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暁の皇子  作者: さら更紗
Ⅵ 破壊
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Ⅵ 破壊 -11

 


「くそっ」

 肩が焼けるように熱い。だけど、今すぐここから離れなければ。

 昂は左肩に刺さった矢の矢羽根の方を折ると、痺れる肩を押さえた。

 神殿の入り口で馬を下り、溢れる群衆の波に乗って、この辺りまできた。豊穣祭は始まっているようなので、昂が真っ先に会わなければいけない大公は、人の行く先、つまり祭りの中心にいると思ったのだ。

 だがラウル公か、はたまた別の相手か分からないが、どうもこの神殿にも暗殺者が紛れ込んでいるようだった。ねばりつくような視線に、今度は昂の方が先に気が付いた。

 だが、この人込みで矢を射かけられるとは思わなかった。

 まさに人の波にのまれそうになった時に、左肩に矢を食らったのだ。幸運にも、周りの人間は昂の肩に矢が突き立ったことに、すぐには気が付かなかったようだ。自分の事で精いっぱいなのだろう。

 昂はかろうじて声を上げそうになるのを、抑えた。騒ぎになっては困る。

 敵は、この群衆の中でも俺を射抜けるほどの、腕を持っている。すぐに次が来る。俺を除きたいのなら、仕留めるまで来るだろう。

 動きたかったが、人が多すぎて思うように動けなかった。

 焦りばかり募る。ついに、昂の肩に刺さった矢を見て、周りが騒ぎ始めた。

 その時、ものすごい圧力と共に声が響いた。

「昂!」

 聞いたことがない声だった。だが、なぜか誰の声だか分かった。その声は辺り一帯に響き、そこにいる皆の鼓膜を震わせた。

 その音の質量に耐え切れず、人々は耳を押さえてうずくまった。

 昂も耳の奥で反響する音に顔をしかめながら、声の主を探す。

 その子の声を昂は聞いたことがなかった。だが、その子の声に違いがないと確信があった。

「奏(そう)?」

 その子どもは、男の死体の前で佇んでいた。自分の口を両手でしっかりと塞ぎ、飛び出さんばかりの目で、死体を見ている。

 男の死体は、獣にでもずたずたにされたかのように、ひどい有様だった。あらゆるところが裂け、腸(はらわた)がだらしなくはみ出している。目玉は驚いたように飛び出ていた。

 ぼろぼろになってはいるが、その背には背負われた矢筒があり、近くに弓が転がっていた。矢が一本、男の眉間に突き刺さっていた。

 恐らく、昂を狙っていた暗殺者だろう。どうして男に矢が刺さっているかは分からないが、昂に追い打ちの一矢を放ったに違いない。

 昂がいるところからは、一段高いところに奏はいた。外庭と呼ばれるところだ。

 昂は奏に向かって叫んだ。

「奏!」

 奏の身体はブルブル震え出した。押さえていた手から、音が漏れ始める。

 最初は唸り声に聞こえた。だが、それは次第に声を帯び、世界を震わせ始めた。

「うぅぅぅぅおぉぉぉぉあぁぁぁぁぁ」


 彩(あや)、彩(あや)、どこにいるの?

 僕はここにいるよ!

 助けて!早く、来て!

 僕は、僕……奏(かなで)は……


 世界を壊してしまう。


「奏(かなで)!」

 彩(さい)は一言そう叫ぶと、椅子を蹴って立ち上がった。驚く燦とターシャには目もくれず、どこかに向かって走り出した。

「待って、彩!」

 捕まえようとした燦の手のはるか先を、彩は飛ぶように駆けていった。

 どうしてあんなに速く走れるの?

 燦は混乱した。目の見えない彩は、歩くことこそこなしていたが、走るところなど見たことがない。

 後ろでターシャの息を呑む音が聞こえた。

「目が開いてたわ」

 燦が振り向いてターシャを見ると、ターシャは信じられないものを見たような顔で、燦を見つめた。

「あの子の目、開いていたわ。金色の目をしてた」

 燦はターシャを見返した。

 ターシャの声は重々しく聞こえた。

「初めて見たわ。神の目よ」

 不思議な音と共に、地面が揺れ始めた。

 ターシャが小さく悲鳴を上げた。

 燦はターシャに構わず、彩の後を追って、自らも走り出した。

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