07 噂の虎女
とりあえず、周囲の目から逃げるように退散。
セリのおうち、つまり料理店にお邪魔することになった。
お腹も空いてたしちょうどいい。
あわよくばラーメンを…
「ただいまー」
「あら、セリじゃない。どこに行っていたの?」
「あ、え、えっと街を散歩してて…」
「そう? なら良かったわ。ところでそちらの可愛い女の子はどうしたの?」
「あ、えっとはじめまして。リンと言います。森の中で迷子になってた私を街まで案内してくれて…」
「ちょ、ちょっとリン…」
「ん?」
セリが少し慌て気味になっている。
「森!? セリ、あなた森に行っていたの?」
「う、その、母さん……その…」
「リンさん。詳しい話を聞かせてくれますか?」
「え?はい。えーっと………」
セリの母親はイリアさんと言うそうだ。
森の中でタイガーに襲われようとしていたセリを助けたことを話すと、セリは危ないから森に行くなと言われていたそうだ。
そりゃそうだ。
実際タイガーに襲われてるんだし。
そしてなにより気になったのは、妹のセアが病気でかなり苦しんでいるということだった。
セリは妹のセアのために森に薬草を取りに行っていたそうだ。
「セアが…セアが苦しんでるのに…薬も買えないから…わたしが薬草を取ってくるしかなくて…」
「セア?」
「ごめんね。リンちゃん。こんな話、初対面の子にするのはダメだと思うんだけどね…」
「ごめんなさい。イリアさん。もうわかりましたから。大丈夫です」
「リン……ううっ………」
セリが泣いている。まだ出会ってまもないセリだけど、泣いているところは想像できないほど立派な子だと思っていた。
なんか、つらいな。
妹のために危険承知で薬草を…
ありがちな話かもしれないけど、実際目の前で見るとやっぱりほっとけないな。
「セリ。ひとついいかな?」
「うん…」
「薬草があれば治るの?」
「わからない…だけど、薬草がなければもっと苦しいって、だから薬草があれば…」
「わかった。セリ。もしかしたら力になれるかもしれないから、私を商業ギルドまで案内してくれない?」
「え? …うん」
私のプランはこうだ。
とりあえず虎を売ってお金にする。いくらになるかわからないけど。
そのお金で門番さんのお金を引いたら薬草を買いに行く。とりあえずはそれで様子見しよう。
けど、森で見つけただけの薬草と、市販の薬草では効果は多分違うだろう。市販のは薬草というよりポーションに近いのかもしれない。
できればポーションを買いたいところだけど…。
そうこう考えていると、商業ギルドに着いた。
夕方前だ。この時間帯は空いてるのか、すんなりと受付に来れた。
「あの、タイガーを売りたいんですけど」
「はい。どの部位でしょうか」
「えっと、全体? 全部? です」
「はい?」
「丸々1匹です」
「えっと…あの…ど、どちらに…」
「あぁ、出しますね」
──── ゴフッ
「「「!?」」」
またこの反応だ。つい何も考えず出しちまった。セリのことで頭がいっぱいだった。
冷静な私はどこへ…。
「あ、あの…」
「買い取れる?」
「は、はい! も、もちろんです!! 少々お待ちください!」
そう言って受付の人は奥の方へと入っていった。
ちなみにセリは、私の腕にしがみついて顔を伏せている。
なにか必死に我慢していたのが爆発したのかもしれない。
しばらくすると、奥の方から先程の受付の人と、少し立場が高そうな美人のお姉さんが出てきた。
「すみませんが、市民カードなどはお持ちですか?」
「いや、持ってないんですけど」
「それでしたら、こちらの方でギルドカードを発行させて頂きたいのですが、よろしいでしょうか」
「それって冒険者ギルドでも使えるの?」
「はい。市民カード、冒険者ギルドカード、商業ギルドカードは全て同じカードに情報が保有されます」
「そうなんですね、それならなるべく早くしてくれると嬉しいかも」
「かしこまりました。それではとりあえずこちらにお名前を。具体的な情報についてはまた後日で構いません」
「ん」
名前は、御山凜? いや、おかしいよね。
リンでいいか。フルネームってどうなるんだろ…。
えっと、とりあえず名前だけでいいか。
てか、文字読めるんだけど。
異世界の定番じゃん。
書いてる言語は見たことないのに、何故か意味まで全部わかる。
これってこっちが日本語で書いても伝わるのかな?
ま、とりあえず
名前:リン
年齢:
出身地:
冒険者ランク:-
商業人ランク:-
称号:ー
「これでいい?」
「はい、少々お待ちください」
日本語で書いても伝わるのか…
便利だなぁ異世界。
すると間もなく、カードと共に金貨が渡された。
「こちらが市民カード及びタイガーの買取料金です」
「あ、門番さんにお金払ってないから、それ差し引いてもらえるかな?」
「そちらでしたらもう差し引いてありますので大丈夫です」
「えっ、そうなの」
えー、なんでだろ。
もしかして監視されてる…?
「可愛い女の子がタイガーを引きずり回して街の中で出し入れしている、もう街中が噂していますよ」
ひぃっっ!!!!
引きずり回すに関しては納得してるけどさ…出し入れはやばいでしょ…
「にしても、本当にこんな小さい可愛らしい子が…」
「あの、ごめんなさい。私もう行きます」
「あ、すみません失礼しました。最後になりましたが、私はムイと申します。これからもどうぞよろしくお願いします」
「あ、はい、リンです、よ、よろしくお願いします」
やべ、テンパりすぎてテンパったのが丸わかりじゃん!
てか、そんなことよりポーション…
あ、この人に聞けばいいか。
「あの、ムイさん。ポーションとかって売ってたりしますか?」
「ポーションですか? 少し高価ですがありますよ」
「あの、このお金で買えますか?」
「はい、数本は買えるお金になるかと」
すると、腕にしがみついていたセリが
「リン!! ダメだよ…う、嬉しいけど…そんな高価なもの…」
やっぱりそうなるよね。
「セリ、これはあなたが私を助けてくれたお礼だよ。あのままだったらお金もない私はどうなっていたかわからないよ」
「で、でも…リンみたいに強かったら………」
「セリ、それは今言っても何も変わらない。どうなっていたかは今はもうわからない」
「うっ…」
「だから、これは私のセリに対する感謝の気持ち。友達のありがとうは素直に受け取るものよ」
「リン…」
多少強引だけど、セリはしっかりものだ。
こうでもしないと納得してくれないと思った。
「ムイさん、ポーションお願いできますか」
「わかりました」
何本か買おうと思ったけど、どうやら1本で効かなければ、同じ人には何本試しても同じらしい。
詳しいことを聞いている暇はなかった。
なので1本しか買ってない。
ポーションを手に入れた私は、再びセリの家に戻る。