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【なろうラジオ大賞3】参加作品

密室は歌わない

作者: 鷹野 進

 

 リサイタルの後。

 控室で、テノール歌手の山吹純一(やまぶきじゅんいち)がうつ伏せに倒れていた。


 燕尾服の彼の背中には、垂直に突き刺さった包丁。流れ出た血は、グレーの絨毯を赤く染めている。


「さて。皆さん」


 白須賀(しらすが)が振り返った。警察手帳をジャケットへ仕舞う。


「いくつか、確認させてください」


 ごくり、と唾を飲み込む音が控室に響く。その場の全員が、気まずそうに視線をそらす。


「終演後の打合せに、顔を見せなかった山吹さんを呼びに来たのは……赤井亮さん、黒澤リサさん」

「あ、ああ」

 真っ青な顔をして、赤井が頷く。


「ドアを叩いても返事がないから、おかしいと思って。ドアに鍵が掛かっていたから、スタッフの青野にマスターキーで鍵を開けてもらったんだ。そしたら……」


 赤井の言葉を、黒澤が引き継ぐ。


「床に、山吹さんが、倒れていて」

 動揺する彼女の肩を、赤井がそっと抱き締める。

「控室の鍵は?」

 白須賀がスタッフの青野を見た。


「ええと、床の絨毯の上に落ちていました」

 答えながら、彼は唇を戦慄かせる。


「それを見つけたのは?」

「あ……、私です」

 消え入りそうな声で、黒澤が答えた。

「鍵には触れましたか?」

「えっ? いいえ」


「ーーなるほどね」

 白須賀の冷めた視線に、黒澤はびくりと肩を震わせた。赤井に支えられながら、彼女は言う。


「こ、これってーー密室殺人ですよね?」

「そうです」

 白須賀が首肯する。


「あなたが作り上げた、単純な密室だ」

 彼の人差し指が、黒澤を示した。


 さぁ、っと彼女の顔色が青ざめる。


「わ、私が山吹さんを殺したと言うの?」

「殺したかどうかは、一先ず置いておきます」

 怪訝そうに黒澤は眉を寄せた。


「しかし、黒澤さんが密室を作り上げた」

「ど、どうやって?」

 赤井が黒澤から離れ、一歩踏み出す。


「単純なことです。控室の鍵を使って、ドアを施錠する。あとは青野さんがマスターキーでドアを開けた後、隠し持っていた鍵を床に投げればいい。床は絨毯だ。音はしない」


「証拠がありません!」

 黒澤が叫ぶ。


「最初に、床の鍵を見つける。控室は密室だったと、皆に印象付けた」

「そんなの証拠にはならないわ!」


 白須賀が目を細めた。


「控室の鍵から、あなたの指紋が検出されたら、どうでしょう。()()()()()()()()()んですよね」


「……あぁ」

 黒澤が手で顔を覆い、座り込んだ。


「動機の歌は、警察署で聞きましょうか」

 無表情のまま、白須賀は彼女を見下ろす。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 小説情報を先に確認してから拝読しました。「ジャケットへ仕舞う」が凄いなぁと思いました。職業を名乗らないのに職業が分かる! タイトル&ラストの台詞がカッコいいです! 謎解きの最後は……(^_…
[一言] 目指したことに意義がある。(*´ー`*) その通り。よく挑戦した!(固い握手)
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