Ⅲ 予感 -2
「あ」
彩が小さく声を上げた。
「また見えたの?」
彩を背負っていた昂が聞く。
背中で彩が小さく頷くのを感じた。
狼公の館の裏にある山へ逃げ込んだが、館を出てから、追手の気配は感じなかった。あきらめてくれたのかもしれない。
裏門から出た四人が気になったが、空がそれなら大丈夫と請け合ったのを聞いて、なぜか凛が「じゃあ、大丈夫ね」とぼそりと言って、納得してしまった。
一番、凛が四人の安否を気にしていただけに、昂は意外だった。
凛は空のことが苦手なのか、空を避けているようだった。ほとんど口をきかない。得体のしれない男だと、まだ警戒しているのかもしれない。
それだけに、凛の「それなら大丈夫ね」は不自然だった。しかし、それから空も凛も何も言わないので、昂もなんとなく聞けずじまいだった。
何かがちぐはぐな感じがしながらも、四人は山を抜けようと、歩いていた。彩は平らかな道は手を引かれて歩いたが、ほとんどは昂と空に交代で背負われて進んだ。
その途中で、急に彩が声を上げたのだ。
「奏の目が見える」
「え、奏?」
二人の目がつながっていることを思い出して、昂は弾んだ声を出した。売られたのは、近くかもしれない。
しかも二人の目がまだつながっているなら、見つけるのは案外簡単かもしれない。
「あ、でも……」
期待とは裏腹に、彩の声はしぼんでいった。
「消えちゃった」
昂はがっかりしてしまった。その気配が伝わったのか、彩が「ごめん」と小さな声で謝る。
謝らせてしまったことに気が付いて、慌てて昂も謝る。
「いや、ごめん。彩は悪くないのに…ごめん」
じたばたしている昂の肩をたたいて、空が言った。
「まぁまぁ、歩きながらしゃべると、無駄に疲れるよ。話はあとでしよう。ほら、ちょうどいい。あそこで休もう」
木と木に挟まれたくぼ地のようなところが、ちょうど平になっている。木の陰から、陽光が漏れていて、暖かそうだった。
「追手は大丈夫かな?」
昂が気にすると、
「もう来ないよ」
と、空はあっさり言い切った。




