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暁の皇子  作者: さら更紗
Ⅱ 外側
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Ⅱ 外側 -20

 


「御前試合?」

 昂が素っ頓狂な声を出した。

 親子代々、狼公に仕えているという側用人頭は、苦虫を噛みつぶしたような顔で、無礼な声を上げた昂を睨んだ。

「そうだ」

 それでも彼が理性を保って答えると、またもや昂が、彼にとっては当たり前の疑問を口にした。

「御前って誰の?」

 今度は理性が保てなかったらしく、頭は顔を真っ赤にして、持っていた鞭をうならせた。

「奴隷が無礼を申すな!」

 鞭は正確に昂の右腕を打った。昂は腕を抑え、うずくまる。

「立て!」

 頭が怒鳴ると、昂は腕を抑えたまま、よろよろと立ち上がった。

 その様子に頭は満足したらしく、説明を始めた。

 いってぇ。

 昂は腕をさすりながら、悦に入って演説をする頭の話を聞いていた。

 親子代々、鞭の腕と使用人いびりだけは天下一品だ。それが使用人たちの側用人頭への評価だった。

 鞭を食らって、すぐにうずくまったのは、それが一番早くことが収まるからだ。もちろん、あそこで不用意に言葉を口に出さなければよかったのだが、思わず声が出てしまった。

 御前試合。

 頭に説明されなくても、毎年行われるこの行事は、使用人たちの間では、もうとっくに重要な話題だった。

 なんといっても自分の命がかかっている。

 狼公の御前で行われる武術試合。日頃の鍛錬の成果を狼公にお披露目するのが、この行事の目的である。しかし、兵士どころか、男であれば、使用人に至るまでこの行事への参加は絶対だ。武器の使用も認められているこの試合で、使用人が兵士に勝てる見込みなどない。使用人は兵士同士の対戦の前座、そして、兵士たちの格好の憂さ晴らしとなる。

 毎年、何人もの使用人が命を落としている。

 殺される前に、早く負ければいい。かといって早々に降参すると、怠慢であるとして、やはり罰せられた。どうやって命を落とさず、負けを認めてもらえるか。それが使用人たちの、今直面している問題であった。

 昂たち使用人には軍事訓練はない。しかし兵士たちの世話をすることはあった。目の端で兵たちの軍事訓練を見ていた昂は、兵たちの動きがそんなに巧みなものではないことに気が付いた。あれでは、小鹿一頭倒すことは出来ないだろう。

 一緒に作業していた同僚にそう漏らして、慌てて口を塞がれたことがある。

「馬鹿っ。そんなこと聞かれると、なにされるか分かんないぞ」

 それから辺りを見回すと、同僚は小声で言った。

「あいつらはもともと緑銅のならず者だ。金がいいってんで、集まってくるんだ。力自慢は多いが、頭で考えることをしない」

 それでも俺たちがかなう相手じゃねぇ。

 同僚はそう言うと、暗い目でうつむいた。

 所詮、私兵ということか。

 狼公に忠誠を誓っているわけではなく、金のために働く。自分本位で、自信過剰。鍛錬をおろそかにする場合も多い。



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