Ⅱ 外側 -3
針森からガザに抜けた道の最寄りにある緑銅という町は、アウローラ公国との国境に連なる黄神山脈のそばにある。神々の山と呼ばれるこの山脈から吹き降ろす風のせいで、作物はあまり育たなかったが、代わりに山で採れる鉱石を製錬する産業で成り立っていた。
ただし、近年は鉱山の産出量も徐々に減りつつあり、緑銅の産業にも陰りがみえてきた。かつての勢いはなく、鉱石の精錬の技術と、乾燥と風に強いクイナという穀物を育て、細々と生きている町だった。
「すごいな」
馬車を降りてすぐに、その風の強さに三人は棒立ちになった。針森の村は森の中だけあって、あまり風が強く吹くことはない。社に籠っていれば、なおさらだ。
御者が荷物を下ろしてくれた。無口な男で、ほとんどしゃべらなかった。男は昂たちをまじまじと見つめた。
「あんたたち、兄弟かい?」
三人は顔を見合わせ、三人そろって頷いた。
男はそれでもジロジロと三人を見る。
「あんたら、目立ちすぎる。訳アリなら、なんとかした方がいい」
それだけ言って、馬車に戻っていった。
どうしろって?
昂は男の背中を見送りながら、自問した。
男の言うことは分かる。確かに金髪の少年と瞼が閉じているのに見えているかのように歩く女の子、一言もしゃべらないで跳ね回っている男の子の組み合わせは、人目をひく。
分かってはいるが……
はたと、二人がいないことに気が付いた。
あわてて探すと、露天に並んだ色とりどりの鉱石を、座り込んで見ていた。
「きれいだな」
彩がうっとりと言っているのが聞こえた。
どうみても目の見えていない少女のそう言われて、店番の若者が目を白黒させている。
奏は奏で、くっつきそうなほど間近で、石たちを見ていた。
「ほら、行くぞ」
昂は二人を立たせて、歩き出した。
店番の若者は、夢から覚めたような顔をして、昂を見ている。
姿はともかく、目立たない行動を心掛けないと。
昂は深くため息をつきながら、二人の手をしっかり握って、宿場街の方へ急いだ。
教えることがたくさん、ありそうだ。
彩と奏にとっては初めての外界かもしれないが、昂にとっても初めて村の外に出たのだ。
要領も分からないまま宿を決め、言われるがままに金を払う。この金も、村では不要なものだった。
町全体がのんびりして良心的なのか、たまたま良心的な宿に当ったのか、三人は素朴な三人部屋を、相応の払いで獲得した。
その宿は食堂も経営していた。一階が食堂、二階で宿泊客を取っている宿屋で、実は飯の匂いにつられて宿に入ったといってもいい。
宿を取ると、三人はすぐに階下に降りていき、いい匂いを漂わせていた鹿肉にシチューを食べた。骨ごとざく切りにされた鹿肉が、野菜と一緒にとろりとしたシチューの中で煮込まれていた。
骨がつるつるになるほど、肉をこそぎ落として貪った。道中、乾きものの保存食しか食べていなかったので、温かく柔らかい汁気のある食べ物は嬉しかった。
ノイは、針森のもののように平べったくなく、丸く膨らんでいた。食べると、中がふわふわしていて、驚くほど柔らかかった。
三人は確かに目立っていただろうが、食事に夢中で、周りの目など気にしていなかった。
やがてお腹がいっぱいになり、満足すると、彩が大きくげっぷをした。




