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暁の皇子  作者: さら更紗
Ⅰ 孵化
13/151

Ⅰ 孵化 -13

 


 昂が生まれる前にあった大火災は、村を焼き尽くし、剛に一生消えない火傷を負わせたが、社だけは無事であった。当時、村人全員が社に避難した。

 山際のくぼ地に建つ社だけが、ずっと変わらずそこにあるものであった。つたに覆われ、森に埋もれ、山の一部となっている。

 昂はつたに覆われた入り口を前に、生唾を呑んだ。意を決して、木の扉をたたこうとすると、昂の手が触れる前に、扉は内側に開いた。行き場を失った手が泳ぎ、前によろける。

「おっと」

 思わず声が出て、前に倒れそうになるのを踏ん張ると、扉の内側からくすくすと子どもの笑い声が聞こえた。

 社の中は薄暗い。目を凝らしてみると、七つぐらいの男の子と女の子が、両手を口にあてて笑っていた。よく似た顔立ちに、おそろいのおかっぱ頭。男の子は目を見開き、昂をじっと見上げている。女の子の目は閉じていた。

「昂か?」

 しかししゃべったのは女の子だった。

「そうだ。玲様に呼ばれて来た」

 昂が答えると、女の子は頷いた。

「聞いている。入れ」

 昂が入ると、男の子が扉を閉め、奥に走っていった。

「綺麗な髪だな」

 相変わらず目は閉じたままなのに、女の子は平らな声で昂の髪を褒めた。

 見えるのか、と訊きたかったが、何となく口にできないまま戸惑っていると、女の子は何かに気が付いたように頷いて、くるりと背を向け、ゆっくり歩き出した。

「ついて来い」

 昂は女の子の後について行った。女の子の歩みには、淀みがない。

 長い廊下の壁は、いつの間にか岩肌になっていった。突き当りには、先ほどの男の子の姿が見えた。

 御簾を少し持ち上げている。昂たちが近づくと、背伸びをして更に御簾を持ち上げ、中に入るよう促した。

 男の子も女の子も一言も口をきかない。しんとした静寂に、なんとなく粛然とした気持ちになって、昂は黙って御簾をくぐった。

 中は薄暗く、目を凝らしても、いるはずの人が見えない。

 よくこんな所で…と思いかけたが、この部屋の主が盲目であることを思い出した。

「今、明かりを持ってこさせます」

 頭で考えたことが伝わってしまったように、声が聞こえた。その声は、鈴がなるようなという喩えがぴったりの、軽やかな声だった。

 ぱっと男の子が駆けていき、いくらも待たないうちに灯りを持ってきた。ぼんやりと明るくなった部屋で、昂は初めて玲様と呼ばれる人の顔を見た。

 何も映さない目は閉じられている。だがしっかり視られている視線を感じた。体は華奢であるが、圧倒される力の塊が確かにそこにあった。



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