05 リンは非常識
「あの、セリ」
「は、はい!」
「ここどこ?」
「えっ?」
「ここどこ?」
「あっ、ここは、わたしの街の近くの森です」
街…
ということはそこにいけば多少のことはわかるのかな。
「実は私迷子になっちゃってさ、森を歩いてきたんだけど、もしよかったら街まで案内してくれない?」
「あ、あの…わかりましたっ!」
ラッキー。
見た感じめちゃくちゃ良い子そうだし。可愛いし。言うことないね!
歩き始めてしばらくすると、セリが話しかけてきた。
「あのー。リンさん。もし、嫌なことを聞いているんだったらごめんなさい。だけど、一ついいですか?」
「うん? どうした?」
「リンさんって、何者ですか?」
やば、どうしよ。
こういうのは素直に異世界転生してきましたと答えていいべきなのか。
例えばカミサマが1ヶ月に何人もポンポン異世界転生させていれば問題ないけど、そんなわけないよね。
こんな子が森に1人でいるわけだし。
もし異世界から来た人がポンポンいるなら、その人が街を発展させるなりなんなりして、そんな状況は起こらないだろうし。
やっぱり異世界転生する人はいないと仮定すべきなのかな。
「んーちょっとね。遠くのところから来たんだけどさ。親と喧嘩しちゃって。もう出ていってやるー! って言って家を出てきたの」
「………ごめんなさい…」
「良いの。謝らないで。それに、さっきのは冗談だったんだけど、本当は私も同じ14歳なんだ。だから、これからはリンって呼んで」
「で、でも、命の恩人にそんな…」
「いーのいーの! ほら、今日から友達になろ!」
「リンさ… うん! リン! 友達になろう!」
私、異世界でようやく人生初の友達ができた。
同年代の友達いなかったから、強気にいったら、できた。
緊張したぁ。
「あの、リンって魔法使えるの?」
「あ、見てた? 実はちょっとだけね」
「ちょっと…だけ……? それに、タイガーを蹴っ飛ばしたよね?」
タイガー?あぁ、あの虎。
「あぁーっ…うーんまぁそれもね…ちょっとだけ鍛えててね…」
「ちょっと………だけ……………」
「あ、あの、リンって冒険者なの?」
「冒険者?」
「うん。冒険者。さっきのはタイガーっていう魔物なんだけど、そういうのを討伐してお金を稼いだりする職業だよ」
あー。定番。
けど冒険者登録しとけばもしかしたら身分証代わりにもなるかも。
この世界にも保健証みたいな、身分証っていう概念あるのかな。
「んー、冒険者じゃないんだけど、なろうかなって思ってるんだ。私あんまり知らないんだけど、基準とかってあったりするの?」
「特にはないけど、13歳からなれるよ」
13歳からから命をかけて魔物狩り?
「けど、13歳からなる人なんて見たことも聞いたこともないよ。ましてやリンみたいな子供の女の子が冒険者なんて」
ふむふむ。つまり私は冒険者になれるってことか。
「さっきのタイガーとかも、売るとお金になるよ。タイガーなんて強い魔物だから、商業施設に持っていけば高く買い取ってもらえるよ」
「お金かぁ…」
ん?お金?
私お金持ってなくない?
「セリ、ここから街ってどれくらい?」
「えっと、もうすぐだと思うけど」
え? 近いじゃん。さっき倒したところからそこまで移動してないし。
「セリ、ちょっと待ってて」
────ゴォォォォオッ!!!
「リン!?」
「ふぅ、ごめん、お待たせ。」
「えっ、お待たせ? って? 何が起きたの?」
「え? さっきのタイガー取ってきた」
「えっ」
「え?」
え?
あ、やば。またセリが魔物に襲われちゃダメだと思って急いでたのか、速く走りすぎた。
「えーっと、ちょっと速く走りすぎたかな?」
「えっ? 走った…?」
……
沈黙が流れる。
「リンって何者なの?」
「え? さっきも言ったけど…」
「もう冗談はやめて」
「えっと、冗談というか…」
「いきなりタイガーが吹っ飛ぶし、土が無くなったと思ったら水が出てきて、水面は振動一つ揺らぐことなく綺麗なまま。どう考えても無詠唱で魔法使ったよね?」
「えっと。魔法使えたらまずかったりする…?」
「しないけど、しないけどさ! リンの魔法も身体能力もおかしいよ!!」
「え!? この、いせか…この街って魔法無詠唱で使ったり、速く走ったりしないの!?」
「魔法無詠唱なんて国王様を守ってる一部の強い人たちの領域だし、虎を蹴っ飛ばせる人なんて聞いたことないよ!!!!」
「えーーっ!!!!」
マジか…
私強すぎるとは思ったけど、そこまでとは。
あのカミサマ何やってんの?
「あの、セリ」
「う、うん」
「私たち、友達だよね」
「う、う、うん」
「私がどんなに強くても、恐れられたりしないよね」
「しないよ」
よかった。友達を失わずに済んだ。
とはいえ、私は能力を隠すべきなのか。
「ねぇセリ。私が強いことって、みんなから見たらどう感じると思う?」
「うーん、わたしは強いリン、かっこよくていいと思うよ。無詠唱なんて、魔法使いならみんな憧れるし。虎を蹴っ飛ばせるのも、憧れる…し………」
「ま、まぁ最後はともかく、私が強いからといっていきなり国に拘束されたり暗殺されたりとかはしないよね?」
「うん、それはないと思うよ。国王様もこの街の領主様もいい人だし」
「え? もしかしてセリは貴族なの??」
「ち、ちがうよ。わたしはただの14歳の女の子。実家はただの料理店だし」
「それならいっか。とりあえず街に戻ろう」
「うん!」
私、どうしよ…
特にすることもないのに異世界来ちゃったし…。
一旦街に入ってから考えることにしよう。