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第2話

目の前に現れた狼の顔をした二足歩行する生き物。


寓話でも語られ、ゲーム内にも存在した「人狼」が目の前にいる。




圧倒的な巨躯と大木を思わせるほどの肉体。


叫びたい気持ちを必死に抑え静かに深呼吸を行う。




目の前にあるすべてが現実じゃないように感じるが、


鼻をつんざく獣の臭いと背中に伝わる嫌な汗。




彼は、これが夢じゃないと理解した。




(とりあえず、いろいろと考えるのはここを乗り切ってからだな)




と頭を切り替える。




ここがゲーム世界に準じた現実だという前提のもと、


その格好から使用していたアバター「マヤ」というキャラクターだと判断する。




「Stars Each」というゲームは多くの要素をタロットから引用していた。




(「マヤ」にセットしていたカードは「太陽/月/魔術師」)




それなら、3つカードの能力が備わっているかもしれない。




それがこの現状を解決する糸口になるはずだが、


6匹の狼と1匹の人狼に対峙しているこの状態では確かめている余裕はない。




そのため手に持つこの1本の杖のみが、


この場で対抗できる唯一の手段であると彼は判断した。




数秒のにらみ合いののち、一匹の狼がこちらに向かって跳んでくる。


迫ってくる狼を片手に持った杖を振って牽制しながら後退しつつ回避する。




長年の癖から右わき腹に手を当てる。




すると「カチャッ」と音を立てる。


なじみのあるその感触に、躊躇うことなく素早い動きで鞘から抜く。




彼は視線のみ動かし確認すると、手に握られていたのは思った通りナイフであった。




(これはハンティングナイフか)




戦闘に使用するためのモノではなかったがこの場にあっただけでも儲けものだ。




杖を横において、片手でナイフを素早く構える。




「ふぅー」




と息を吐く。




(今まで色々経験してきたけど、今が一番イカれているな)




皮肉を心の中で呟いたあと、


気を引き締めるようにナイフの柄を握り直す。




獣たちの下に視線を向けると、


先ほどからジリジリと距離を詰めてきていることが分かる。




刺激しないようにゆっくり一歩下がる。


すると相手はゆっくりと距離を縮めてくる。




すると痺れを切らした狼の一匹が、




「ガヴゥ!」




噛み付こうと口を大きく開けたまま勢いよく飛び掛かってきた。




それを上体を逸らし避けながら、


狼の首筋を狙って手に持っていたナイフの刃を横に引く。




「キャゥ」




浅かったものの着実に怯ませる一撃が入った。


だがそれを皮切りに狼たちは既に飛び掛かってきていた。


入った一撃のその感触を確かめる間もなく、対応を迫られる。




上体はすでに大きく逸らしている。


姿勢を一度戻しては間に合わないと判断し、


しゃがみ込むように態勢を低くする。




狼はその上を勢いよく通り過ぎる。




次に、足に噛み付こうとしているところを、


反対の足で蹴り上げる。その勢いのまま遠心力により半回転する。




足に、手に、胴に、次々と狼たちは噛み付こうと、肉を切り裂こうと、


次々に攻撃を仕掛けてきたがそのすべてを避け、蹴りやナイフで応戦する。




あることに気づく。




この止めどなく行われる追撃に対応し反撃さえしている。




(なんだこの感覚は?)




と普段とは違う戦闘での違和感に疑問を感じる。




すぐにその正体に気づいた。




(普段より動きのキレと反応が圧倒的に早いな)




それはこの戦闘において、


今までの一連の体の動きと反応が、


おそろしい速さでこの肉体で行えていることの発見であった。




狼は、幾度となく繰り返し強襲を仕掛けてくる。


体に噛み付こうと大きく開きかけたその口を左手で塞ぎ、


右手に持ったナイフで喉を突き刺しそのまま胴体まで切り裂いた。




絶命した狼の屍を放り捨てた。


さっきまであった緊張はすでに解けている。




力を抜いた態勢で、


眼前の敵を見据えると、先程までの威勢は狼達にはなかった。




こちらが一歩前進すると、狼達は一歩下がる。


まるで先程とは真逆の立場となった。




地面を蹴りあげ狼たちに跳躍し一気に距離を詰める。


手前にいた狼目掛けてナイフを振り下ろす。




突然の跳躍と、素早い斬撃に、


反応が遅れた狼は唖然としてもはや眺めることしかできていない。




2匹目を早々に討ち取れると確信した時、


剛腕が振り落とされ大きく空気が切り裂く音がした。


地面が抉れ、土埃が宙を舞う。


それが先ほどまで静観していた人狼が仕掛けてきた合図のようであった。




「さすがに見逃してはもらえないか・・・・・」




人狼へぽつりとつぶやいた。


もちろんだが、相手はそれに答えない。




えぐれた地面に目をやる。




クレーターのようになっており、大きな爪痕もある。




(これが当たっていたらどうなっていたかな・・・・・)




と冷汗がたらりと額から落ちる。




「ふぅ・・・・・・」




さっき狼を攻撃しようとしていた時、


目の端で大きな巨躯が見え咄嗟に地面をけり上げ、素早く回避できた。




(ふぅー、今のは危なかったな)




と胸を撫でおろしたい気分になった。




(とうとう本丸が参戦か)




そんな状況にあって、彼の心は高揚している。




いつの間にか彼は、


この肉体のどこまでいけるのか試したくなったいた。

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