表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

第6話

能力を把握している合間、森丘の下、背の長い木々がひしめく森にやってきた。


木漏れ日が所々から出ており、神秘的な感じがする。




ここへやってきた理由は、


影をうまく扱いための訓練と狩りを行うためである。




腹の具合から、早速狩りへと赴きたいところだがその気持ちを抑える。




先に「影の獣」と呼称しているものについて、


うまく扱うためにいくつかのパターンを通して、行動の観察をすることにした。




一つ目は、召喚したのち特に命令などすることなく周辺を散策した場合。


この時は周りを取り囲むように追従し、なにか生き物を見つけた場合でも、


これに攻撃する意図を感じない限りはそれに注視するのみだった。




次に、「獲物をさがして、見つけた場合は二度吠えろ」という命令をした場合。


これを数匹いるうちの半分に行う。命令を下した影の獣は、


一目散に森の中を駆けていき見事に鹿を発見し、二度吠えた。




次に、「獲物を見つけて、二度吠えたあと、獲物を仕留めろ」という命令。


これは少しやりすぎた結果となってしまった。


それは、目につくものを辺り構わず仕留めていってしまったのだ。




急いで命令を止めたが、


いくつかの小動物に、全長1mほどの蛇と、野生の大きな鶏が狩られてしまい、


そして、そのすべてが影によって取り込まれてしまった。




蛇や鶏は食料として申し分なく、正直取り込むのをやめてほしかったが、


時すでに遅く「やめろ」と命令したが、止まることはなかった。




その後、「取り込むな」命令に付け加えてたうえ、


さらに鶏を1羽と蛇を1匹と対象と数を絞り狩りを行わせた。




結果は条件に関しては問題なかったが、


仕留めたあと、再度、影は獲物を取り込んでしまった。




なにか条件があるのだろうが、それがわからない以上、




(工夫して命令しないと、なんでも飲み込んでしまうな・・・・・)




と反省と今後の扱い方を考えながら、取り込まれていく蛇と鶏を眺めていると、


ふとゲーム内に存在したモンスターを思い出す。




(鶏と蛇・・・・・そういえば「コカトリス」なんてモンスターがいたっけな)




この世界にもやはりいるのだろうか。とそう考えていた時、


二匹の獲物を取り込み終えた影が動き出し、形成していく。


そして、作り出されたのは、見事な黒いコカトリスのようなものだった。




これが可能ならばと、あるイメージを影に伝える。


手前にいた影の獣と、影コカトリスはドロドロと溶けて泥状になり、


まとまるり形成を始め、狼の頭と体、鶏の足と羽、蛇の尻尾という、


イメージした通りの立派なモンスターが生まれた。




(うーわっ・・・・・)




と自分が作っておいてなんだが、気持ち悪す過ぎて引いてしまった。


かなり無理な形に見えるが、形を保ち安定している。




ここから考えられるのは、


イメージした大元になるものが取り込まれていた場合、


ある程度、自由に形をつなぎ合わせても、形状を保つことが可能ということ。




(これは、なにかに役立ちそうではあるが・・・・・)




と複雑な気持ちになったため、手で払うようにして影に戻す。




(本当に応用の利く能力だな)




と感心ついでにもう一つ、


影の能力について確かめなければならないことがある。


先ほどの観察の通り、影の獣に狩りをさせるとその獲物は影に取り込まれる。




それならば、


影を纏った武器で獲物をしとめた場合はどうだろうかと、


昨日の戦いの傷が色濃く残るボロボロのハンティングナイフを取り出し影を纏わせ、


黒いナイフに早変わりさせる、それを見ていると、




(これもある程度の形状変化が可能なのか)




と刃の部分を少し延長してみようとする。


ショートソードほどの長さとなり、刃先もそれなりに尖っていることを確認する。




そのまま森を散策し、大きな猪を見つける。


素早く、そして静かに近づいて、ナイフを一振り。


見事な切れ味で獲物をしとめ、猪は大きな音を立てて倒れる。




少し待ってみたが、影が動き出し、取り込まれる様子はない。


それを確認し、ナイフに纏った影を元に戻す。




(ここでの確認したいことはとりあえず終わった)




と一呼吸し、今日の狩りの成果をまとめていき、




(残りの確認は、食べながらでいいだろう・・・・・)




と腹の虫と、口に溢れるものを抑えて、森丘へと帰路に着いた。




(手持ちのアイテムに、火打石があったの幸いだった。そうでなければ、火種を作るところから始めないといけなかった)




と猪を、上手に焼きながら、しみじみと思う。


サバイバルは好きな分類とはいえ、火おこしは重労働には違いない。


それをせずに済んだことに、ほっと胸を撫でおろした。




(まぁ、火を使う呪文を一つでも覚えていたらこんなこと悩むこともないだろうが)




とも思ってしまうが、肉の焼けるいい匂いがそれを誤魔化してくれた。




「うまいっ!」




誰かに伝えるわけでもないが、口をついて言葉が出てきてしまう。


それほどまでに空腹に、焼けた猪肉を放り込むという行為は格別だった。




(まぁ、本音を言えば最低限、塩と胡椒ぐらいは欲しかったが・・・・・)




と隣に広げられたアイテムを見つめながらそう思う。




持ち合わせていたものは、


杖にナイフ、ベルトに取り付けられた革製ポーチ、その中にあった回復のポーションが3つと火打石、小袋にぎっしり入っていた金貨に、着ている衣服一式。




金貨に関して言えばとてもありがたい。


人里に行くことができれば使用することも可能だろう。




だがそれ以外の装備はあまりにも貧弱すぎる、これでは小旅行も不可能だろう。




と不平満々だが、現状の把握はこれで終了。




(今後、どうしていこうか・・・・・)




と思考を巡らせてみる。


特に思いつく目的も、目指すべき目標ない・・・・・が、




(ここにいるのはよろしくない)




昨日の戦いしかり、現状の心許ない装備しかり。


そして旅をするにも、どこかに住むにも、とりあえず色々と見て感じるほかない。




(今後の方針は街にでも行って考えよう。ゲームの知識を思い出すことあるかもしれない)




と考えをまとめ、残っている肉を口に運んでいく。




腹を満たし終えると、立ち上がり伸びを一つ。


その後、少ない荷物をまとめていく。




目覚めた後からの記憶を反芻していく。


いま生きているのが不思議なくらい様々なことの連続だった。




(今後は生き残れるだろうか)




と一抹の不安を覚える。




(ともするとあっさり死んでしまうかもな)




と気持ちが下へ引っ張られてしまう。




だがそれ以上に希望もある。


自分はもう「死神」ではない。ゲームのアバターの「マヤ」である。




ならば「マヤ」という人生は誰かに恐れられるのではなく、


誰かに頼られ、親しまれるそんな生き方ができるかもしれない。


そんな、恥ずかしくておいそれと口にできない思いを胸に森丘を下って行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ