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暁の皇子  作者: さら更紗
Ⅲ 予感
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Ⅲ 予感 -5

 

 一行は無事に森を抜け、木場という宿場町までやって来た。

 町に入ると、安心したせいか、急に疲れが出てきて、一刻も早く寝台に横になりたくなる。凛も同様なようで、先ほどまで無理にでも伸ばしていた背中が、心持ち丸くなっていた。

 変わらないのは空だけだ。

 疲れた疲れたと口では言いながら、彩を負ぶった足取りは緩むことなく、むしろ速度を速め、通りの店を物色していた。

「よしここにしよう」

 そう言って空が提案した店からは、うまそうな匂いが漂ってきた。誰一人、反対するはずもない。もっとも、その店がいまいちでも、反論する元気は昂にも凛にも残っていなかった。

 とっとと入って行く空の後ろを、黙ってついて行く。

 奥のテーブルに通され、椅子に座った途端、プシューッと体の中の空気が抜けた気がした。

「まぁ、とりあえず、まともなモノ喰わなきゃ」

 そう言って元気に店員を呼ぶ空を見ながら、ありゃ別人だなと昂はしみじみ思った。針森の薬師である空とは、全く違う空。

 森の中でも、空のおかげでほとんど苦労しなかった。

 昂も針森の人間だ。村の人間となら、森の中で過ごすのはなんてことないことだろう。しかし、彩はもちろん、凛も町の人間らしく、森の中では何の役にも立たなかった。食べられる草やキノコの見分けも出来ないので、食料を拾ってくることさえできない。

 村の女より格段に力がないらしく、水を運ぶのも何回も分けなくてはならない。それでも、狼公の所で下働きをしたおかげで力が付いたのだと言っていた。

 結局、食料を集められるのは昂と空だけだし、薪を集めるのも、火を起こすのも自分たちだった。

 昂は自分とそう変わらない凛が、何もできないことに驚いたが、空は針森の村以外ではこんなものだと、気にもしていなかった。

 苦も無く昂の三倍の獲物を仕留め、楽しそうに振舞った。薪もいつの間にか集めてくるし、水だって効率よく汲んでくる。

 彩を背負う時間はだんだん空が長くなり、それにも関わらず、凛が疲れていないか気にかけていた。

 そういういちいちが、昂は気に障ったが、大いに助かったというのも本当だった。

 空がいなかったらと思うと、ぞっとする。

 狼公の館を出てから、五日がたっていた。

 皆元気で、無事なのは、空がしっかりペース配分をしてくれたからだと、昂は認めていた。

 四人は、(ちゃ)羽鳥(ばねどり)の中に野草やキノコを入れて蒸したものと、乳の入った野草のスープ、そしてノイを揚げたものに、焦がした砂糖をからめたキロと呼ばれるデザートを頼んだ。

 空がキロを頼んだ時、凛が思わず空の顔を見た。空はいたずらっ子のように笑った。

「みんな頑張ったから、ご褒美」

 凛の頬が少し赤くなった気がしたが、空は気が付かず、彩の方に顔を向けた。

「さて、彩ちゃん。視えたものを、おじさんに教えてほしいんだけど」

 今から食べることしか彩の頭にはなかっただろう。彩は戸惑ったように、見えない目を空に向けた。

「食べてからでいいんじゃないか?」

 昂がやんわり遮ると、空はいいやときっぱり言った。

「食べてお腹が膨れたら、眠くなるでしょ。今のうちに聞いてしまいたい」

 凛が彩の手を握ってやるのが見えた。彩は時々眉間にしわを寄せて思い出そうとしながら、たどたどしく視えたものを説明し始めた。

「ふーん」

 彩が一生懸命説明したのを聞き終わって、空が発した第一声は気のない相槌だった。

 おい、と思わず昂は隣の空を蹴りつけたくなった。

「そのお茶はガザのものじゃないね、多分。あと、そうだね、うーん、そういうことか……」

 狼公め、呟く空は、一人で納得したような顔になっている。こっちは全然分からない。

「分かったの?」

 彩が飛びつくように、訊いた。

 空はそんな彩の頭をよしよしと撫でる。

「見つけられそうだよ」

 え?あれだけで?

 昂には全然分からなかった。彩の説明は断片的で、文章にもなっていなかった。視えたものを言葉にしていくだけだ。

 空は何でもないことのように言う。

「彩ちゃんが教えてくれたんだよ。濃い色のお茶。丸い茶器を盆にのせて。たぶんそれは、針森やガザでよく飲まれる蜜茶じゃない。豆茶だ。最近はガザにも流通してきたけど、昔からアウローラ公国で好まれている。その優しそうな男というのも、雰囲気的にはあちらっぽい気がする」

 鋭いのかいい加減なのか分からない解説だが、空は自信があるようだった。隠密の勘というやつかもしれない。

 と、ちょうど料理が運ばれてきた。

 鳥とキノコを蒸した匂いが、鼻腔をくすぐり、全員の集中が料理に向けられた。

「とりあえず、喰って寝よう。体力を回復しないと、何もできないからな」

 空がそう諭さなくても、三人はそのつもりですでに料理に手を伸ばしていた。


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