Ⅱ 外側 -22
「本当か?」
昂は一気に興奮した。女は彩が閉じ込められている部屋を知っているという。しかも、食事などを運ぶため、部屋に出入りしているという。
「その子は俺の妹なんだ。ずっと探していた。その為にここに留まっていたようなもんだ」
昂が一気にしゃべると、女の目がキラリと光った。
「それは、その気になれば、ここを出られると思っているということですか?」
「まぁ、難しいとは思うけど、なんとかなるとは思っている」
女はうつむいて考えこむ素振りをみせると、顔を上げた。
「他の場所にも同じように閉じ込められている人がいます。その人たちも助けましょう」
女がとんでもないことを言うのを聞いて、昂は耳を疑った。
はっきり言って、昂は他に捕らえられている人のことなど、気にしていなかった。人狩りに遭い、これからの人生を思うと同情するが、助けてやれる余裕はない。
「何人で?」
一応、訊いてみる。
「今のところ、わたしとあなたの二人です」
「何人を?」
「二十人くらいでしょうか?」
この女は馬鹿じゃないだろうか。
そんな大人数を連れて、どうやってこの屋敷を抜けられるというのだろうか。しかも抜けたら終わりなわけではない。その先だって、全部狼公の土地だ。
「そんなの不可能だろう」
昂が唖然として言うのを聞いて、女は憤慨した。
「では、あなたは自分の妹さんだけ助かれば、いいというんですか」
噛みつかんばかりの剣幕に、昂は思わず一歩引いてしまった。
「そりゃ、俺だって出来るもんなら、皆助けてやりたいよ。でも俺たちだけじゃ、できることなんて知れている。無理をして皆が捕まれば、もっと悲惨なことになる」
昂は目の前の女を見た。世間知らずで正義を振り回す女。もっとも組みたくない相手だ。
女はがっかりしたようにうつむくと、一歩下がった。
「分かりました。そうであれば、彩の居所を教えるわけにはいきません」
「は?」
急に脅しに転じた女に、昂は間抜けにポカンと口を開けてしまった。
「なんでそうなるんだよ。彩だけでも助けてやろうって気にはならないのか」
女はゆっくり首を横に振った。
「皆で逃げます。それ以外はありません」
昂は腹が立ってきた。女を睨みつけて言った。
「大体の居場所は見当がついている。お前の助けなんかいらないよ」
女は静かに昂を見返した。
「でも、鍵の場所はわたしが知っています。あなたこそ、彩を助けたくはないんですか」
女の目は揺らがなかった。
昂はがっくりと肩を落とした。大体、女には昔から勝てない。
「……どうしろっていうんだ?」
低い声で言うと、女はニッコリ笑って言った。
「一緒に考えましょう」




