表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暁の皇子  作者: さら更紗
Ⅳ 運命
84/151

Ⅳ 運命 -12

 


「隼!隼!」

 呼ばれて、隼は上を見上げた。

 はるか頭上、城の高窓から、手が降られるのが見える。

 隼が気付いたのが分かると、その手は手招きに変わった。

「こっち来て!」

 一応、声は潜めたいらしい。かすれたような声が聞こえてきた。

 高窓の下、城門へ続く小道を通っていた隼は、げんなりしながら、了解するしかなかった。ぶつぶつ文句を言いながらも、塀やら木やら足場を見つけ、ひょいひょいと上っていった。

 最後に、なじみの木を上りきり、呼びつけた主の部屋の高窓の外に腰掛けた。

「……なんで、俺は毎度こんな泥棒みたいなことをしなきゃならないんですかね」

 隼がそう抗議しても、燦はどこ吹く風。ねぎらいもせずに、隼に突っかかった。

「隼が報告に来ないからでしょ」

 どうしてこの姫は俺に対してだけ、こうも遠慮がないのか。他の人には人一倍気を遣うくせに、その半分でも、俺に気を使ってほしい。

 隼は恨めしく思いながら、これ見よがしにため息をついた。

「で、昂と彩は?全輪に来た?」

 哀れな下僕のため息は聞こえないらしい。燦の容赦ない詰問に、しかたなく隼は業務報告に移った。

「少し前に全輪に入ったようですよ。今は左岸の宿にいるようです」

 二人が全輪に来たと聞いて喜びかけた燦は、そのままの顔で眉をひそめた。

「宿にいるの?何日くらい?」

「三日くらいですかね」

「三日?何をしているの?」

「王宮への商いの段取りをつけているようです」

 隼も不思議だった。崑とのいざこざがあった以上、右岸を避けたのは合点が行く。

 しかし「凛」に会うことが目的である以上、王宮へまっすぐ来ることが最短だし、最善だ。彩には「凛」が誰だか伝えたし、昂は教えなくても分かっていたと隼は思っている。

 燦というつながりを得られた以上、直にここに来ると思っていた。

 だが先日宿屋の食堂で、販札も知らずに王宮に商いに行くと言って、ひと騒動起こしたらしい。今は正体不明の商人に付いて、いろいろ商売のことを教えてもらっているようだった。

 昂たちが商売をしに来たわけではないことを、隼はよく知っている。

 燦という渡りをつけられたことに気が付いていないのか、いや、そんなに頭の鈍い奴ではなかった。

 隼としても、探りにくかった。あまりしつこく昂の動向を訊くと、どうしてそんなにあんな少年に興味があるんだと、向こうに興味を持たれてしまう。全輪は各地各国の隠密が集まって情報を探っている。目立つことは出来なかった。

「金髪の皇子かもしれない少年」がここにいることは、隠しておかなくてはならない。

 しかし王宮に連れてくることも、憚られた。厄災の種を自ら連れてくるわけにはいかない。本人が知らずに城に来るのと、城の者が自ら連れてくるとでは、後々意味が違ってくる。

「姫さまは陛下や凛さまと話は出来ましたか」

 無言になった燦を見て、隼は話題を代えた。親子三人の時間を、隼はもちろん見ていない。

 燦は頷いたが、隼をチラリと見て、意味ありげに笑った。

「昂と彩のことは言ってないよ」

「え?」

 驚いて、隼が聞き返すと、燦は馬鹿にしたように鼻を鳴らした。

「おまえ、わたしが何も知らずにしゃべっちゃうと思っていたでしょう」

「……思いました」

 隼は素直に認めた。昂と彩が針森から来たことは、本人たちが言っていた。凛王妃がアウローラ公国の巫女姫だったことは公表されているが、針森出身であることは知られていない。王妃自身が針森に災難がふりかかることを恐れて、公表しないよう命じているからだ。

 だが、知っている者は存在するし、娘である燦にまで、隠し通しているとは思えない。

 燦が母親である凛のことを、「母上」ではなく、「凛」と名前で呼ぶのは、まさしく針森の風習であることからも、それがうかがえる。

「凛」という人を昂が探していると聞いて、母の(ゆかり)の人だとは思ったかもしれない。だが、母の姉である人のことは、燦も知らないはずだ。

 だから、燦は母の故郷である針森からの友人を得て、喜んで報告すると思った。その者が凛を訪ねてくると聞けば、陛下も王妃もピンと来るだろう。

 隼はそう筋書きをたてていた。

 だが、燦は言わなかったという。緑銅で知り合ったとだけ言った、と。

「でも、なぜですか?」

 心の底から、隼がそう訊ねると、燦はフフフと笑った。

「昂は凛に近い人でしょ。何か、この王宮、この国の台風の目になる人のような気がするの。昂は多分そんなこと望んでいないはずなのに。大人に昂の存在を伝えて、彼の意思に反して、王宮で彼ががんじがらめになるのが嫌だった。だから言わなかった」

「……でも、彼は自らここに来るんでしょ?」

 その為に、全輪を目指すと言っていた。

「昂が自分の意思で来るのは、仕方ないわ」

 複雑な顔で言う燦に、隼は呆れた。

 それは俺が先ほど考えていたことではないか。

「詭弁ですね」

 隼が評すると、燦は笑って、あっさり認めた。

「まぁ、そうね」

「昂に伝えましょうか?そういうわけだから、王宮には来ない方がいいって」

 返事は分かっていたが、少し虐めるつもりで、そう言ってみる。

 途端に、燦の顔が曇る。

「それは……でも昂たちはその為に旅をしているのだし……」

 予想通りに応えるので、隼は笑ってしまった。言い訳じみていると燦も思ったのか、言葉が途切れてしまう。外で得た友人を、燦が手放したくないと思っているのは、一目瞭然だった。

 なんのかんのと言っているのは、大人たちに昂を取られるのが嫌なだけかもしれない。

「とんだ、お姫様の我ままだ」

 あてこすると、燦はギロリと睨んだ。

「隼、櫂には報告したんでしょ。時間の問題じゃないの」

 能無しめ、と罵る声を聞きながら、隼は慌てて姿を消した。

 やれやれ、こんなに気を使っているのに、誰からも能無し扱いだ。やっていられない。

 燦が隼の姿を見失って数分後、隼は見晴らしのいい城壁の縁に立っていた。左岸の町がよく見える。

「まぁ、とりあえず、姫さまの為に見守っておくかな」

 そう独り言ちると、城壁の外へ、姿を消した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ