第5話
まずは確認といこう。
「マヤ」にセットされたヘキサグラムスロットは、
メインの「月」と「太陽」それと「魔術師」。
サブには「聖杯のナイト/剣のペイジ/杖のクイーン」の3つ。
メインのカードの能力を解説でもしたいが、詳細はぶっちゃけ覚えていない。
うすぼんやりと残っている記憶では、「月」と「太陽」はそれぞれ、
サポート職にとって重要なメインカードであり、セットしたサブカードも、支援魔術をより効果を高めるためのものだった・・・・・ような気がする。
たしか、「太陽」は祝福系と呼ばれていた。
よりゲーム的に説明すれば、物理系の攻撃や防御のステータスを参照し、
その最大値の何パーセントかを上昇させるようなスキルを多数使用できた。
それに加え、物理攻撃の与ダメージを上昇、物理防御の被ダメージを軽減させるバフなども行えた。
対して「月」は加護系と呼ばれ、
魔法攻撃や防御に関するサポートとバフの付与がメインになる。
また、魔法攻撃の与ダメージの上昇と、魔法防御の被ダメージを軽減させるバフなども行えた。
ついでに「魔術師」もと言いたいが、覚えているのは、
魔法系統のジョブに必須なカードということ、魔法効果をアップさせる能力や、
セットしたサブクラスに沿った、
基本的な攻撃魔法の習得などが出来た‥‥‥はず。
まぁ、とにかく支援職を目指すプレイヤーには、
「太陽」と「月」、この二つは必須のカードだ、ということだ。
だが、このどちらか一方を選ばざるおえなかったのだ。
理由は単純明快、
この二つを同時に持ち合わせたジョブが存在してなかったからだ。
そしてなぜ存在しないのか、
その理由も単純で、支援魔法をかける必要のないとき、支援職はどうしても手持ち無沙汰になる。その状況はプレイヤーも、パーティーを組んでいる他プレイヤーも望んでいない。そのため、物理系か魔力系かのサポートに特化させ、使用できるスキルの選択を絞らせる。その代わりにDPSを出せるようにした。
その結果ジョブをセットする前提では、
支援職のプレイヤーは物理系と魔法系、両方のサポートも行うことができなかった。
このゲームを普通にプレイする分には、その不便さも楽しみの一つだろう。
だが、特異なプレイヤーにとっては地獄の選択であり、そうした経緯から「マヤ」は誕生した。
少し話が逸れてしまったが、なにが言いたかったのかというと、
昨日起きた現象と、「マヤ」にセットしていた各カードの能力が一致していない。ということだ。
だが、恥ずかしながらゲーム知識がかなり薄いため、
「そういった能力はなかった」と断言できないのが痛いところではある。
つまりはこの世界に来た影響で得たものなのか、
元々そういった要素があったのか、皆目検討がつかないというわけだ。
だが、少しだけ思い出したこともある。
それは「影法師」という影を操る下位職のジョブがあったこと。
だが、例に漏れず、詳しい能力は分からない。
が、ここがゲーム世界に準じた現実であるのだから、
いずれそのジョブを取得した人にも出会えるだろう。
そうした時にでも、聞いてみればいい。
(もしくは、どこかに魔術記した書物などが存在している可能性もある。
見つけた時には、それを読んでみるのもありだな・・・・・まぁ、読めればだが。)
と一旦思考をまとめる。
魔法といえば、先の戦いで思い出した現在、唯一使用できる魔法「ヘイスト」。
効果は、一定時間かけた対象のの物理系のステータスを高めること。
(だが昨日のアレは、今にして思えば過剰だった。)
と思い至り、何度か自分に掛けてみてその理由が分かった。
非常に感覚的なものだが、
「ヘイスト」を唱えた時、体の内にあるエネルギーが外へ流れる感覚がある。
それを調整をすることで、「ヘイスト」で得られる効果を増減させられたのだ。
つまりはその時々に合わせて「ヘイスト」で得られる効果を調整し、
過剰なエネルギー消費を減らせるということだ。
そして、エネルギーといえば、自分の影から現れる獣。
その出現中は、エネルギーは消費されるのだろうか。
と疑問に感じて、先ほどから獣を数匹、森丘の開けた草原に出してみているのだが、
どうにも、消費されるようなそんな感じは受けない。
「・・・・・・うーむ。」
ひざを曲げ、獣の視線に合わせて観察してみる。
よくよく見れいればカワイイ・・・・・とは思わない。
先ほど述べた「影法師」という影を操る能力を持つ下位職のジョブについて、
詳しい知識がない以上、自分で調べてみるしかないと目の前にいる一匹を撫でてみる。
感触は、その見た目から再三思っていたことだが、
やはり泥のようで、さらに指に力を入れると入れるとそのまま中へ入っていく。
「コツンッ」と硬いものを感じる。
細く長いそれを掴み、感触を確かめてみると骨のようだった。
そしてそれは、変な感じだが妙に温かい。
骨から手を放し、
それからそのまま数秒、獣の中に腕を入れたまま、
左右に腕を振ってみたりしたが、特に目新しいものはほかにはなかった。
外へと抜いてみると、泥のようにあちこちに纏わりついている。
その腕の手を広げてみてみるちょっとした動作してみると、
腕に点々とついていた影は、動き出し手のひらにまとまる。
その一連の動きに、ふとひらめく。
イメージをする。
手のひらに集まった影が腕全体に広がりガントレット状になる。
そんな想像してみると、その通り腕に黒いガントレットが形成されていた。
触れている感じからして、硬い。
試しに、足元に転がっていた小石を殴りつける。
パキッ
腕に小石を感じさせることもなく、という音と共に粉々に砕けた。
(これは、いろいろと応用が利くかもな・・・・・)
と様々な、イメージとともに影をコントロールしていく。
剣、槍、斧といった単純な武器をイメージしてみた。
だが、どれも失敗してしまう。
最初は、影はドロドロと溶け、想像したものへと形を変えていく。
形成に成功し、手に持ってみるとひどく脆く、崩れてしまう。
試しに、手元にあった杖にまとわせてみると成功する。
そのまま硬くなるイメージを持つと、その形状のまま硬質化した。
この一連の実験をまとめてみる。
この影はかなり応用が利き、様々な形状に形を変えられる。
そして、物質にまとわりついていれば硬質化して、
その物質の本来の耐久性を、より高く保つことができる。
逆に言えば、物質にまとわりついていなければ、
形は保てずドロドロと溶けてしまう。
そして、一つの別のものの結論が出る。
影の獣に目を向ける。
(この影の獣たちは、昨日の戦いで影に取り込まれた、
狼の死屍累々の骨を元に形状を保っている、ということだ)
それならば、
(屍にあった肉や毛皮などはどこに行ったのだろうか?)
ふと頭を過る疑問は、考えなかったことにした。