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暁の皇子  作者: さら更紗
エピローグ
151/151

エピローグ -3

 


「じゃあ、明日また来るわ、凛」

 盲目の少女は朗らかに手を振って、王妃の秘密の花園から、茂みのトンネルに消えた。その足で、今度は凛の娘のところに行くはずだ。

 あの大神殿の災害での、彩の怪我はたいしたことはなかった。燦がガザに帰国するのと一緒に、彩もガザに戻って来た。

 あの時の記憶はないらしい。ただ、目が覚めて、双子の奏が横で寝ていても、驚かなかったそうだ。何となく、会えた記憶はあったのだろう。

 その奏が公国に留まる意思を示しても、彩は特に嫌がらなかった。

「じゃあ、わたしは凛と燦の所にいるわ」

 と、勝手にガザ行きを決めてしまった。

 一緒にいない方がいいということは、記憶がなくても、二人とも分かっているようだった。

 彩はこちらに来てから、ガザの知識を習得するべく、意欲を燃やしている。王城の書庫から本を持ち出しては、読んでくれと、凛や燦、櫂にまでねだっている。

 そして、少し塞ぎ気味の燦の気分を晴らそうと、足繁く燦の部屋に通ってくれている。

 燦は彩の存在がありがたいようだ。

 あの、大神殿の災害は、当事者の彩本人より、燦にショックを与えたようだった。

 しかし、このあいだ彩がそっと教えてくれた。

「それがどうも、今は違うみたい」

 そうして、口の辺りをもぞもぞと歪ませて、にやけるのをなんとかこらえようとしながら、小声で言った。

「昂にもう会えないかもしれない、と落ち込んでいるみたいなの」

 落ち込む自分に、驚いていたわ。

 そう言うと、こらえきれなくなって、彩は笑い出していた。どうも、昂と燦がくっつけばいいと思っているようだ。

 燦も彩も大丈夫だ。新しい日々に、足を踏み出している。

 燦が公国で災害に巻き込まれたと聞き、それに空が関わっていたと知ると、炎は烈火のごとく激怒したが、燦が帰国し、空が庇ってくれたと愛娘の口から聞くと、怒りは収まってきたようだ。

 針森からは、隼の報告が送られてきた。昂が商師を目指し、良のところに弟子入りするらしい、とそこには記されていた。燦はほどなく昂に再会でき、自分の気持ちを確かめることができるだろう。

 後は……

 誰かが茂みを通り抜ける音がした。

 普段は音を立てないくせに、その誰かは、この茂みを通る時だけ、凛に分かるようにわざとガサガサと茂みを揺らす。

 現れた人物に、凛は声をかけた。

「おかえり。公国に行っていたの?」

 空はコクンと頷いた。

「凛、抱きしめて」

 凛は目尻を下げ、握っていたキリュウの葉を握りつぶした。乾燥してカサカサになっていた葉は、あっけなく崩れ、砂のようにさらさらと草の上に落ちた。

 凛は腕を広げた。

 空は凛の腕の中に体を委ね、凛は空を抱きしめた。

 空は凛の肩に額(ひたい)をつける。

「ただいま、凛……大神殿に行ったよ」

「うん」

「もう終わりにする」

「うん」

 二人は彫像のように、しばらくそのまま動かなかった。


 サワサワサワ

 風が揺れる。

 茂みが揺れ、木々の葉が揺れる。

 やわらかくそっと

 二人の心も優しく揺らす。

 傷は傷のまま

 そっと風が撫ぜていった。


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