表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暁の皇子  作者: さら更紗
Ⅰ 孵化
14/151

Ⅰ 孵化 -14

「よく来ましたね、昂」

 そう言ってニッコリと笑う。その笑顔が、意外にあどけなくて、昂も微笑み返した。

「お初にお目にかかります、玲様」

 そう言って、手をつき、頭を深々と下げる。玲はコロコロと笑った。

「懐かしいわ。蘭と信がここに来たのも、村を出る時だったわね」

「?」

 いきなり、父親と母親の名前が出てきて、昂は面食らった。しかも……

「村を出た?」

 そんな話は聞いていない。村を出たのは、空であり、会ったこともない凛という人だ。

 信は仕事でガザに行くが、村を出たわけではない。

「あの……」

 なにから訊いていいのか分からなくて、口ごもる。玲はそんな昂を楽しそうに視ていた。

「信はあなたにひどいことを言ったんですってね」

 頷くに頷けなくて、昂は閉じている玲の瞼を見た。

「それなのに、これを打ち明けないなんて、公正じゃないと思うの」

 聞きたいような、聞きたくないような、昂は思わず自分を守ろうと後ろに下がった。玲はニッと口の端を上げて笑った。

 この顔は見たことがある。昂は父親の危険な笑顔を思い出した。

「蘭も村を出て、今でいうアウローラ公国に行ったのよ。その蘭に信はついて行ったの。その時二人は(おう)(ばば)様に挨拶にきていて、そこに当時見習いだったわたしも同席させていただいたのよ」

 何か思い出したのか、くすくすと笑う。

「その時の信の言い分といったら、めちゃくちゃにもほどがあったわ」

 よほど面白かったのか、玲は本格的に笑い始めた。昂はポカンとしていた。信のそんな姿は想像できない。

「どうして、二人は村を出たんですか」

 やっとのことでこれだけ言うと、玲は笑いを止め、ゆるく首を横に振った。

「それは教えてあげられません。自分で探しなさい」

 そう言うと、部屋の片隅できちんと正座をしていた二人を呼び寄せた。

 女の子の方を手で示す。

「こっちが(さい)

 そうして、その手を男の子の方に向ける。

「こっちが(そう)

 二人はぺこりと頭を下げた。

「彩は目が見えませんが、奏が見たものを視ることができます。奏は耳が聞こえずしゃべれませんが、彩の思念を受けることが出来ます」

 二人のことを話す玲の声には、愛しさと寂しさが感じられた。

「この二人は双子ですが、本当に二人で一人なのです」

 昂はなぜ玲が二人のことを自分に話すのか分からないまま、頷いた。

「あなたは凛のところに行くと聞きました」

「はい」

 話が戻ってきたと思って、神妙に返事をする。今日は村を出るための挨拶が目的だ。

 玲はニッコリ笑った。

「この二人も凛のところに連れて行ってください」

「……は?」

 昂の神妙な顔はあっという間に崩れた。許可を得、お礼を言って、速やかに辞す。それだけの為にここに来たというのに、どうしてこういう話になっている?

 空と二人で出るつもりだったのが、一人になってしまった。ただでさえ不安なのに、七つの子どもを二人連れて行けという。しかも一人は目がみえず、一人は耳が聞こえない。口がきけない。

 そんな無茶な。

「無理です」

 昂はきっぱりと断った。自分の身も不安だが、二人の子どもの身を守る自信もない。ここでうやむやに引き受けてしまうのは、逆に無責任で不義理だろう。はっきりそう思ったから、断った。

 それなのに……

 玲はますますニコニコ笑って言った。

「大丈夫ですよ。あなたは守る者がいる方が、しっかりする性分でしょう?二人を守りながら、自分の道も見つけられます」

「しかし……」

 何とか言おうとする昂に、玲はかぶせるように言った。

「昂、二人を連れて行きなさい。それが、村を出ることを許可する条件です」

 笑顔がますます鮮やかになる。昂は確信した。やはり信の笑顔にそっくりだ。瞳は隠されているが、見えていれば、きっと信にそっくりに違いない。悪魔のほほ笑み。昂は何も言えず、肩を落とした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ