Ⅱ 外側 -24
「で、俺なわけ?」
ロカは興味深そうに、昂の顔を見た。
昂は仕方なく頷いた。ロカの言いたいことは分かっている。ロカはここに囚われ、働いている境遇を、嫌だとは思っていない。
そんなロカが、こんな危険を侵すはずはない。ただ……
「お前、面白いことは好きだろう?」
半分博打で、鎌をかけると、ロカはフッと息を吐いた。
「分かってると思うけど、俺はここの生活が案外気に入ってる。ここを逃げ出したいなんて思ってないよ」
「分かってるよ」
「まだ、ここにいるつもりだから、危険になったらすぐに裏切るよ」
「分かってるよ」
ロカは首を傾げた。
「そこまで分かっていながら、よく俺に話したね。このまま俺が褒美欲しさに、狼公にご注進に行ったら、どうするつもりだったのさ」
昂は少し考えて言った。
「お前はそういうことをしない人間だからさ。褒美や出世どころか、今よりましな暮らしをしたいとも思ってないだろ」
半分は当てずっぽうだった。でも一緒にいて感じることはあった。ロカからは欲というものを感じないのだ。
ロカはまじまじと昂の顔を見た。あまりに見つめられている時間が長いので、昂は思わず顔を背けてしまった。
ロカは笑い出した。
「ああ、本当だ。そうかもしれない」
そう言うと、両手で昂の肩を掴んだ。
「いいよ、手伝ってあげる。でも、忘れないで。危なくなったら、俺はすぐに手を引くから」
昂が頷くと、ロカも肩から手を離して言った。
「じゃあ、とりあえず一つだけ。人狩りで捕まった奴らも、みんながみんな逃げたいとは限らない。この辺は、人狩りに遭わなくても、よそ者には厳しい土地柄だ。俺みたいに、生きるすべをここで見つけたい奴らだっている。嘘でも逃げる算段をつけるつもりなら、そういう奴らは除外した方がいい。事前にばらされてしまうぞ。それこそ、狼公への良い点稼ぎになる」
昂は頷いた。そのへんは正直に、凛に言った方がいいだろう。囚われ人は皆解放するべきだと思っている石頭に、どうやって動いてもらうか、今から頭が痛いことだった。
いっそロカに懐柔してもらった方がいいのではと思ったが、
「俺はその凛とかいう姉ちゃんとは接触しないからな」
と、先に言われてしまった。
危険は極力冒さない。彼の行動にブレはないようだった。




