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レビダ村、剣闘会当日の早朝。

私リオナ・メナスはいつも通り裏庭でトレーニングに励んでいた。


「まずは、ウィルバートの閃光剣」

少し腰を落とし、左下から右上、また左下と、それを少しずつ横にずらしながら連続で振り切る技。前世でプレイしていた格闘ゲーム『グラディアトル』での最推しキャラだったウィルバートの基本的な攻撃の一つ。同じ力量で振り続けるのに最初こそ時間がかかったが、今では私の中でのウォーミングアップ的な素振りだ。この素振りによってその日の体調の変化に気付けることもある。


「うん、いい調子だわ」

コンディションは上々、安心した。今日は自分の将来に関わる大事な一日だ。何せあの国家騎士団に入団できるかもしれないのだから。


「左手もやっとこう」

閃光剣左手バージョンも、特訓すれば利き手の右手と同じくらいのスピードを出せるようになった。全ての技をバランス良く左右で出せるまでにトレーニングするのが私のこだわりだ。


「次は···」

ふと、後ろに人の気配を感じて振り返る。


「おじいちゃん!」

「やっとるのぉ、リオナ」


私の祖父であり剣の師、ロドリゴ・メナス。

若い頃は国家騎士団に所属していた凄腕の剣士だったとか。

騎士団にいた頃は鬼のような強さで周りから恐れられていたのだというが、今ではいつもニコニコしている優しいおじいちゃんだ。

ただ、剣の稽古となるとそのニコニコした顔とは裏腹に鬼のようなスパルタ加減で、私をかなり鍛えてくれた。そのおかげで小さい頃から毎日のように身体中に傷を作り、その度に私とおじいちゃんは娘を心配するお母さんからギャンギャンとお説教を受けてきた。それでもその厳しい稽古を続けてきたおかげか、今ではそれほど傷を作ることもなくなり、お説教タイムも随分と減った。そんな私の成長を、いつもおじいちゃんは喜んでくれた。

可愛い孫にも手を抜かずに指導してくれるおじいちゃんが、私は大好きだ。


「今年こそ騎士団に入団できるといいのぉ。まぁ伝統を重んじる古臭い組織だからの、一筋縄ではいかんとは思うが···」

もっさりとした髭を指で弄りながら、近くの切り株に腰掛ける。


「そうなのよね。今年もとりあえず優勝して、入団させて欲しいって直談判してみようと思うの。もしダメって言われたらその時は···おじいちゃんの力でなんとかならない?」

「フォッフォッフォッ、可愛い孫の頼みだからのぉ〜仲介してやらんこともないが···それでも承諾してもらえるか怪しいのぉ。騎士団管轄の役人は昔から頭が硬い連中でのぉ〜」


それに、と続ける。

「わしの手塩に掛けた可愛い可愛い孫娘が、自らの力で騎士団入団すら勝ち取れんなんてことは···恥ずかしゅうて恥ずかしゅうて···我が剣術教室も評判ガタ落ちじゃのぉ〜」


そうは思わんか?とニコニコしながら問い掛けてくる。おじいちゃんは相変わらず、私のプライドを逆撫でするのが上手い。


「自力でなんとかしろってことでしょ。聞いてみただけ、最初からそのつもりよ。おじいちゃんの力に頼って入団なんて、そんなの胸を張って入団できたって言えないもの。力を見せつけて、絶対欲しがらせてみせる!私はこの村で一番の剣の使い手なんだから!!」


ブンッ、と、剣を大きく振り下ろす。気合い十分。あとは実行に移すのみ。

「一応、作戦はあるの。見ててよおじいちゃん、きっと入団を勝ち取ってみせるから!」

フォッフォッフォッ···と笑うおじいちゃんに見守られながら、私は鼻息荒くトレーニングを再開した。





村の剣闘会は天候にも恵まれ、予定通り開催の運びとなった。

村には屋台が立ち並びお祭りムードで、子供達がそこら中ではしゃいでいる。


剣闘会の対戦相手は最初にくじ引きで決まる。ちなみに私は昨年の優勝者なのでシード権があり、一巡目は見学になる。

この剣闘会には年齢制限も参加条件もない。老若男女誰でも参加できる。

優勝者には僅かな賞金とフルーツ盛り合わせがプレゼントされる。なので騎士団からのスカウトが一番の目玉といったところか。

しかし、中には騎士団入団には興味なく、純粋に試合を楽しみたいという者や腕試しの為に参加する者など様々だ。そもそもレビダの村人達は幼い頃から剣を嗜む者が多く、その剣術レベルの平均値はかなり高いと言われている。レビダの強者と戦ってみたいという他の村や町出身の者達も集まってくるというわけだ。


村の入口の方から、馬が数頭駆けてくる音がする。シンプルなシルエットかつ遠目でも美しい装飾の施された騎士団の制服を着た男達がやってきた。

例年通り、騎士団から3名が剣闘会を観戦しにやってきたようだ。村長達が挨拶を交わし、来賓席へ案内している。


(二人は見覚えがある。昨年も来てたわね。一人は副団長だったかしら)

騎士団の面々に気を取られていると、ピーッと、試合開始の合図である笛の音がした。

(いよいよ始まる···!)


剣闘会では、当日参加者に支給される木剣と木盾で試合をする。

制限時間は20分。必ず審判が付き、一方的に攻撃を受けるような状態が続いたり、木剣が場外に飛ばされたり、負傷して試合継続不可能な状態になると試合終了の判定が下される。


「リオナお姉ちゃん!」

「エルザ!おはよう」

無垢な笑顔のエルザが近寄ってきてくれた。


「調子はどう?」

「ばっちりだよ!昨日もいっぱい特訓したし、よく眠ったし、朝ご飯もいっぱい食べたの」

「それは良かったわ。今日が初参加だけど、緊張···はしてなさそうね」

「うん、大丈夫!」

エルザのこういう肝が座っているところは、素直にすごいと思う。

「アルウィンは?」

「次の試合だよ。お兄ちゃんの対戦相手は隣町の人みたい」

エルザが指で示した先に、近くの鍛冶屋の壁板に背を預けて目を瞑っているアルウィンの姿があった。精神統一中のようだ。


アルウィンもエルザも、私と一緒におじいちゃんの指導をよく受けていた。そしておじいちゃんのにこやかな笑顔と裏腹な、めちゃくちゃな特訓にもなんとか喰らいついてきたガッツのある兄妹だ。前世のゲーム『グラディアトル』を模倣する私の自主トレにもよく付き合ってくれて、無茶な剣技を嫌な顔せず受け止めてくれる。きっと二人とも、良い試合をすることだろう。

「エルザの相手は、シュタインね」

「そうなの!シュタインお兄ちゃんと闘うの初めてだから、とっても楽しみだよ!」

シュタインは私の2個上で、近所の鍛冶屋の後継ぎだ。優しくて温厚な性格で、小さい頃はよく遊んでくれた。

(妹のようなエルザが相手じゃ、シュタインも本気が出せないかもね。エルザにとっては丁度良いハンデになりそう)

エルザだって毎日トレーニングに励み、日々強くなっている。しかし、まだ隙が多いのも事実だ。おそらくシュタインが勝つだろう。


「リオナお姉ちゃんの相手は、誰になるんだろうねぇ」

「そうね···今年は村の外からの参加者も多いから、全く知らない人と闘う可能性もありそうね。それはそれで、事前情報が無い分楽しめそうだから大歓迎かな」

年々周辺の村や町からの参加者が増えている。レビダ村は小さな村だが、こうして他から注目されるのはレビダ村の村人として喜ばしいことだ。

そんな雑談を交わしているうちに、ピッピッピィーッと第一試合終了の笛の音がなった。


その後、第二試合出場のアルウィンは対戦相手の右横腹への攻撃が決め手となり無事勝利。エルザは昨年よりも安定した剣の動きでなかなかに奮闘していたが、予想通りシュタインに敗れてしまった。トーナメントの結果、私はやはり初めましての隣の村出身の初参加者と対戦することとなった。


「これより、レビダ村出身リオナ・メナス対、ゲルニア村出身ヴィド・クラウスナーの試合を始める」

ピィィィーッ!

やっと闘える。久しぶりの本気の試合に、胸が高まる。


「ハッ!!」

まずは様子見で木剣を一振り。

相手はそれを木盾でいなし、すぐに攻撃してきた。左肩に刺すように飛んできた木剣を右にジャンプして躱す。

(おお、手加減なさそう!)


私と初めて対戦する人は、一見華奢に見える身体に油断するのか余裕を見せた振る舞いをすることが多い。人によってはあからさまな手加減をしようとしてくる。でもこの相手は、初手から私を倒そうという強い意思を感じる。


(そうこなくっちゃ!!)


しばらく、激しい打ち合いが続く。相手は剣を振るスピードもなかなか早く、一撃に重みもある。背は私より高いが軽やかに飛び、的確な場所に刺してくる。良い勝負ができている。嬉しい。

でもそろそろ時間切れになってしまう。この辺で決着をつけなければ。

(それじゃあここらで、模倣技を)


すぅーっと息を吸い込んだ次の瞬間、グッと剣を握る手に力を込める。

そして相手の方へ走り込み、手元を目掛けて、振り上げた。

(一閃!!)


ガッ!!、と木剣同士がぶつかる音が響き、相手の木剣が空高く舞った。




ピッ、ピッ、ピィーッ。


カランカランカラン···と、飛ばされた木剣が場外に転がった。

試合終了だ。


「勝者、リオナ・メナス!」


ワアアーッ、と観客から拍手や歓声が上がった。

「ふぅ」

まずは無事に一勝を得られて安堵する。


「リオナお姉ちゃん!」

駆け寄ってきてくれたエルザと、軽く握った右手をトン、と当て合う。

「相手の人、初参加だったみたいだけど、リオナお姉ちゃんの攻撃を上手く躱してたね!打ち合いも長かったよね。強かったの?」

「そうね···剣の使い方は巧い方だと思うよ。振り下ろす力も見た目よりは重みがあるかな。突き刺す攻撃が得意みたいなんだけど、もっとスピードと精度と角度を極めればウィルバートの秘技の一つ『光彩陸離』に近づけそうな剣筋でとても参考になったわ。やっぱり実際の人の動きを見るとイメージが具現化されるのかしらインスピレーションと記憶力が刺激されて模倣技のクオリティアップに繋げられそうで早く練習したくなっちゃったわ···!!」

冷静に分析しようと話し出したのになんだかソワソワしてきた。

「リオナお姉ちゃんがワクワクする相手で良かったね!」


エルザやアルウィンには、転生前の記憶については話していない。話したところですんなり信じられるようなものでもないから。でもつい転生前のことや格闘ゲーム『グラディアトル』に関することを口走ってしまうことがあり、彼らには「夢の中で見たこと」として話したりしている。ウィルバートなんかは私の夢の話に何度も出てくるお馴染みのキャラクターとして認識してくれているというわけだ。

今日の夢に出てきた新しいウィルバートの技があるんだけど、というように毎回説明しては、アルウィンから「その剣技を再現するの無理があるだろ···」とよく呆れられている。それもそうだ。何せウィルバートの剣は『光の魔法』が付与されている魔剣で、『グラディアトル』に出てくるキャラクター達はそれぞれの魔剣を持ってして闘うのである。

キャラクターごとに、火の魔剣、水の魔剣、風の魔剣、土の魔剣、雷の魔剣、光の魔剣、闇の魔剣があり、その魔法属性はそのまま国を表すシンボルとなっている。

私達が生まれ育った国・ルクスティアは光の国と呼ばれており、ゲーム通り光魔法を持つ人がこの国を他国から守ってくれているそうだ。王族の誰かが魔力保持者だという噂だが、詳細は伏せられている。その魔力保持者から信を得られた者だけが魔剣を手にし、それを操ることができる。

そう、私が日々剣技を磨き特訓を重ねているのは、いつかこの魔剣を手にして更に魔剣の使い手の頂点に立つ為。


(ゲームの記憶のおかげで予習ができるのはかなりの幸運。でもそれに胡座をかいてちゃ意味がない。魔剣を持つに相応しい力と技を知恵とセンスを磨いて、いつか憧れの光の魔剣をこの手に···!!)


「さぁ〜空き時間に『光彩陸離』の特訓しなきゃ!!」


「まーた剣術オタクが一人の世界に入り込んでるな···」

「そうなの、アルウィンお兄ちゃん。さっきの初戦が、難しい技のヒントになったみたいだよ!」


次の試合までの空き時間はどれくらいだろうか。

私は模倣技の特訓をする為に、人の少ない場所を探そうと足早に歩き出した。

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