Ⅳ 運命 -24
「お前のせいだ」
「うん」
「ああ、本当にやめとけば良かった。なんで俺は」
「悪かったって」
燦と隼は、一旦奥へ戻っていった。それから、良のボヤキは止まらない。国王と王妃への謁見があると聞いてからは、怯えだした。
「国王と王妃って……おっかない。嫌だ、俺はいかないぞ」
愁傷に謝っていた昂は、いい加減ばかばかしくなった。
「意外だな。良がそんなに王様たちにビビるなんて。案外、権力者とかに弱いんだ」
「うるせぇ、普通だ普通。善良な一般庶民は、皆こんなもんだ」
「……善良な一般庶民」
善良な一般庶民の認識を改めなくてはならないかもしれない……昂が呆れていると、彩が良のところに来て、座っている良の足の間に座り込んだ。
「わたしは良とまだ一緒にいられるから嬉しい」
良は泣きそうな顔をくしゃくしゃにした。
彩は男を手玉に取る才能があるかもしれない。昂がそう思って見守っていると、良は感極まったように呟いた。
「嬢ちゃん……」
何となく危惧を覚えて、昂は彩を呼んだ。
「彩、こっちにおいで」
昂が呼ぶと、彩はあっさり良から離れ、昂の隣に座った。
「なんだよ」
良が面白くなさそうに、昂を睨む。
「いや、別に」
昂は素知らぬ顔で、良から目を逸らした。
大切な妹は俺が守らなくては。
「昂、全部教えておいてくれよ」
良が急に真面目な声で言い出したので、昂は一瞬、まじまじと良を見つめてしまった。
良が眉をひそめて、怪訝な顔をする。
「お前が俺に隠していることだよ。俺のことを案じて言わなかったみたいだけど、お前たちを守れと言われた以上、知っておいた方がいいだろう?」
気が付いていたのか。
昂は先ほどまで下げ続けていた、良への評価を反省した。
そしてなんだかんだ言って、自分たちを護ってくれる気になっていることが、素直に嬉しかった。
「俺たちは針森っていう村から、人を探しにガザに来た」
針森の村を知っているか、という問いには、良は首を横に振った。
「その途中の緑銅という町の、狼公っていうやつの館で、燦……王女様と出会った。狼公に捕まっていた彩を、一緒に助けてくれたんだ。それから途中まで一緒に旅をした。蒼碇でまた俺たちがポカをして捕まっちまうまでな。そこでまた燦に助けてもらうんだが、実は王女様だったっていうのは、その時知ったんだよ」
概略だけしゃべってみたが、良は瞬きをするだけで、何も言おうとしなかった。
「良?」
不安になって、昂が首を傾げて伺うと、良の目はやっと昂を見た。
「本当か、今の話」
昂は肩をすくめて応じた。
「嘘言ってどうするんだよ」
それから決まり悪そうに笑った。
「俺はどれがしゃべってもいいことか分からなくってさ、結局何も言えなかったんだよ」
昂が言うと、良はすごい勢いで、何度も首を縦に振った。
「そりゃそうだ。どれも言わなくて正解……って、今知っちまったんだが」
王女様も結構お転婆なんだな。
良の独り言を、昂は不思議に思いながら聞いた。燦がお転婆?森では何もできなかったから、やはり町の子だなとは思った。崑獏の屋敷で会った時は、労わってくれた優しさに感動もしたが、お転婆だという印象は、昂にはなかった。
「で、誰を探しているんだ?」
良は気を取り直して、質問してきた。
「うーん、多分なんだけど……」
昂が言いかけた時、扉が叩かれた。
昂が扉を開けると、最初に案内してくれた男が、恭しく言った。
「王妃様がお会いになるそうです。こちらへ」
昂と良は顔を見合わせた。
「ええっ、もう?」
「やっとか」
呟いた言葉は違ったが、二人は同時に立ち上がった。




