Ⅱ 外側 -21
昂は迷っていた。この試合で、華々しく相手を倒し、狼公の目に留まるか。それとも使用人らしく、目立たないように負けるか。もちろん命を落とさないようにだ。
どちらも自分には可能だと思う。信が言っていたことがある。針森の人間は、外の人間より身が軽く、機敏だ。ナイフの扱いにも優れている。
その時は、それが得意な人間だけが当てはまると思っていた。昂は苦手ではないが、特段他の村人より優れているとも思っていない。
しかし、今なら納得する。あの宿屋で、手下の男たちがやけに鈍く感じたのも、彼らが鈍重なわけではなかった。
俺の方が疾い。
彼らを倒すことも、負けたようにうまく見せることも出来るだろう。
どちらが早く彩にたどり着くだろう。
いつ奏のように売られてしまうか分からない。
あの錠のかかった扉……。声は聞こえなかったが、あそこには何かがある気がした。しかし、あの部屋は屋敷でも奥まったところにあり、行く用事がない。だからこそ怪しいのだが、あの辺でウロウロしていると、たちまち怪しまれてしまう。
信用できない狼公との約束にかけるか。
拉致のあかない探索を続けるか。
どっちもどっちだなぁ。
側用人頭のありがたい訓示の後、昂は薪と小枝を屋敷中に分配する仕事を指示された。
昂は切り落とした枝を集め、ひもで縛りながら、ため息をついた。
どうするか決まってしまえば、楽なんだけどな。
焦る心とは裏腹に、昂は地味な作業を淡々とこなしていった。
束にした薪と小枝を一輪車に山ほど乗せ、厨房の裏口に運んだ。着いたら着いたで、そこに下ろしてかまどの横に積み上げる。これが一日一回ではない。一日三回は下らない。針森のまかない所を思い出すが、厨房だけでなく、この広大な館のあちこちに配らなければならないので、重労働だ。
「昂、北側も頼むぞ」
同僚に声を掛けられて、昂は手を上げて応じた。
こんな作業で一日が終わる。早朝から夜遅くまでこき使われて、彩を探しに行くのもままならない。
ため息をつきながら、再び薪や小枝を取りに向かっていると、横から急に女が飛び出してきた。
ぶつかりそうになって、昂は慌てて車を止めた。
「おい、危ないだろ!」
驚いて女に抗議したが、女は昂も見ずに、周りをキョロキョロ見回していた。
女は下働きのお仕着せを着ている。黒い髪を二つに分けて編んでいた。顔はとりたてて美しいわけでもない。一言でいえば、地味な顔立ちだ。
「おい!」
何も言わず、こちらを見ようとしない女に、昂がもう一度声を掛けると、女はやっと昂を見た。一瞬たじろいたように見えたが、急にグッと顔を近づけてきた。
「昂さんですよね?」
抑えた声で、早口で言う。
昂はまじまじと女を見た。
見たこともない女だ。館の中ですれ違ったことはあるかもしれないが、少なくとも昂は覚えていなかった。
「あんたは?」
怪訝そうに昂が聞くと、女はほっと息をはいた。
「お話があります。あの先で話しましょう」
女は道の先に広がる森を指さした。




