覆面小説家の憂鬱
私は趣味で小説を書いている自称小説家。
公募に何度か投稿しているが、まさしく「かすりもしない」が続いている。
もうそろそろバカな夢を追うのはやめようと思いかけていた。
そんな矢先、ある投稿サイトで、「覆面小説フェア」を開催していると掲示があった。
特に参加資格はなく、サイトのメンバーであれば誰でもOKらしい。
私はこの参加を最後に小説を書くのをやめようと思い、参加申し込みをした。
そして私は一編の短編小説を書き上げた。
仮名を考え、投稿する。
参加者は全部で二十名。あまり他のメンバーと交流がない私は、他の作者の作品を推理するなんてできず、全く普通に読者として読み、感想を寄せた。
推理サイトにアクセスし、他の人達の分析を読んでみる。
なるほど。読点の癖とか、言い回しの癖とか、いろいろあるものなのね。
今まで自分の癖など全く意識した事がないので、それはそれで勉強になった。
そんな他人の推理を読み進めているうちに、私も分析をしてみようと考えるようになった。
この作品はあの人かな? でも、成り済ましの可能性がある。
これは間違いなくあの人だ。癖を隠そうとしているけど、語尾の「のだ」が頻繁に使われている。
そして改行をあまりしていない。
そんな事に気づき始めると、推理が楽しくなって来た。
そんな中、ある事に気づいた。
私の作品だけ、誰も推理してくれていない。感想も寄せられていない。
何だか悲しくなった。
確かに他の人達の作品は、どれも練り上げられたもので、とても太刀打ちできないものだけど。
酷評でもいいから、何か言葉が欲しい。
そんな思いを抱いた。
そして数日後。
私の作品をようやく推理してくれた人がいた。
全然わからないらしい。しかも、全く別の人と判断している。
これは喜んで良いのだろうか? 何となく落ち込む。
その人は感想欄にも書き込みをしてくれていた。
うーん。私の思い描いたのとは違う解釈だ。
仕方ないとは思うけど、残念だな。
でも、評価は良かった。酷評じゃないだけマシだと思った。
更に数日後、遂に推理の締め切り日が来た。
私の作品は最後まで誰も当ててはいなかった。
これは凄い事なのだろうか?
寂しかった。私の事を皆知らないだけなのだ。
だからわからなかった。
今回のフェアで覆面を被り通したのは、私ともう一人だけだった。
もう一人の人は、この企画の常連で、いつも意外な作品を書いて逃げ切っている人だった。
彼は皆の賞賛を浴びていた。
えっ?
その時、初めて気づいた。
「あのファンタジーを書いている人とはとても思えないくらい強烈なホラーでした」
そういう感想が、私を賞賛する言葉の中にあった。
「そうそう、全然わからなかった。文章も全く雰囲気が違うし。凄い人です」
そんな……。
今までマイナスな事ばかり考えていた私が、初めて抱いた感情。
「小説書いていて良かった……」