Ⅲ 予感 -14
「って」
視界がぼんやりと明るく鳴った途端、昂は強烈な痛みに頭を押さえた。
しばらく痛みをやり過ごし、もう一度恐る恐る目を開けてみる。
大丈夫だ。ズキズキはするが、耐えられないほどではない。
ゆっくり辺りを見回してみると、いた。
「よかった」
心からほっとする。
彩は昂の横で寝息を立てていた。見た限り、怪我をしている様子もない。
昂は彩を起こさないように、静かに自分の体を見てみた。怪我もやけどもない。頭は痛いが、あの一撃でのされて、それ以上はなにもされていないようだった。縛られているわけでもない。
改めて自分が置かれている部屋をみてみると、粗末な寝台が一つ。机が一つ。椅子が二つ。普通の部屋のようだが、一つだけ変わったところがある。
窓がない。
扉は頑丈であるが、普通の扉が付いていた。
昂はゆっくり寝台から立ち上がると、扉まで歩いていった。扉を開けてみる。
ガシャン。
外側で錠が鳴る音がして、扉は開かなかった。
昂はゆっくり寝台に戻ると、再び腰を下ろした。彩は目を覚まさなかった。
恐らく地下にある監禁用の小部屋だろう。
狼公の館にも、似たような部屋があった。
推測して、昂は笑った。
狼公のところにいたおかげだな。
得たくもなかったが、知識としては役に立つ。
それにしても、彩と離されなかったのは良かった。相手がどういうつもりか分からないが、狼公の時の二の舞はごめんだ。
そこまで考えて、もう一人気にするべき人を思い出した。
もどかしそうな顔で、部屋を飛び出していく自分を見つめていた。
凛、心配しているだろうな。
すぐもどる、と気軽に言った自分を、過去に戻って蹴飛ばしてやりたくなる。
隣で彩がもぞもぞしだしたので、昂は彩の頭を撫でてやった。
「昂?」
彩が昂の手を掴んで、確認する。
昂は安心させようと、優しい声で応じた。
「彩、大丈夫?気持ち悪くない?」
カランの発酵臭やら、煙やらを吸い込んだのだ。呼吸は安定していたが、心配だった。
しかし彩は答えずに、ギュッと昂にしがみついてきた。
「昂?大丈夫?死んだかと思った。昂の気配が消えちゃったから」
「あれくらいじゃ死なないよ」
そう請け合って、いやあれは死ぬかと思ったな、と内心突っ込む。
優男が止めなかったら、大男は俺を殺すつもりだった。そしてあっさり殺されていただろう。
今更ながら悪寒がはしって、昂は息を吐いた。
「大丈夫、ここにいるよ」
そう言うと、彩は更にしがみついてきた。
奏のことを思い出したのかもしれない。
昂は痛む頭でそう思った。
突然引き離されることがあると身をもって知ってしまった彩は、それが恐怖として体に刻み込まれてしまった。
一人にしないで。
何も言わないが、しがみついている体の震えがそれを物語っていた。
絶対に離れないから。
昂は心の奥で誓った。
最初はお荷物を背負わされたと思った。緑銅までの馬車の中で誓った想いも、あの時は半分義務感から来ていた。
でも、今は……
彩が愛しいと思う。傷ついてほしくないと思う。
絶対、凛の所まで連れて行ってやる。
さて、その為には、ここを二人で出なければ。
昂が指の関節を鳴らした時、扉が叩かれた。その音は、小さいながらも、全く遠慮を感じない音だった。




