空に住む人
僕は空が嫌いだ。
遠く手が届かない空が嫌い。
昔の人は空が落っこちてくると怖がったみたい。
いっそのこと落っこちてくれないかな。
そうすればみんな一緒になれるのに。
ふわりふわりと身体が浮く。
後ろを振り向くと、身体が浮いていて、僕の町は小さく見える。
これは夢なんだと思った。そうじゃないと空なんて飛べないから。
僕はもう振り返らなかった。
空の上へどんどんどんどん泳ぐように掻き分けて行った。
飛んでいた鳥が驚いて逃げていく。
飛行機だって、追い抜いていく。
ちょうちょやハエも、追い抜いていく。
かあちゃん、かあちゃん
「あらま、来ちゃったの!?」
あらま、というのはかあちゃんの口癖だ。
僕は母ちゃんにしがみついた。
もう絶対に手を離さない。
「泳げもしないのに困った子だね」
もういつの話をしてるんだよ。
かあちゃん、かあちゃん、あのね。
とうちゃんはしんでしまった。でも天国へはいないんだって、みんなそう言ってる。
だからせめてかあちゃん。
一緒に暮らそうよ。かあちゃん。
「全く、弟の世話はどうするんだい。またサボってばかりで。そんなこと言ってないで、さっさとお帰り」
かあちゃんかあちゃん。
「かあちゃんもいつかそっちへ行くから」
本当? 本当に?
「また会えるから、がんばってねお兄ちゃん」
安心した僕は、身体が透けて、僕の住む町へと戻っていった。
とってもまっさおな、青い町へ。