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翌朝、私は普段よりも早く起きて急いで朝食をたいらげ、昨夜まとめた荷物の最終チェックをしていた。

玄関の扉が開き、フランツお兄ちゃんが顔を覗かせる。



「リオナ、荷馬車の用意ができたぞ」



お兄ちゃんの後を追って扉の外に出ると、そこにはニ頭の馬と簡易な屋根の付いた荷車があった。



「村の馬小屋から一番大きい奴らを連れてきた。よく世話してやれよ」

「ありがとうお兄ちゃん!」



馬の顔を撫でながらお礼を言う。

荷車の中を覗くと、馬の世話道具一式と、昨夜の盗賊の三人が手足を縄で縛られた状態のまま奥に乗せられていた。

ヴィドの痺れ薬の効果がまだ続いているようで、三人とも起きてはいるようだがぐったりとしている。



「お兄ちゃん一人で盗賊達を乗せたの?」

「いや、ガットマンさん達にも手伝ってもらった」



お兄ちゃんが目配せした方を見ると、こちらへやってくるエルザとアルウィンとその家族達の姿が見えた。


「リオナお姉ちゃん、おはよう!」

「おはようエルザ!皆もおはよう」



エルザが私目掛けて駆け足で近寄って来てくれた。



「リオナお姉ちゃん、出発を許してもらえて良かったね!私も一緒に行きたかったなぁ〜!昨日家に戻ってからおじいちゃんやお父さん達に何回も何回もお願いしたんだけどエルザはまだ弱いから駄目だって言われちゃったの。悔しいからエルザ、お姉ちゃん達がいない間に剣の特訓頑張るね!」


私の側に来たエルザが堰を切ったように話す。

この様子だと、家で相当ゴネてきたのだろう。


「そうだったんだ。うん、特訓して強くなって、一緒に旅しようね!」

「絶対だよ!あ〜あ、リオナお姉ちゃんもアルウィンお兄ちゃんもいなくなるの寂しいなぁ〜」

「私もエルザに会えないのは本当に寂しいよ。村に戻ってきたらまた一緒に模倣技ごっこしようね」

「うん!楽しみにしてるね!早く帰って来てね!」


毎日のように一緒に剣を交えていたエルザと会えなくなるのは、一番辛いかもしれない。

私の剣術オタクな話をいつも興味深そうに聞いてくれて、更に練習にも付き合ってくれていたエルザは、私にとって最大の理解者と言える。

ちなみにアルウィンに同じように話をしたとしても、「へー」という聞いてるのか聞いてないのかよく分からない気の無い返事ばかりで、いまいち話甲斐がないのだ。



(···必要最低限しか喋りません、て感じのヴィドは下手したら反応すら返してくれなさそうだし、話を聞いてくれる人がいないってのは辛いかもなぁ···。あ、そういえば火の魔剣の話はアルウィンが近くにいる時はできないんだ!それって話せる機会あるのかな?なんとかヴィドと二人になるタイミングを見計らって······)



そんなことを考えてる内に、アルウィンとエルザのお父さんとお母さんが近付いて来た。



「リオナちゃんおはよう〜。ついに旅立ちの時ねぇ、寂しくなるわぁ〜」

「おはようリオナ。昨日は疲れただろう、よく眠れたかい?」




アルウィンのお父さんはとても陽気で優しい人で、幼い頃から私のことも自分の子供のようにとても可愛がってくれた。

私のお父さんとは幼馴染で、一緒に騎士団で働いていたこともあるそうだ。

お父さんが怪我により騎士団を辞めた後、しばらくしてアルウィンのお父さんも退団し、村に戻ってきたと聞いている。詳しくは分からないが、私のお父さんを心配して村に帰ってきてくれたんじゃないかと私は勝手に考えている。村に戻ってからは、アンドルフ村長のサポートとして立ち回る他、実家の鍛冶屋を継いだ。アルウィンの家はレビダ村で最も古い鍛冶屋の一つだ。




「うん!しっかり眠れたし、体の調子もばっちり」

「そうか、それは良かった。リオナ、アルウィンをよろしく頼むな。最近は大人びたことを言うようになったが、まだまだ抜けてるところもあるからな」

「あら、リオナちゃんと一緒なら大丈夫よ〜。リオナちゃんを守る為に一生懸命動いてくれると思うわ。二人とも仲良く頑張ってねぇ〜」

「父さんも母さんも、余計なこと言わなくていいから!」


アルウィンが、ぶすっとした表情で口を挟む。

こういう表情が出るところがまだまだ子供っぽくて可愛いな、と私は弟分のアルウィンを見て思った。



次に、アルウィンの後ろにいたアンドルフ村長が、アルウィンの肩に手を乗せながら口を開いた。



「アルウィンには、わしの代行者としての手紙を渡してある。王都に着いたら騎士団が警備でうろうろしとるじゃろうから、誰かを捕まえて隊長以上の者に取り次いでもらいなさい。レビダ村の長からの緊急連絡だとしっかり伝えるように」



アンドルフ村長からの話を受け、私は元気良く返事をする。



「うん、分かったわ。もしも怪しまれたら、アルウィンの持つレビダの紋章を見せればいいのよね」



レビダの村長の家に代々受け継がれている紋章はレビダの誇りとも言える剣をあしらった模様で出来ており、いつもアルウィンが好んで身に着けている首飾りに木彫りの紋章が付いている。今日もアルウィンの首元にはその首飾りが見えた。



「まぁ最悪、剣闘会に来てた騎士団の人達に会えれば、身元は確実に分かってもらえるだろ」



アルウィンが荷馬車に荷物を運び込みながら言う。

確かに、あのグラニス隊長ならしっかりと話を聞いてくれるだろう。



(国の一大事の報せを持って行けば、ご褒美に一試合くらい相手してくれるかな。あのクラヴィスっていう騎士との再戦でもいいな)



密かにグラニス隊長への見返りについて考えていたら、アルウィン達の後ろから見覚えのある人物がこちらに向かって歩いて来ることに気付いた。



ヴィド・クラウスナーだ。





「ヴィド!おはよう」




ヴィドは私の挨拶に、軽く頷いて返事をした。

昨夜返した長剣を背に、短剣を腰に装備している。



「あんたも昨日はお疲れだったな。よく休めたか?今日からしばらく、うちのアルウィンとリオナのことを宜しく頼むよ」



アルウィンのお父さんがにこやかにヴィドへ声を掛ける。

ヴィドは表情を変えることなく、「こちらこそ」とだけ返した。

相変わらずコミュニケーションが最低限だ。



今度はアンドルフ村長がヴィドへと声を掛ける。

「クラウスナーさん、我々レビダの大切な子供達のこと、宜しくお願い致しますぞ」




「············」




(ん?)




ヴィドが、少し固まった気がした。

その後すぐにヴィドはこくりと頷いて村長へ返事をした。




(······急に話し掛けられて驚いたとか?)




ヴィドは続けて「荷物を載せても?」と尋ね、村長がどうぞと言うと荷物を荷馬車へと載せ始めた。

ヴィドが荷馬車の中へと顔を覗かせると、「ヒッ!···ぐ···ぅ···」と盗賊達の誰かが漏らした声が聞こえた。




(ヴィドのことを恐がってるのね。まぁあの炎責めを受けたら、そうなるか)



昨夜の、炎が盗賊達を囲っていた様子を思い出す。

改めて考えればあれは到底有り得ない光景であり、盗賊達が怯えるのも無理はないだろう。





「···リオナ」



後ろから、フランツお兄ちゃんが小声で私に声を掛けてきた。

「何?」


お兄ちゃんは私の手を引いて、ヴィドやアルウィン達と十分距離を取ってから引き続き小声で話し出した。




「···あのクラウスナーって奴、確かにうちに入り込んだ盗賊達を捕まえるのを手助けしてくれたかもしれないが、簡単に見ず知らずの男に気を許すなよ。恩もあるしたまたま王都へ行くというから同行してもらうが、どんな奴かも分からん野郎と数日寝食共にするなんて本当なら兄ちゃんは反対だ。くれぐれも変な事されないように気を付けろよ」



「へ、変な事って!ないないない!考え過ぎだよお兄ちゃん!」

ヴィドは確かに昨日が初対面で知り合ってまだ数時間ではあるが、とてもお兄ちゃんが言うような人物とは思えなかったので、私は全力で否定した。



「お前は世間知らずだからな。どんな奴でも、常に警戒しとけよ!王都に着いても知らない奴にひょいひょい付いていくんじゃないぞ」


「私のこと何歳だと思ってるの?そんな誰彼構わず付いていくわけないでしょ!もう、お母さんに似て心配性なんだから」


「とにかく、アルウィンの側を離れるんじゃないぞ。村を出れば信用のおける人間はそうそういないと思え。いいな!」


毎度毎度、うちの家族のアルウィンへの信頼の高さは何なのだろう。

いや私もアルウィンのことはとても信頼しているんだけれども。



(私の方が歳上なんですけど······)






「あら、皆さんお揃いなのね!お父さん、おじいちゃん、そろそろ出発ですよ!」


お母さんが、私の荷物を持って外に出てきた。

「はいこれ、入り口に置きっ放しだったわよ。忘れ物はない?ちゃんと防具は着けてから行くのよ」

「うん、分かってる。ありがとう」


お母さんの手から荷物と防具、そして長剣を受け取り、荷物を荷馬車へと積み込む。護身用の短剣は腰に付けているが、長剣はひとまず荷馬車へ載せた。

そして前々から父に頼んで造ってもらっていた胸当ての防具をその場で身に着ける。

頼んだ時は単に剣士の気分になれるからという安易な理由だったのだが、こうして実用的に役立てられる日がきたのはとても嬉しい。






「···どうか、リオナを守ってね」


お母さんが、私の身に付けた防具と短剣に手を添えながら、祈るように呟く。

お母さんの心配そうな表情はいつも疎ましく感じている私だが、今日は少しだけ素直に受け止められている気がする。



「無茶はしないようにね。盗賊を引き渡した後は、一度村へ戻ってきてゆっくり旅支度をしてからまた出発すればいいのよ?クーデターのことも今貴女がどうこうできるものではないんだから」


「分かってるって!村にすぐ戻るかは状況によるけど······できるだけ早く帰るようにするから。お母さんもあんまり私の心配ばっかりしてると体壊しちゃうよ。······そう、それよりも、旅を通して私が強い剣士になっていくのを想像して、帰るのを楽しみにしてて!」




これは名案だ!と思って話したのだが、お母さんは「貴女って子は······!」と大きな溜息を吐いている。




お母さんの後ろで今の会話を聞いていたお父さんは苦笑し、ロドリゴおじいちゃんは「それでこそお前さんじゃ。期待しとるぞ!」と言ってフォッフォッフォッといつものように笑っていた。

横にいたフランツお兄ちゃんは、「この剣馬鹿······」と言って呆れた顔をしている。




ああ、我が家のいつもの光景だ。これが見れなくなるのは、寂しい。




しかし、私はようやく大いなる野望に向けての第一歩を踏み出そうとしているのだ。

世界一の剣士への道が、今ここから始まる。

そう思うと、もう胸の高鳴りを抑えることは不可能だった。




「よーし、まずはなんとしてでも無事に王都まで辿り着いてやるわ!アルウィン、ヴィド、出発よ!!」


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