06 異世界の街
「リン、あれが街と繋がっている門だよ」
「てことはあの門から先は街ってことでいいよね?」
「そう。だけど、リンって市民カードもってたりする?」
「ごめん。持ってないんだ」
「そっか…。なら門番さんに銀貨1枚渡さないとね」
「あー…。ごめん、その…私途中でお金全部使っちゃって…。今お金ないんだ」
「え!?」
「あの、このタイガー売ったらお金返せると思うからさ、今代わりに門番さんにお金払ってくれない…?」
「ごめん。私も薬草取りに出かけただけだからお金持ってないんだ。あ、でも、ちょっとまってて」
そうするとセリは門番さんのところに駆け寄り、市民カードを見せた後、私の方を見て何やら説明を始めた。
その時門番さんの顔が一瞬驚愕したように見えたのだが、どうしたのだろう。
「リン! 門番さんに、ちょっと理由を説明したんだけど、中に入れてくれるって。その代わり後で商業ギルドに銀貨1枚払うように、って」
「おーっ! でかしたぞセリ! それでこそ我が友!!」
「リ、リン…大袈裟だよ…」
無事に街に入ることができた。
…
………んー。
なんかさっきからずっと見られてるんだけど…
「あの、リンって収納魔法使えたり、アイテム袋とか持ってたりしないの?」
「え? しないけど」
「あのー………タイガー引きずってるから…目立ってて恥ずかしいんだけど………」
……
あっ!!!!
わすれてた。
私、虎引きずり回してるんだった。
けど待てよ?
収納魔法? アイテム袋? そんな便利なものがあるの?
「あのさ、収納魔法ってどうやって使うの?」
「え!? リン無詠唱できるのに収納魔法使えないの!?」
え!? そんなに簡単なの!?
「えっと、もしかしてセリも使えるの?」
「うん、見ててね」
「選択……」
「排出」
すると、地面に魔法陣のようなものが浮かび上がり、そこから薬草らしきものがでてきた。
「これが収納魔法だよ」
どうやらセリが言うには、まず目の前にある収納したいものを頭の中でイメージし、「収納」と唱えることで収納できる。
取り出すときは「選択」と唱えることで、頭の中に収納されているものが浮かび上がってきて、選ぶことができる。選んだものをイメージして「排出」と唱えれば、今のように収納したものが出てくるようだ。
詠唱と言っても、短めの詠唱だ。
これは案外、私の無詠唱も隠す必要はないかもしれないのでは?
それはさておき、セリに言われた通りにやってみる。
「じゃあちょっとやってみるね」
「いや、リン待ってよ。いくらリンでもこのサイズの収納は無理だって。このタイガー5mはあるよ。しかも人から聞いただけでできるなんて……」
「そうなの? じゃあどれぐらいなら収納できるの?」
「えーっと…それは…もしかしたらリンならできるのかも…と思ったけど、このサイズはさすがに無理だと思う」
んー、サイズが大きいと無理なのかな?
まぁいいや。とりあえずやってみよう。
3次元空間に時間軸を追加した4次元空間を考えてっと、この虎がそこに転移するようなイメージで…
時間は止まっているほうがいいよね。
うーん…
「収納」
「「「「!?」」」」
目の前にいた虎が私の収納魔法により、収納された。
なんだ、入るじゃん。
えーっと、出す方法は…
「選択」
「排出」
───ゴフッ
これくらいイメージできるし無詠唱でよくない?
んーっと収納っと
「「「「…!?」」」」
選択して…排出っと
───ゴフッ
「「「「ハァ〜〜〜〜!?」」」」
え?出し入れしただけで騒がしすぎ……って
………そりゃそうか。
街の中で虎の出し入れってやばいか。非常識にも程があるか。
もし自分が街中で買い物袋から何回も意味なく商品出し入れしてる人見かけたら、変な目で見てしまうよね。
それが虎だったらますます…
「ちょ、ちょっとリン!!」
「な、なによ!?」
「あなたほんとに何者なの!?」
「え!?」
「ま、魔導書はもうこの際ともかく! 収納魔法にも大きさの限界があるの! 1番すごい人で2メートルって聞いたことあるよ。私は15センチぐらいのものしか入らないよ。さっき出した薬草でギリギリぐらいなのに…」
「えっとぉ…認識不足だった…」
「はぁ… とりあえずそのタイガーは、仕舞った方がいいよ」
「ああー。たしかに」
収納っと。
「「「「………」」」」
そんな異世界の仕組み知らないよ……。
私さっきこの世界に来たばかりなんだよ?
取扱説明書が欲しいよ。
とはいえやってしまったものは仕方ない。
変に言い訳しても混乱させるだけだ。もう考えるのやめよう。
ところで魔導書って言ってたような気がしたけど、なんなんだろう。