても何も書かれていません。
悪質なワン切りでしたら、ネットで番号を検索したらわかります。
でも、何の情報もヒットしませんでした。
大昔にかかってきた番号で、私が知らないうちに登録してしまったのかもしれない。
さっさと削除しようか。
そう思ったものの、万が一にも大事な人の番号だったら。
消すのはいつでもできる。
でも消してしまったら、iPhoneを復元したりしないとダメでいろいろ面倒だ。
こちらから一度電話をかけ、知らない相手だったら「すみません、間違えました」と謝ればいいだけ。
そんなふうに思い、試しにかけてみることにしました。
夜10時ごろでした。
プルルル……
プルルル……
プルルル……
出ません。
もう一度、かけてみます。
プルルル……
プルルル……
プルルル……
出ません。
心のどこかでホッとして、電話を切ろうとしたとき、相手が出ました。
『……』
何も聞こえません。
無言です。
かけたのは私ですから、ドギマギしつつ事情を説明しました。
「あの、私は◯◯という者で、電話帳にこちらの番号が載ってまして、どなたの番号か確かめ……」
『……し……』
聞こえます。
何か言っています。
「すみません、よく聞こえなくて」
耳にスマホを強く当てると、小さな声が聞こえてきました。
『…………みろ…………うしろを…………みろ……』
危機察知能力でしょうか、それとも生物としての本能でしょうか、このとき私は後ろを振り返りませんでした。
心の中で懸命に「あっちへ行け! あっちへ行け!」と唱え続け、目をつむってベッドに潜りこみました。
もちろん一睡もできません。
永遠に思える時間が過ぎ、おそるおそる布団から顔を出すと、いつもの私の部屋でした。
窓から日の光がさしこんでいます。
異変はありません。
でも、ホッとできたのは一瞬でした。
iPhone15の画面に、着信84件を示すマークがついていたのです。
目の前が真っ暗になりました。
今、15はデータ元の8とともに、お祓いで有名な神社にあります。
電話帳は0件になりましたが、命にはかえられません。
あのとき振り返らなくて、本当に良かったと思います。