表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暁の皇子  作者: さら更紗
Ⅲ 予感
62/151

Ⅲ 予感 -17

 

「やぁ、見違えたよ」

 若様とやらは、上機嫌で三人を迎えた。

 彼自身は先ほどと服装は変わっていない。

 よく見ると、もうすでにきちんと正装だったようだ。声にばかり気を取られていたらしい。気が付かないほど、上等な服が彼に馴染んでいたと言っても良かった。

 長いテーブルのいわゆる上座に若様。昂と彩は彼の右側に座らされた。反対側に大男が席に着いた。

 昂が目を丸くする。本当にご一緒するとは思わなかったのだ。

 昂の様子に気が付いて、若様は、あははと笑い声をあげた。その声が耳障りでまた気持ちが悪い。

「彼は僕の部下ではないよ。いってみれば食客みたいなものかな。僕の手助けをしてくれる」

 そうは見えなかった、と思ってちらりと見やると、大男の目は何の感情も映していなかった。ただ真っすぐ前を向いている。

 よく分からない。

 昂は眉を顰めかけたが、自分でそれに気が付いて、止めた。感情をすぐ顔に出しすぎる。俺もこの大男を見習った方がいいかもしれない。

「彼の名前は(ろん)

 若様はトントンとテーブルの端を、指で叩いた。すぐに食事が運ばれてくる。

「ちょっと訳ありでね。僕の側にいるってわけ。昨日君も見た通り、腕っぷしは強いし、無口だからね。気に入ってる」

 お気に入りのおもちゃを自慢するように、若様は崙を見た。

 崙の目はやはり動かなかった。

「さて、そろったようだし、食事にしようか」

 見たこともないような豪華な食事が、テーブルに並べられていた。早く食べたいのか、彩が少し前のめりになっている。

 昨日の夜から何も口にしていない昂の胃袋も、早く食べさせろと主張してきた。

 だが昂は動かなかった。

「どこの誰かも分からない奴の飯は食えない」

 昂が静かに言うと、手を伸ばしかけていた若様は、そのままの姿勢で顔を上げた。

 給仕の女たちが、顔を引きつらせる。

 彩の背中はすっと椅子に戻った。

「後にしない?せっかくの食事が冷めてしまう」

 若様がそう促したが、昂は応えず、若様の目をじっと見つめた。

 流されては駄目だと自分に言い聞かせる。

 若様のガラス玉のような目が、すっと色を変えた気がした。

 若様は小さくため息をつくと、にこりと笑顔を作った。

「まぁ、約束だったしね」

 そう言うと、テーブルクロスに端を掴み、思いっきり引っ張った。料理ごと食器が床に落ちていく。テーブルに残ったものも、ひっくり返って、飛び散った汁が昂たちの服を汚した。

 彩がビクッとし、震え出したので、昂は手を握ってやった。しかし何も言わず、若様を見つめていた。

 若様は何事もなかったように、傍らで怯えている女中に目をやると、そっけない様子で言った。

「料理を出すのが早かったみたいだよ。作り直してきて」

 女中が慌てて厨房に行くのを見送って、若様は昂を見つめた。張り付いた微笑みが怖い。

「僕の名前は(ばく)。正式には(こん)(ばく)

 崑と言ったとたん、床を片付けていた女中たちに緊張が走った気がした。

 しかし昂には意味が分からない。針森では名前は一文字。ガザも同じ字を使うことから、針森と同じだと思っていた。正式も何も、字を二文字使うことはない。字そのものがその人間を表しているとして、一字で名付けられる。字を二つ使うということは、一人の人間が二つに分かれてしまう。

「崑?……獏?」

 困惑の表情が顔に出たのか、昂の顔を見て、獏はフッと笑った。

「君はとんだ田舎者なのかな。崑は氏姓だよ。高貴とされる一族は、共通の字を持つことを許される。僕は(こん)一族の獏だ」

 崑一族。それほど権力のある存在なのだろうか。

「俺は初めて聞いた。そんなに権力があるのか」

 わざと興味がなさそうに言うと、獏は愉快そうに笑った。

 ただそれは表面だけで、獏が不愉快に思っていることは、その笑い方で分かった。不自然に高音域で鳴らされる笑い声。昂が握っている彩の手に、力がこもったのを感じた。

 震えるのをこらえている。

「僕は末席だけどね。それでも蒼碇では、何をしても大抵許される。ほら、崙の自由だって好きに出来る。もちろん君たちもね」

 昂が睨みつけると、獏は満足そうに頷いた。

「分かったら、食事にしよう」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ