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ピアノマン  作者: 片田真太
6/10

陰謀



優がガソリンスタンドであせくせと働いていた。

有賀泉はサンデーホールでの公演が終わって楽団の知り合い2人と一緒にホールから出てきた。道をしばらく歩いていたら道の向かいのガソリンスタンドで松田優の働いている姿が見えた。

「あれ、松田君?」

泉は不思議に思った。売れっ子の優はバイトなんかしてないのかと思ってたからだ。しかも普段は国見音大で専任講師の仕事をしてるって聞いたのに・・・

しばらく優の働く姿を見ていた。

「ねえ、泉?どうしたの?行くよ。」

知り合いの一人が呼んできた。

「あ、ごめんごめん。今いく」

そういうと泉は二人の知り合いの方に走っていった。




優は鎌田彩と居酒屋で飲んでいた。

「この前はごめんね、いきなり酔ってからんじゃって・・・しかもアパートに泊めてくれたんだよね?ほんとごめん!」

彩は手を合わせて謝ってきた。

「ああ、いいよ別に。そっちも色々あるだろうからさ・・・」

「ホントごめん」

「もういいよ・・・」

二人で飲み食いしながら藤谷美樹の話をした。

「へー家にわざわざ料理しに来たって!?」

彩はびっくりした。

「なんでそんなにびっくりするの?」

「えーだってあれだよ?普通さ・・・好きな男のためにしかそんなことしないよ?しかも国民的アイドルでしょ?優のあのボロアパートに来たの?」

「ボロアパートで悪かったな・・・」

「あははは、いいじゃないだってホントボロアパートだし。私のアパートだってそう大差ないから気にするなって。でもさ・・・本当に優のこと好きだったりして。だってわざわざ優なんかにコンタクトとって来たのも向こうからなんでしょ?」

「まあね・・・優なんかってのは余計だけどな。」

「あーごめん。無名の音楽家にわざわざ連絡するからには何かあるのかってことよ。」

「あー・・・でもそれはあれだろ、昔出演してたドラマのサントラがたまたま俺だったっていう偶然だろ?それで知ったって。」

「本当にそれだけかな?」

「え?」

「いくらそうでも全国的に有名なスーパーアイドルさんがわざわざそれくらいで電話してくるかしら?」

「知らないよ、そんなこと・・・」

「いや、これは同じ女としての直感だけど・・・恋・・・だと思う。うん・・・そう、きっとそうだよ。よかったじゃん、優!あなたみたいな根暗な人にそんな超可愛いスーパーアイドルが恋人だなんて。めったにないチャンスじゃない。」

「ちょっと・・・なんだよ、それ。どうでもいいよ。あんなわがままでがさつな女。それにアイドルって恋愛なんかしねーだろそもそも。」

「え、わがままでがさつなの?」

「超がつくくらいね。本当むかつく女。」

「へーそうなんだ・・・アイドルっていつも作ったもう一人の自分演じてるからストレスだらけなのかもねー。あ、でもそれって彼女が優に心を開いてるってことなんじゃないの?優といる時間は、もう一人の本当の自分をさらけ出せる時間っていうか。」

「しらねーよそんなこと。ただ言いたいことずけずけ言うタイプなんだろ。」

「そうかなー」

「そうだろ」

そう言いながらも優は藤谷美樹のことが少しずつ気になり始めていた。




野々宮妙子は暴力団関係がバックにいる興信所の入ってる雑居ビルに来ていた。

芸能界ややくざ関係の裏事情に詳しい知り合いから場所を聞いたのだった。

「で、あんたはそのスーパーアイドルさんのスクープを取ってスキャンダル事件を起こして貶めたいってわけかい?」

「えー。ちょっと尾行して男関係の写真とか取ってスキャンダルにできないかと・・・あんたたちならそれくらい、できるでしょ?」

「あーできますとも。彼女は有名人ですからね、twitterで今どこにいるとか書き込んでるでしょ?あれで行動パターンとか割り出してね・・・あとはGoogle Earthとかで彼女のネット上での映像や住所がある程度話題になっている未公開のマンションの場所を割り出して車があるかどうかを調べる。それで、休日になって出てくるところを尾行すればいい。車のナンバーもそのとき調べる。彼女がプライベートで車を自分で運転するのは確かなんだな?」

「えーそれは私見たことあるから確実よ。」

「あとはひたすら尾行してスクープ写真を狙えばいい。しかし何もネタが上がってこなくっても責任は持てんぞ?そのときもちゃんとあんたには金は払ってもらう。」

「大丈夫よ、あれだけの大物よ。」

男なんていくらでもいるに決まってる。アイドルはいつも隠れてこそこそ恋愛してるっていうのは業界では常識だからね。野々宮妙子は心の中でそう思った。

「しかし、万が一のためだ。その時はそのアイドルさんに、ストーカーからの脅迫文などを偽造して送り付ければいい。それでおっかけの基地外のファンに囲まれてる写真なんざでも撮って、そのストーカーに仕立てあげてネタにすればいい・・・それでそのアイドルのイメージは急激にダウンや。」

妙子はそこまでは考えてなかったのでやくざの悪知恵が恐ろしくなった。

「わかったわ・・・ところでお金はおいくら払えばいい?」

やくざの親分は指を三本立てて3つだというサインを作った。

「さ、30万?一応謝礼として20万くらいはもってきたけど・・・足りない分は今度で・・・」

「は!?ねーちゃんよ。寝言抜かしてんじゃねーぞ!300万円だ。こっちはあんたのためにあぶない橋わたってやるんだ。それくらいわけねーだろ?」

「さ、300万って・・・高すぎるじゃない!」

ぼったくりだ・・・

一流の女優でない妙子には貯金のかなりの分を取り崩さないとそんな大金とても払えそうにない。

「ちょっと・・・それはいくらなんでも払えないのでお断りするは・・・」

妙子はやくざに頼むのは諦めようと思って部屋を出てこうとしたら、やくざの子分たちが妙子の行く先をふさいだ。

「ちょっと・・・通してよ!」

「ねーちゃん、帰すわけにはいかんがな・・・もうあんたはこの場所と俺らの顔を知ってしまった。悪事の一蓮托生になってもらわんと困るんだよ。」

妙子はしまった・・・と思った。これがやくざか・・・抜け目がなくて狡猾で残酷だ。何て野蛮でずるがしこい連中なんだ、と思った。

「わ・・・分かったわよ。いつまでに300万円振り込めばいいの?」

「5日以内だ。無理ならどうなるか分かってるな?一生を棒に振りたくはないよな?おじょーちゃん」

「わ・・・わかったはよ」

妙子は震えながらそう言った。

「ちなみに調査やら追跡やらに時間がぎょーさんかかったら落とし前として追加料金払うてもらうからな・・・」

暴力団と関わったことを妙子は後悔し始めた。でも、もう後には戻れなかった。




バイトの帰り道にまた行きつけの屋台のラーメン屋に寄った。

何度も来てるのに相変わらずここの屋台のおっちゃんは俺の顔を覚えてないらしくまたいつもの景気の話をしてきた。

「最近景気はどうですかね?」

「いや、どうですかね、あまりよくないんじゃないですか?」

この話題しかないんだろうか・・・

優はラーメンを食べながら彩の言った言葉

「あ、でもそれって彼女が優に心を開いてるってことなんじゃないの?優といる時間は、もう一人の本当の自分をさらけ出せる時間っていうか。」

思い出してみたが

「本当かよ」と思った・・・

でも一応メールしといてやるか、と思った。メールアドレスはこの前藤谷美樹がアパートに来た時に聞いておいたので知っていた。といっても番号もメールアドレスも会社の仕事用のものでプライベートのものは非公開らしいのだが・・・相変わらず彼女のプライベートはベールに包まれていて謎のままだった。

「この前はごめん。」

それだけ送った。長い文章で謝るのも何か癪にさわったのでそれだけしか送らなかった。




藤谷美樹はスカラープロダクションで打ち合わせが終わって、会社ビルの真向いの社員レストランの方へ向かおうとした。すると、後ろから和賀直哉が話しかけてきた。

「藤谷美樹さん・・・ですよね?」

「はい?・・・あなたは?」

「あ、申し遅れまして私、グローブエンターテイメントって大手作家事務所に所属する作曲家の和賀直哉と申します。」

和賀直哉・・・どっかで聞いたことあるような・・・

「ドラマ『そよ風の恋』・・・」

和賀直哉はそういった。

「あ・・・!ああ・・・・あなたがあの作曲担当の和賀直哉さんね・・・」

「思い出していただけましたか・・・」

「まあ、何となくだけど」

二人は沈黙になってしまったので、

「冷たいじゃないですか、ドラマの打ち合わせで何度かお会いしたじゃありませんか・・・たぶん目も合ってますよ?」

「そうでしたっけ?ごめんなさい、私人の顔覚えるの苦手で・・・で・・・その有名作家さんが私に何の御用ですか?」

和賀直哉は鞄から1通の手紙を取り出した。

「あの・・・ファンレターです。私あなたの大ファンです!ファンクラブにも入ってるんです。」

「あ・・・それはどうもありがとうございます。」

「あのこれ受け取ってください・・・」

「直接は受け取らないことにしてるんです。そういうのは一度事務所を通してるんで・・・」

「そんなことおっしゃらずに。何時になるか分からないから、私わざわざあなたのことここでずっと朝から待ってたんですよ。今日は藤本美樹さんはこちらで打ち合わせだって知り合いに聞いたものですから。夜まで待ってるつもりでしたので・・・」

「そうなんですか・・・でもお仕事がおありなんじゃ?」

「作家は自由業ですから暇なときは割と暇なんですよ?そよ風の恋のドラマはひと段落したわけですから・・・」

「そうなんですか・・・でも悪いですけど本当に受け取れないですから・・・」

「そんなことおっしゃらずに僕の気持ちです。」

「と言われましても事務所の方に送っていただくように決まってるんです。」

和賀直哉は強引に無理やりファンレターを藤谷美樹の手に渡そうとした。

「ちょっとやめてください!」

「いいじゃないですか、本当に好きなんです」

「やめてください!」

取っ組みあってる最中に手紙は二人の手の間でびりっとやぶれてしまった。

「あ・・・」

それを見て藤谷美樹はびっくりした。

「ごめんんさい・・・わたしこんなつもりじゃ・・・」

和賀直哉は下を向いて意気消沈しているようだった。

「ごめんなさい。」

和賀直哉は上を見上げてにっこり笑って

「いいですよ・・・気にしてませんから・・・」

そういって歩いて帰っていった。

藤谷美樹は首をかしげてその姿を見た。

その一連の流れをカメラでおさめてるものがいるとも知らずに・・・




藤谷美樹は勝田の車で自宅のマンションまで送ってもらった。

「美樹ちゃん今日もお疲れ様―。今日も雑誌のインタビューばっちしだったね!」

相変わらず勝田はハイテンションだった。

「うん」

美樹は今日現れたストーカーじみたあの作曲家との対応に疲れていた。また来たらどうしよう、と思ったら急に背筋がぞっとした。

「どうしたの?何かあったの?」

「いや、別に・・・」

「あの・・・例の松田優でしたっけ?あの作曲家とはどうですか?くれぐれも表ざたにならないでくださいよ?恋愛に発展したりとか・・・」

「大丈夫よ・・・それにあんなやつもうどうでもいいはよ。」

「え?」

「なんでもない・・・」

「まあ、別に問題ないなら僕としては全然OKなんだけどね・・・」

自宅のマンションの前につくと

「じゃあまた明日ね、7時頃迎えに来るから・・・」

「了解、ありがとう」

「じゃああね・・・美樹ちゃん。最近疲れてそうだから部屋帰ったらシャワー浴びてすぐ寝るんだよ?」

「わかってるはよ」

美樹がそういうと勝田は車を発進させた。


藤谷美樹は、マンションの部屋のソファにどさっと座って携帯を放り投げた。携帯を見たが、今日一日は忙しかったので携帯を見ている暇もなかったことを思いだした。

そこで携帯を開くと何通かメールが入っていた。その中に松田優からメールが入っていることに気が付いた。優からメールが来るのは初めてだった。

メールを開いてみた。

「この前はごめん。」

「は?何この短いメール・・・しかも全然悪びれてない。はー本当あいつプライド高い。自分から謝ったことないでしょ?」

よーしLINEを送ってやろう・・・

「なんなのよ?この短いメール」

自宅にいた優はLINEを見た。

「なんだ?めんどくさいな・・・」といいつつもすぐに返信した。

「別にいいだろ?謝ったんだから」

「謝ったって何あれ、全然感情こもってない・・・」

「そっちこそ謝ってないじゃん」

「だって・・・あれは・・・」

「あれは・・・?」

「わかったわよ・・・私も悪かったわよ。これでいい?」

「そっちも感情こもってないじゃん・・・」

「じゃあそれはお互い様ってことで・・・」

「なんだよ、それ」

「喧嘩両成敗ってことで・・・」

「なんだよ、それ、意味違くね?それって・・・」

「あはは、そうかも・・・」

「笑うところじゃねーし」

「そうかも。あ・・・」

「あ・・・って何?」

「なんか・・・久しぶりに聞いた。」

「何を?」

「なんだよ、それ・・・って」

「それが?」

「あなたの口癖。私それ好きなの。」

「なんだよ、それ?」

「そう、それ。何かクールなんだけどこっけいみたいな。」

「あ、そ!」

「何それ、怒ってるの(笑)?」

「別に・・・」

しばらく沈黙が続いた。

「あ、そうだ・・・まあ、この前さ・・・料理作りにいったのにほとんど作ってもらっちゃったからさ・・・」

「もらっちゃったから?」

「・・・なんかお詫びしようか?」

「はあ?どういう風の吹き回し?」

「別にいいじゃない。何か私プラン考えとくからさ、その日は予定空けといてよ?」

「プラン?」

「何か面白いこと思いついたらまた電話かLINEする。」

「はーとてつもなく嫌な予感がするけど、まあ任せた。」

「了解!」

しばらく二人とも入力しなかったため沈黙になってしまった。

「何か・・・しゃべってよ・・・」

「いや、そっちがだろ・・・」

「私もう全部話しちゃったし・・・」

「俺も・・・もう特に用事ないよ。」

「そ・・・じゃあ私ももうシャワー浴びて寝なきゃ。明日早いし。」

「俺も明日バイトあるから・・・」

「OK・・・じゃあ・・・ね」

「じゃあ・・・」

そういって二人ともLINEを止めた。

藤谷美樹は何かもっと話していたいという感情が自分にあるのを感じた。胸がドキドキしてるのだろうか?

優もなんだか仲直りできてうれしい感情が自分の中にあるのが明らかだった。


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