Ⅳ 運命 -16
「あれ?なんで?俺?」
暴漢に囲まれて、昂は戸惑った。
隣に立つ良を見上げる。
「え?良の?」
昂が訊ねると、良はフンと不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「狙われる覚えはねぇ。それにこいつら、ただの暴漢じゃないぞ」
男が六人、一言もしゃべらず二人を囲んでいる。
ただの暴漢は脅し文句や嬲り文句を、ひっきりなしに口にする。
無駄口をきかないのは……
「お前ら隠密か」
良はそう呟き、ギロリと昂を睨みつけた。
「やっぱりお前、訳ありだろ」
「知らないよ。俺はただの……」
言葉を探していると、一人が前触れもなく襲い掛かってきた。
慌てて身をかがめて相手の脛を蹴る。
相手の動きは一瞬止まったが、それで体制を崩すようなことはなかった。
続けて繰り出された拳を、すんでの所で躱した。
ヒュッという音を顎先に感じて、肝を冷やす。
それにしても、どういうことだ。崑の復讐か?それとも燦に関わったからか?
理由になりそうなものは浮かんでくるが、どれも納得がいかなかった。崑獏のことは、崑の役人も対処したことだし、第一わざわざ全輪で襲う理由がない。燦に関わったといっても、狙われるほどの関わり方をしたわけでもなかった。
それにこいつらは……
「殺す気はないみたいだな」
腕を組んで眺めていた良が、ニヤリと笑って腕を解いた。目がキラキラしている。生来、暴れるのは好きなのだろう。
向かって来た一人を正面から受け止めて、その鳩尾に拳をたたき込む。敵はぐえっと声を上げた。
「おおっ、やるじゃん」
敵から逃げ回りながら感嘆の声を上げる昂に、良はまんざらでもない顔で応じた。
「言ったろ、自分の身くらいは守れる」
そう言うと、かかってきた相手の鼻っ柱に、正確に拳をめりこませた。
肉弾戦だな。
昂は半ば呆れて、感心した。
正確な歳を聞いたわけではないが、昂の見立てでは、このオッサンは五十を超えている。
素手であれほどの拳を使っても、手が耐えうるのは、日ごろから戦っている証拠だ。
昂が良に見とれていると、背後に気配を感じた。
しまった!
そう思った瞬間に背中に衝撃を受けた。
くそっ、傷が治ったばかりなのに!
痛みをこらえて振り向くと、手刀が振り下ろされるのが目に入った。
半身をひねってやり過ごすと、そのまま腰を落とし、肘打ちを相手の腹に打ち込んだ。
敵はよろけて崩れ落ちる。
どこからか合図の笛が聞こえてきた。
六人に男たちはよろけながらも、潮がひくように消えていった。
「何だったんだ、ありゃ」
良は呆れたように、敵の消えた路地の先を見ながら呟いた。
それから昂を胡散臭そうに見て言った。
「やっぱり、お前のだろう?」
「知らないって」
その声が、先ほどよりは自信のないものになっていることは、昂も感じていた。




