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ピアノマン  作者: 片田真太
2/10

アイドルからのご指名

松田優は眠いながらも自宅で起きた。

昨日勝田とかいう男からもらった名刺を眺めてみた。スカラープロダクションの藤谷美樹?どっかで聞いた名前だ・・・有名なアイドルの名前だったような気はするが同姓同名の可能性があった。有名なアイドルが自分に用などあるわけないと思ったからだ。いったい何者だ?

優はバイト先の同僚に藤谷美樹について聞いてみた。

「は?スカラープロダクション、藤谷美樹!!?え、あの藤谷美樹?」

「そんなに有名なの?」

「そんなこともしらねーのかよ」

音楽に没頭してあまりテレビを見ない優は名前をどこかで聞いたくらいだった。

「そういえばこの前うちに似た人来たって言ってたよね?」

「あああれか!・・・あれは誰か似た人でしょう!こんな無名の駅周辺のガソリンスタンドに超有名アイドルが来るわけないじゃん!」

「そうか、まあ・・・そりゃそうだよな・・・」

それを聞いてこの名刺なんかのいたずらじゃないか・・・?と思った。

そんな気がしてきた。そんな売れっ子のスーパアイドルが無名作家の自分に

用などあるわけがない。




藤谷美樹は「アイドル祭2016」に出演する予定だった。

また勝田の運転する車で現地まで移動した。

「ねえ勝田・・・今回この有紀凛って子なんか新人なの?なんでこの子がトリの私の一つ前なのよ?」

「ああ、凛ちゃんね・・・あははは。アニメ界でオタクに超人気で秋葉原からじわじわと人気が出て、今やオタクの間では女神様みたいな人気らしいよ?新人だけどめちゃくちゃ事務所に力があってね。メンフィスプロダクションだからね。だから美樹ちゃんの前なんじゃないかな・・・」

「ふーん」メンフィスは超大手のプロダクションでスカラープロダクションのライバルである。

でもだからって、なんで私の前なのよ?去年までは自分の前はそれなりの

ベテランアイドルでそういう慣例になってたはずなのに・・・

しかも自分は新人のときは前座をやらされてそれなりに苦労したのに・・・

美樹はそれが面白くなかった。有紀凛っていったいどっちが下の名前なのよ?変な名前だ、と美樹は嘲笑いたくなった。事務所のごり押しってこと??

「大丈夫だって。美樹ちゃん人気は今年もゆるぎないよ。ベテランなんだから堂々としてなって!」

ベテラン。そういわれるのもなんだかいやだった。もう若くはないってことなのか・・・



アイドル祭2016は大手テレビ局のスタジオの特設ステージにて行われた。

有紀凛の出番になると声援がめちゃくちゃ高まった。

「凛ちゃーん」

「愛してるよー」

とかオタクの声がハイテンションで響いた。

オタクの声援がすさまじかった。

美樹はステージの裏でそれを眺めていた。

「何よあれ、オタクの女神とか言っちゃってさ。気持ち悪い」

アニメの世界はよく分からないが、ファンの勢いに美樹はなんかぞっとした。

しかも有紀凛はオタクファンたちにウィンクしたり手を振ったりしていた。

「何あれ・・・新人のくせにもういっちょ前のぶりっ子サインかしら」

スタッフの人が勝田マネージャーに何やら話しかけてる。

「美樹ちゃんそろそろ出番だってよ。」

美樹の出番が来たようだった。美樹はステージに上がって行った。

「藤谷美樹でーす。皆様お待たせいたしました。今年もとりをやらせていただきます!」

「美樹ちゃーん!」

有紀凛の声援があまりにすさまじかったのでさすがの美樹もとりをやりづらくなった。それに自分の方が何か声援が少なくない?と思った。

そう思ったら美樹は急に焦りだして歌いだしを間違えてしまった。美樹らしくないミスだった。

「すみません、もう一度お願いします!」

ファンはざわざわしてたが、一人のファンが

「美樹ちゃん、あせらないで!そういう美樹ちゃんも好きだよー!」

と言ってくれたのでその場の雰囲気が和んだ。

そして彼女はもう一度歌いだした。


アイドル祭2016の楽屋

「美樹ちゃんよかったよ。お疲れ様」勝田は相変わらずいつも元気である。

売れっ子アイドルの超多忙なスケジュールをすべて管理していて自分もそれと

同じくらい忙しく動き回ってるのにいつも元気バリバリだった。昔、10年くらい前かつての伝説の超スーパーアイドル 月野令のマネージャーをやってたとか。その実績が買われてか、当時注目されていて売出し中だった藤谷美樹をスーパーアイドルに導くべきマネージャーに抜擢されたそうだ。

初めて会ったときのことは今でも忘れない。

「大丈夫、美樹ちゃん僕がついてるから安心して!あははは」

勝田はそんな感じで話しかけてきた。初対面なのにやたらハイテンションだったのを美樹は覚えていた。

確かに時々遅刻くせはあるものの、仕事は超がつくくらい優秀で非常にできる。もう40代らしいが、普通はマネージャーは若手がやるのだが、彼のようにマネージャーが好きでいつまでもやる人もいるらしい。

「なんなのよあれ?有紀凛って子」

「どうしたのさ美樹ちゃん」

「私のより声援が大きくなかった!?」

「気にしすぎだってストレスは美容によくないぞ。あまり気にしないで美樹ちゃんは美樹ちゃんらしくしてればいいんだよ!じゃあねお疲れ様!」

勝田はいつものハイテンションぶりで部屋を出ていったが美樹は有紀凛のことがまだ気になっていた。イライラしてきたのでタバコに火をつけて楽屋で吸った。けむりが楽屋中を覆った。




松田優はガソリンスタンドのアルバイトを終えて、駅前の屋台のラーメンを食べていた。屋台のおじさんに

「最近どうですか、景気は?」と聞かれた。

普通の会社員だと思われたのだろうか、優はよく分からないので

「さあ、ちょっとわからないです」

と答えた。

「みなさんどこも不景気で大変みたいですねー」

必死にいろいろ話題を振ってきたが

優はよくわらかないのでとにかくうなずいていた。

食べ終わった後に財布を取り出すと、勝田という男の名刺が見え隠れした。

少し気になったが勘定を払って自宅まで歩いていった。

今夜は比較的夜空はきれいだった。

黒い猫が自分の前を横切って行った。

「不吉だ・・・」

道理でコンペにまた落ちたわけだ・・・。




松田優は自分のぼろアパートに帰ると、机の横に置いてあったYAMAHAのシンセサイザーで自作曲を弾いた。ぼろアパートなので隣の部屋に響かない程度の音で・・・

そんな時、優の音大時代の友達の鎌田彩から電話があった。彼女は卒業後作曲活動をしたりバンドでキーボーディストをやっていたが、自宅でピアノや作曲の先生もしながら生計を立てていた。

「ひさしぶりー!」

「おう、久しぶり」

「ねえ、今度さ、ゼミのみんなで飲まない!?教授も呼んでさ・・・なんか高林教授が、論文で賞を取ったらしいのよ?」

この前教授に会ったときはそんなこと言ってなかったが彩はそのことを知っていたらしい。

「ゼミの飲み会なんて何年振りだよ。卒業してから一度もあってないやつとかもいるよ。」

「加藤くんとか?あーそういえば、私も全然会ってないや。何か普通に就職しちゃった人たちとか全然疎遠になっちゃったよね・・・」

彩もゼミの人たちとはたいぶ会ってないらしい。

「まあでも、今私いろんな人に声かけてるから、決まったらまた連絡するね!」

ぶちっと電話が切れた。

「おい!」

「行かねーぞ」優はためいきをつきながらそうつぶやいた。




藤谷美樹はテレビ局のスタジオの食堂で昼ご飯を食べ終えて階段を下りようとしていた。すると、階段の途中で野々宮妙子とすれ違った。

「あら、これは七光りのスーパーアイドルさんじゃない?」

相変わらずの嫌味な言い方だった。

「何よ、何の用?わたしあんたみたいに暇じゃないの、これからラジオ局とか行ったり大忙しだから」

「ふん、どうせもうすぐにでも忙しくなくなるわよ。あと何年もつのかしらアイドルなんて。私たち真面目に演技をしている女優からするとあなたみたいな七光りのアイドルにドラマの曲を歌われるって迷惑なのよね。ドラマが軽く見られちゃうのよ。視聴率は取れても」

「あっそ、よかったはね、あなただけじゃ視聴率なんて取れないだろうからね」

嫌味の言い合いだった。

「ちょっと、あんた!少し売れてるからって生意気よ」

「あ、そう。ならあんたも売れるように努力すれば?あの大根演技じゃね」

止まらなかった。

「ちょっと、なんなのよ!」

取っ組み合いの喧嘩になり始めた。テレビ局の社員が

「おいちょっとやめろよ二人とも」

仲裁しようとして止めに入った。

「あなたは関係ないでしょ?」

喧嘩が始まると野次馬がどんどん集まってきた。




何だかんだで優はゼミの集まりに参加することにしてしまった。バーレストランのようなところだった。予算が3000円くらいでいいってことで参加したのだが、その割になかなか立派なレストランだった。

「優!」鎌田彩が手を振った。

高林教授も来ていた。

「すみません、遅くなって」

優は教授には挨拶した。ほかの人たちも優に手を振った。

ぎりぎりまで行くのはやめようかとか考えていたがドタキャンするのも失礼なので参加することにしたため、家を出るのが少し遅れてしまった。

ゼミのメンバーは25人くらいいるのに教授を含めてたったの8人くらいしか

参加してないようだった。

加藤もいた。

「おー卒業以来じゃん全然変わってねーな相変わらず」

優は加藤の隣に座った。

加藤は何年か作曲活動をしていたが、夢はあきらめて今はレコード会社で企画をやっている。

「お前まだ作曲続けてるの?」

「あーまあね一応ね・・・」

「すごいよな、その根性。俺なんて一曲採用されたらもういいやって。とてもじゃないけど食ってけないって思ってやめちゃったよ。才能に限界感じてさ。」加藤は笑いながら答えた。

鎌田彩は

「でも加藤くんすごいよ、一曲だけでも採用されたんだからさ・・・」

「何いってんの、現役バリバリのお二人がたがさ・・・」そう言って加藤は豪快に笑った。すでに少し酔っているようだった。

他の参加メンバーはもう一つの違うテーブルの席で教授と食べたり飲んだりしながら会話を楽しんでいるようだった。教授は何やら音楽について熱く語っているようだったがあまりよく聞こえなかった。

鎌田彩の隣には鈴木杏子がいた。しばらくヤマハでエレクトーンの先生をしていたが、今は結婚して自宅でピアノ教室をやっているらしい。もうじき子供も生まれるらしい。

「いいなーみんな何か好きなこと仕事にできてて。私なんてとっくに夢なんかあきらめてもう結婚しちゃったし」

「何言ってんのよ。いい人と結婚できたくせに。何か大手広告代理店の人なんだって?」

鈴木杏子はにこっと笑って

「まあね・・・合コンで知り合って私彼のことずっと狙ってて」

優はよく知らなかったが、彩は杏子とは仲が良いらしくて、結婚式にも参加していたらしい。

「結婚式でもさえてたよね、杏子の旦那さん。すっごい素敵だった!そうそう杏子もうじき子供生まれるんだって!?」

そんな感じで女同士のガールズトークが始まった。

優は会話についていかれないので黙って食事を食べていた。

「なんか少ねーよな、参加者」

加藤が話しかけてきた。

「え?」

「あっちの席にいる綾部とかはさ、ラジオ番組のBGM制作とかしてるだろ、専門学校で音楽講師もしてるし。でもさ、他の奴らはみんなもう夢あきらめてるしね。しばらくバンドやってた篠田とかも最近全く音沙汰ねーな。やっぱりみんな参加しずれーんじゃねーの。俺はさもうすっぱり諦めてるからお気楽だけどさ・・・」

「なんだよ、それ」

「そんなもんだって現実は。ゼミの仲間っていってもみんなライバルでもあったわけだしね。音楽なんてつぶしきかないし、みんな今頃苦労してるんじゃねーのかな。その点お前はすげーよな。業界である程度知られてるんだろ?」

「別に、まだ全然無名だよ。才能なんかねーよ」

「何いってるんだよ、ゼミの教授いったぜ、おまえのお父さん松田寮って

すげー作曲家だったんだって?」

「そんなにすごくねーよ。」

確かに晩年売れて今でこそそこそこ知られてるが、若いうちは鳴かず飛ばずで売れない作曲家だったのを優はよく知っていた。

親父は理想が高くて最後まで妥協しなかった。でもそのせいで最後の最後まで理想の曲が作れず死んでいった。自分もいずれそうなるのか、と優は思った。

「まあ、とにかくお前はうちのゼミの期待の星なんだから頑張ってくれよ!」

加藤は相変わらずいいやつだった。

久しぶりだっていうのに昨日までゼミに顔を出してたようなきさくな感じだった。

加藤が立ち上がり

「えーみなさま!本日お忙しい中お集まりいただきありがとうございます!話のお取込み中すみませんが、メインイベントです!本日我がゼミ高林教授が論文で賞を取ったとのことで、どうぞスピーチをお願い致します!」

高林を照れくさそうにしていると、

「さ!どうぞどうぞ教授」

加藤が教授が席を立ちあがるのを手伝った。

「えー、まいったなー何言っていいのか」

高林教授は本当に照れ臭そうだった。

「えー、平成○○年度卒業生の皆様・・・本日はお集まりいただきありがとう。えー・・・」

そんな感じで高林教授は自分が取った論文の賞の内容やどういった経緯の研究をしているのか、とかそんな話を話し始めた。

難しく退屈な話なので優は眠くなってしまった。しかしスピーチの最後の方で

「・・・えーみなさん、みんな音楽を愛してますか?音楽をやっているとなかなか思うようにいかないとか、色々と辛いこともあると思いますけど、それはみなさんの糧となり肥やしとなりやがてそういうのが自分にとって素晴らしいものだって気づくときがきます。今は辛いかもしれないけど、音楽をやっててよかったって思えたら素敵ですね。それに夢をあきらめた人たちもきっと、音楽が人生の支えになってることだと思います。素晴らしい音楽は常にあなたたちの体の中でメロディーを奏でています。素晴らしい音楽はあなたたちの人生とともにあります。では乾杯!」

「乾杯!」そういってみんなワインやらビールやらカクテルを飲んだ。

優は教授の話を話半分に聞いていたが最後の話だけ気になった。半分は感動したが、半分は疑問が残った。

確かに音楽は素晴らしいってそう思えたらいいが・・・




教授のお祝い会がお開きなり、みんなで酔っぱらいながら駅まで帰る途中だった。

教授は女性メンバーと楽しそうに話していた。

加藤は酔っぱらって色々な人と肩を組んだり絡んでいた。

優は彩と一番後方を歩いていて、二人で話していた。

「久しぶりだったけど楽しかったね!」

「ああ・・・」松田はいつもながらローテンションだった。

「教授が言ってたようにさ・・・私たちあきらめないで音楽続けようよ!

今は辛いかもしれないけどさ」

「お前は全然辛そうじゃないけどな」

「松田君なによそれ・・・私だっていろいろ苦労してるんだからね」

「あーごめん。何かいつも楽しそうだからさ・・・」

「別にいいよ。あ、そうだ!」

「有賀泉さんって優の知り合いでしょ?バイオリニストの」

「ああ・・・」

といっても彼女は卒業後に留学しその後は海外のオーケストラを転々としていたので、卒業以来一度もあってなかったが・・・

「でも、なんで知ってるの?」

「何言ってんのよ、キャンパスで一度紹介してくれたじゃない。バイオリン科の人だって。優時々キャンパスで彼女と会話してたじゃない。」

「そうだったっけ?あまり覚えてないや・・・」

「もう、すぐ忘れちゃうんだから。年寄じゃないんだからさ・・・今度日本でオケのコンサートに出るんだって聞いたよ。」

彩は本当に情報通だ。いろいろなところに知り合いがいるのかなんでも知っている・・・

「え、海外にいるんじゃ・・・?」

「何言ってんの、この前帰国したんだってさ、知らないの?」

「え?」

優は戸惑った。

有賀泉が帰ってきてる?

駅前まで来たので他のみんなと別れることにした。

優は教授にもお辞儀をして挨拶をした。

「じゃあね松田君!まっすぐ帰るんだよ?」

「お前もな」

そういって鎌田彩とも改札前で別れた。




自宅に帰ると優はベッドであおむけになって寝ころんだ。

優は泉のことを思い出した。

あれは忘れもしない、大学2年が始まったばかりの春のときか・・・

大学の練習部屋で聞こえてきた、バイオリンの美しい音色。

それに惹かれて優は部屋の前でその演奏に聞きほれていた。

優は演奏のことはよく分からなかったが、大学で弦楽器の技法などを学んでいたのでその演奏が理論的に素晴らしいというのは分かった。

でもそんなこと関係なく彼女の演奏に聞きほれていた。

優が部屋の前で立ち止まって彼女の演奏を聴いていると、

廊下を誰かが走ってきて優の背中にぶつかった。その拍子に練習部屋のドアにあたってしまった。

ゴトン・・・しまった・・・

優は練習部屋の中に入り込んでしまった。

「どなた・・・ですか?」

「あ、いや・・・」

それが有賀泉との初めての出会いだった。

「どうしたんですか?」

「あ、いや」

優は泉に不意に一目ぼれしてしまった。

演奏だけでなく見た目も雰囲気もとても素敵できれいな女性だった。しばらく沈黙が続いてしまった。気まずくなって優は

「あの・・・演奏・・・素晴らしかったです。」

そういって優はなぜか走ってその場を逃げてしまった。

「あ、ちょっと」

その後のことを思い出そうとしたら、急に携帯に電話がかかってきた。

知らない番号だったか思わずとってしまった。

「もしもし・・・」

「ちょっと・・・どうなってるのあなた!」

「え!?」

いきなり知らない女性から電話がかかってきた。

「すみませんが、どなたでしょうか?」

「どなたじゃないはよ・・・名刺渡したでしょ。名刺・・・」

名刺・・・・?

「スカラープロダクションの勝田。マネージャー。藤谷美樹。まさか私のこと知らないわけないよね?」

「え?」

名刺ってあの名刺・・・?財布を取り出して名刺を見てみた。

「あのさ、有名アイドルから連絡くださいって言われたらふつう連絡するよね?いったい何日待たされたか。あなた音楽業界の人なんでしょ?だったら業界人の礼儀として当然でしょ?あなたそんなんじゃ業界でとてもじゃないけどこの先生き残れないわよ?」

ちょっとなんなんだこの女は?礼儀とか言われてもいきなりずかずかと電話を

してくるこの女にも礼儀なんてものがあるのか?

優は少しムッときた。

「とりあえずさ、会えないかな?」

いきなり単刀直入にその女は言ってきた。

「ちょっと待って・・・あなた・・・本当に本人なんですか?」

「当たり前でしょ」

「あなた住んでる場所って大井町方面よね?なら品川とかどう?パインズカフェで来週の日曜の12時に待ってるから。」

「ちょっと何なんですか?いきなり?」

「もうこっちは挨拶してるんだからいいでしょ?そっちが連絡よこさないのが失礼なんだからね?」

は?なんなんだこの女は?

「いいから、日曜日空いてるの空いてないの?」

日曜はバイトが・・・といっても午後3時からだが・・・

「日曜日は仕事が」

「仕事?作曲の仕事?」

「いや・・・別の仕事が・・・アルバイトですが・・・」

「は?アルバイト?作曲の仕事してるんじゃないの?」

デリカシーのない女だ。

「ちょっと待って私当分忙しくてさ、その日しか時間取れないから無理なの。だからその日でお願い」

「ちょっと急に言われましてもね・・・」

「いいからつべこべ言わないで来て。業界の仕事だと思って。」

「ちょっと」

「いいからじゃあね」

そういって電話は切られてしまった。

何なんだこの女は?本当に本人なのか?

腹が立ったが優はいたずらじゃないかどうか確かめるためにとりあえず行くことにした。


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