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02 誕生日、そして14歳。

 

 …



 ガタンゴトン

 ガタンゴトン


 ………朝か…。


 (どうかカミサマ…今日こそ異世界転生できていますように…!!)


 …


「ガッハー! 無念………」


 結局、今日もダメかぁ…。

 あ、いつもより8分目覚めが遅い。

 今日は土曜日だっけか。


 ということは…?


 今日頑張れば、明日は伝説のラーメン屋三郎の新作限定メニュー発売日っっ!!


 ぐふふふふふ…


 待っていろよ三郎……。


 私の腹の中に入ったが最後、その味は一生私の脳裏に焼き付くと思え!!!


 ふははははははははは!!!!





 ─────ガシャン

  玄関戸締りよし。



 ─────ピッ

  電光掲示板は…っと。よし、今日も遅延なし。優秀だねぇ。



(次はァ、桜町〜桜町〜お出口は〜左側デス)


 ─────ピシュゥ…


 さすがは朝だ。土曜日とはいえ相変わらず人多いなぁ。


 ─────ピッ


 改めて考えると、最寄駅から徒歩5分の職場って便利だなぁ。




 しばらく歩くと私の勤めている学校に着く。



 さて、間違えて厨二病がバレてしまわないように、冷静沈着、いつでもクールで可憐な先生を装って……と。


 校門をくぐり抜け、しばらくすると職員室の前にたどり着く。


 よしっ…

 準備OK。


 今日も、いざ参らん!



「先生方、おはようござ─────」 


「「「「お誕生日おめでとぉーっ!!!!」」」」


「ひえぇっ!?」

「凜先生!! お誕生日おめでとうございます!!ほんとは明日って知ってるんですけど、明日は日曜日で先生もいらっしゃらないですよね! それで1日早いんですけど、お祝いさせていただこうと思って!!!」



 里香先生相変わらず距離がちけぇしコミュ力半端ねぇよ!

 そしていい匂いする!! なにをつけたら人間こんないい匂いになるんだよっ!


「あっ、ありがとうございます…」


 くっ、独り身の私を気遣ってのお祝いなのかこれは…!

 嬉しいのに、なんだか悔しいっ…!!


 てか、完全に三郎の限定メニューにしか意識がいってなかったけど、明日私の誕生日じゃん。


 28にもなって私……。


 っっ私っ!!なにしてるの!!


 若手の新人先生を始め、なんともまぁいい歳した先生まで私の誕生日を祝ってくれた。

 私は教え方にかなり腕前があり、自分で言うのもアレだが、大人気な先生だ。


 将来安泰間違いなしだね。


 まぁ、明日で28歳の誕生日なのに未だいい男に恵まれていないのは残念だけど。

 ビジュアルに自信もなければファッションに興味もない。


 それに追い討ちするように、私のラーメン好きは周りにドン引きされるレベルだ。

 どうしてもその日しか都合が合わず、昼休みに全速力で限定のラーメンを食べに行って帰ってきたことがある。

 それまでは可憐な先生だったはずなのに、それ以来、私への扱いが適当になった気がする。

 まぁ、完全に自業自得だけど。


 そんなこんなで朝のホームルームを前に、先生たちから誕生日を祝ってもらい、今日も私の仕事が始まった。





 授業も雑務も終わり、家に帰ってきた。


「はぁ、疲れたぁ……しかし、なんで誕生日バレたんだっけ……」


 と考えるが、一向に思い出せない。

 元々友達もいなければ、ワケあって親とも疎遠な私にとって、誕生日を祝われるイベントは、嬉しい反面中々に疲労が溜まる。


「ま、いっか…」


 そう思いながら、目を閉じた。


 この歳になって初めて、あんな人数に誕生日を祝ってもらったかもしれない。

 

 案外悪くないかも…。


 もし生まれ変わったら、美味しいラーメンも食べれて気兼ねない友達にも恵まれて、幸せな生活送れないかなぁ。


 ……



 異世界転生…かぁ……


 ………




 …




 ─────

 




  き   ……


 きろぉ〜 ………


 ─────おきろぉ〜〜!!!!




 … んぅ…もう朝…?


「あれっ電車は?」

「おぉ〜起きたか。凜よ。」

「んぅ〜? ん〜〜〜う〜誰?」


 誰?


 

 ……って誰!?


 家の中に知らないおっさんがいるんだけど!?


 えっ!?

 わたし昨日浮かれてて鍵閉めるの忘れてた!?


「だ、お、お、おっさん誰!?」

「おぉおぉ。ワシをオッサン呼びとは」

「まじで誰!? 警察! 携帯!!」


 …


 ってあれ? 携帯どこ?


 ん? まずそもそもここどこ?


 え? もしかして?


 ………って、夢か。


「…コホンッ。失礼しました。少し取り乱しました。えーっと、あなたはどちら様でしょうか」

「オホホ。よいよい。凜のことは生まれた時からずっと見ておる。そのような取り繕った喋り方はワシの前ではせんでよい」

「えっと、私のことを見てたって…どういうこと?」

「いや、見始めたのはここ10年じゃが、凜の人生を少しばかり1から見させてもろてのう。なかなかに良い野望じゃぞ」

「……?」

「異世界転生」

「…!!!」

「したいじゃろ?」

「したいっっっ!!」


 ─────ハッ!!


 私としたことが。

 こんな夢で必死に大声張り上げて。みっともない。


「えっとー。ごめんなさい。私は明日ラーメン三郎の限定メニューに並ぶので、もう寝ますね」

「ちょっと待たんかい! ワシのこと信じとらんな!!」


 えっと、ほんとに誰。


「あのぉ、ほんとに誰ですか。久しぶりにこんなリアルな夢を見たので、自分でも少し怖いんだけど」

「夢じゃとなぁ…。まあ端的に言おう、ワシはカミサマじゃ」


 ん?


「凜が14年間毎日祈ってきたじゃろ? ワシも少々暇してたのでその思いを聞き届けようと思ってな」


 ん?


「まぁ夢のような話ではあるが、どうすれば信じてもらえるかの?」


 頭の処理が追いつかない。

 寝ぼけているの? 夢? どうなっているの?


「えと…じゃあ、明日のラーメン三郎の限定メニュー出してくれませんか?」


 ─────ポンッ


「!??!?」


 こ、これは…間違いなくラーメン三郎の限定メニューっ!!!

 事前発表されていたビジュアルと同じ…!!

 いや、それよりちょっと汚い!!!


 な、なんとも…リアルだ………


「あ、あの、食べてもいいのですか?」

「あぁ、もちろんじゃ」


 なんと律儀に箸とレンゲにコップ、おしぼりはセルフサービスだ。


 って!?

 そんなとこまで再現されてんの!?


 まぁ良い。

 スープを一口。


「………!!」


 うまい。うますぎる。

 近年研究されてきた、ガラと水の比率に関する歴史を塗り替えたと言われている三郎の限定メニュー。

 こんな味は今まで食べたことがない。

 化学調味料の味も去ることながら、スープがうまい…!


 麺、麺に手を伸ばす。


 うまい……


 オー○ョン100%使用の麺であることは食べればわかる。そしてこの絶妙な加水率と茹で加減。


「あの、これは…」

「ん? 凜が言うた通りのものじゃが?」

「えっと、今まで食べたことがない味です。今まで食べたことがない味って夢の中で再現できるものなのでしょうか」

「ハハハ。まだ信じとらんのか。これは夢じゃないぞ」


 やばい。美味しすぎる。

 涙が出る。一体どんなものを使えば、どれだけ煮込めば、どの火加減で作れば、こんな美味しいものが出来上がるんだ。


 もうこれは、信じるしかない。

 ラーメンを食べ続けて10年以上。自分の舌はラーメンに関して言えば、プロだ。


 間違いない…

 夢じゃない…



「ホッホッホッ。信じてくれたかの?」

「うん。信じる」


 食べ終えた器が、今まであった景色が、消えていく。


「それじゃ、異世界転生するかの?」

「えっ!?」

「『えっ!?』って、凜の夢じゃろ」

「え、それはそうだけど」

「ワシに任せちょれ」

「え、そんな簡単にできるの? まぁカミサマだというのはもはや信じるしかないから信じるけどさ…」

「できるとも。ただまぁ多少の条件はあるがの」

「なに? もうこの際なんでもありに思えてきたよ。教えて」


 そう言って、私に教えてくれたのは転生の条件、というよりはむしろ、カミサマに願いが伝わるための条件だった。


 ─────人生の半分以上の時間、ある一つの目的のためにカミサマを信じること。


 そうすることによって、カミサマに願いが通じるという。


「ワシらカミサマにも得意分野というべきか、そういうものがあっての。ワシの得意分野は転生じゃ。じゃからリンを転生させてやろうと思っての」

「他にもカミサマがいるってこと?」

「たくさんおるの。ラーメンの神だっておる」


 絶妙に気になるところ攻めてきたよ。

 『健康』とか『平和』とかならわかるけど、ラーメンまで神がいたらもう何でもありじゃん。


「まず誰かの願いが、部下達へと内容ごとに分けられて伝わるのじゃ。その後に精査され、最終的にワシらが願いを聞き届けるか判断をするのじゃ」


 天界にも事務作業する係がいるのかよ。


「なるほど。この際ラーメンの神は置いとくとして。人生の半分以上の時間って言うけど、カミサマを信じている人たちはそれぐらい普通なんじゃないの?」


 私はカミサマをこの上なく信じているわけではない。

 そう考えれば、私よりも願いを叶えるために祈ったりしている人は多いはず。


「もちろんそうじゃ。じゃがしかし、願いを聞き入れるための具体的な基準などは特にないのじゃよ」

「私がなぜか気に入られたってこと?」

「ホホホ」


 なんか気持ち悪くなってきたよ、この(カミサマ)


「んー、細かいことはわからないんだけど、要するに私が異世界転生できるってことで良いんだよね?」

「もちろんじゃ。転生は得意分野と言ったじゃろ。そうじゃな……」

 

 続けて、カミサマは何やらニヤつきながら私にこう聞いてきた。


「せっかくじゃし、何か転生する際に欲しいモノはあるか?」

「なんでもいいの?」

「構わんよ」

「んー、異世界に行って貴族になりたいわけでもないしな…。地位も権力もいらないけど、魔法をぶっぱしてみたいとは思うかな。かっこいいじゃん。あ、でも痛いのは嫌だから、丈夫な体がいいかも」


 魔法は使いたいよね。

 どうせ異世界に行くんだし。

 

「ふむふむ。魔法を()()()か。それに()()()()のぉ。いいじゃろ」

「よしっ!! ちなみに私はどんな世界に転生するの?」

「んー、ま、まあ魔法のある世界じゃが、そ、その辺は創造神が、き、き決めたり、す、すること…?での……わ、ワシにもよくわからんのじゃが───」


 いきなり小声になって動揺してるけどどうしたの…?


 ま、まさか!?


「いきなり戦場とかはやめてよ!?」

「それはないから安心せい」

「わ、わかった」

「ホッホッホッ」


 なんか、カミサマって意外とフレンドリーじゃん。


「あっ、そうじゃ。1ついうことを忘れておったわ」

「ん? どうしたの?」

「転生の代償があっての。ワシらに願いを捧げていた時間が、欲しいんじゃ」

「ん?よくわからないけど、転生できるならなんでもいいよ」

「フム。なかなか判断が早くて助かるの。そんじゃ、準備はできとるかい?」


 ラーメン三郎の限定メニューを食べたいまの私に後悔の2文字はない!


「いつでも!」

「ほいじゃ、存分に異世界生活を楽しむんじゃぞ」


 その瞬間、私の周りが眩しい光に包まれる。


 私、今から転生するんだ……!


 夢が叶った……。


 『念願の異世界ライフ』


 こんなセリフ、まさか私が言えるなんて………!


 私の頭の中は、転生できたことの喜びで溢れ、これから起こるであろう事を想像することすらままならない。




 そんな刹那、さっきのカミサマの声が微かに聞こえた。




 「────14歳の凜も、ワシはなかなか可愛いと思うぞ」


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[一言] 残してきた家族や友達に対する感情が何一つないとかこの主人公非情だなぁ
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