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暁の皇子  作者: さら更紗
Ⅰ 孵化
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Ⅰ 孵化 -9

 


 昂は暫く冴えない日々を過ごした。

 あの日は夕飯も食べに行かず、朝まで眠ってしまった。誰も何も言いに来ず、夜中に部屋に入って来た陽と夕も、こそこそと自分の寝台に入って、すぐに寝息を立てていた。

 何となく見捨てられた気分になったが、これが信の言う、甘えているということなんだろうな、とまた落ち込んでしまった。

 そんな調子で、皆はあれ以来、昂に何も言ってこないのに、自分で勝手に自己嫌悪に陥っていた。ぐるぐると回る自問自答に、結局いつまでたっても答えは出ない。誰も助けてくれないと思ってしまい、また自己嫌悪に陥る。

 キースだけが、都に戻る日昂に耳打ちしてくれた。

「信ってホント怖いよな。無駄に怖い。あんまり気にするな」

 はっきり言って、この件に関してキースは部外者だが、それでも昂の心は少し軽くなった。



「うまくいったらしいよ」

 昂の隣で、萌は熱くなった体を夜風で冷やしながら、嬉しそうに言った。

「え?」

 昂は少しぼんやりしていた。慌てて聞き返す。

「今日はなんだかぼうっとしてるね」

 さほど気にしている様子もなく、萌が言った。

(りょく)と拓だよ。大人になれたって」

 はなまつりの時、拓の相手だった緑と萌は仲が良い。

「そうか、よかった」

 昂は拓がスープをかき混ぜていた姿を思い出して、心から親友を祝した。

 もし、当人同士で埒が明かなければ、年上の人に大人にしてもらうこともある。逃げられた方は、当然格好悪い。

 緑が気が短くなくて良かった、と昂は感謝した。

「で、なんでぼうっとしてるの?」

 女というのはよく気が付く。そして、ごまかさせてくれない。

「萌はさ……生業決めた?」

 仕方なく、昂は萌に話した。

「ああ、それか」

 合点したように、萌が笑う。

「わたしは拾い師だよ。母の跡を継いでね」

 やっぱりか。しっかりしている萌が、決まっていないなんて、ありえない。

「わたしは針森にいたいからね」

 フフフ、と不気味に笑って、昂を見る。

「それで、おじいちゃんみたいに、子どもたちにキノコの見分け方を教えるの。間違った子には、すっごい怖い顔で怒鳴り上げるの」

 楽しそうに言う萌に、昂は納得する。確かに、萌には拾い師が似合いそうだ。

「でも、昂って似合いそうな生業がないよね」

 突然自分のことを言われて、昂は目を二、三度パチパチ瞬いた。頭の中で、萌が言ったことをもう一度繰り返す。

 合うものがない?

「しっくりくるものがないっていうか」

 萌は正しい言葉を探すように、視線を彷徨わせている。萌の言葉で自分がしっくりきたことを伝えなければと、昂は考えるより先に口が動いた。

「そう」

 答えると、パッと萌がこちらを向いた。

「生業を外に見つけに行くってありかな?」

 思いついて言うと、萌は楽しそうに言った。

「いいんじゃない?わくわくするね」

 簡単なことであるように、無邪気に言う萌に昂は覆いかぶさった。ぎゅうっと抱きしめる。少し力を緩めて、唇を合わせると、萌はくすぐったそうに言った。

「もう一回する?」

 昂はそれには答えずに、萌の可愛らしい乳房に吸い付いた。


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