■第3章 警護官殺し
■第3章 警護官殺し
「助けてくれ!!」
「・・・・・」
手から黒い稲妻が走り、叫び声をあげたものは絶命した。
***
「酷いな、これで何件目だ?」
「もう今月だけで20件を超えますね。」
「警護官殺し。黒魔術師で間違いないな。」
「ええ、それなりの腕の警護官も殺されているのでかなりの使い手でしょう」
「警護官は常に2名以上で警護にあたり、犯人を発見したら無理をせず、本部に連絡するように伝えよ」
「承知しました。」
***
「ただいま。いい子にしてたか?」
ロイが疲れた様子で部屋に入ってきた。
「ロイ、驚くなよ!サンダーここまでできるようになったぜ」
タンバリンをたたく前のように両手を拡げ、その中に何本もの電流を走らせる。
「おお、なかなかのサンダーだな。電気屋が向いているかもしれない。」
「あー、まあ仕事はそのうち考えるよ。それよりどうした?酷く疲れているみたいだが」
「今日また警護官殺しがあったんだ。ソラは知らないかもしれないが、最近警護官を狙った
殺人が多発している。」
(・・大きな街にも関わらず、人々がどこか不安げだったのはそういうことか)
「それは物騒だな、俺がなんとかしてやろうか?」
「・・・なにいってるんだ、魔法もろくに使えないやつになんとかできるものか」
ロイはあきれて聞き流していたが、この夢の世界は眠る前にみた「英雄物語」という本の影響だ。
恐らく俺にはこの国を救うことができるのだろう。
(夢の中でこのままただ暮らすだけじゃ、つまらない、どうせなら冒険してみよう。)
俺はロイが寝た夜中に、一人外に抜け出し警護官殺しを探すことにした。
***
俺は夜中に物音を立てないようこっそりと部屋をでた。
ロイはやはり疲れていたのだろう、耳をふさぎたくなるようないびきをかいて寝ていた。
外にでて改めてこの国を眺める。やはり、この国はきれいだ。
夜の街並の景色は今から殺人犯を探しにいくとは思えないほど、心を澄ませてくれる。
満月に近い月の光に照らされてレンガで作られた住宅街がつやつやと輝いている。
サンダーは疲れるからか、部屋の明かりはあまり灯っておらず、街灯も少ない。
月の光を頼りに街を歩いていると、ランタンのようなものをもった三人組が近寄ってきた。
「こんなところで一人何をしている。」
近くでみるとロイと同じ制服を着ているため、警護官のようだ。
なるほど、この街の人はフレイムで火を灯して夜道を歩くのか。
「いや、最近この国に来たものなんだが、警護官殺しの話を聞いてね」
「そうだ、今この国は厳重体制をとっている。怪しい者は調べさせてもらうぞ。」
(・・・そうか。確かに一人夜道を歩いている俺は怪しいな)
「えーっと、むしろ俺はあなた方の役に立ちたいのだけれど、、」
「我々の役に立ちたいのなら、身分証明書を見せてくれないか」
警護官は不審な目でこっちを見ている。また俺は警護所に連れて行かれるのか。
ーーーーっ!!、なんだこの悪寒はっ!
突然、息をするのが苦しくなった。
父がとても大事にしていた銅像を落として粉々にしてしまい、後ろに父が立っていたときの感覚だ。
後ろに何かが、いる。。だが、振り向けない。。
振り向きたくても恐怖で体が動かないのだ。
警護官もそいつに気づき、何か声をだそうとしたが、その瞬間ーー。
目の前の3人の警護官はバタバタと倒れてしまった。
「君は不思議だなぁ・・・」
後ろのそいつが声をだす。とても冷たい声だ。
(これは夢だ!これは夢だ!)
普段なら叫んで逃げるところだが、夢までそんな格好悪いことはしたくない。
「これでもくらえっ!」
振り向いてすぐさま両手から渾身のサンダーをぶちまけてやった。
しかし稲妻はあたっているはずなのに、ぎりぎりのところで何かにはじかれている。
サンダーの光が飛び散る中でみたそいつは、全身真っ黒でフードを深くかぶっていた。
フードから覗いたその奥の瞳は真っ赤だった。まるで飢えた獣だ。
恐怖という言葉では生易しい。本能が死を告げるという言葉の意味がわかった。
バチィ!
はじかれたサンダーの一部が自分の足に跳ね返り、太ももから血がでている。
ーー痛いっ。夢の中でもなんとなく痛みを感じることはあるが、
鮮明な痛みと血が滴る感触が、紛れもなくこれは現実だということをいやでも思い知らされる。
現実だと感じると途端に怖くなった。怖い!怖い!
あれ、、息が上手くできない。苦しい。。足がすくむ。。。
「ソラ、逃げろ!!!」
突然、上空からフードの男にロイが斬り掛かった。
だが、剣もそいつに触れる前に止まってしまう。
「ロイっ、、」
俺は混乱していたが、フードの男がロイに意識が向いた瞬間、一目散にその場から逃げたっ!!
走り方などめちゃくちゃで、少しでもフードの男から離れたい一心だった!
しばらく走った後、足がもつれ転んだ。。足が痛い。心臓が破裂しそうな程、脈打っている。
汗が体中を滝のように流れる。息が苦しい。
俺は何をやっているんだ?!これは夢じゃないのか?
頭が混乱している。ただ少し冷静になり、ロイを置いてきてしまったことに後悔した。
ーーーロイは大丈夫なのか。いや、あいつは警護官だ、大丈夫なはずだ!
でも俺の前で3人の警護官は殺されてしまった。。
でも俺がいって何になる。そうだよ、魔法も今日覚えたばかりで、
全力のサンダーも役に立たなかったじゃないか!
そうだ。現実的に考えて、俺が助けにいってもロイの足を引っ張るだけだ。
だったらあの場をすぐに離れた方がいい。これはロイのためなんだ。
応援を呼ぼう。電話はこの国にはないみたいだし、警護所に向かうのが一番いい。
ーーーいつもこうだ。頭の中で言い訳ばかりがでてきて自分を正当化しようとする。
警護所に向かって、応援を呼ぶ時間がないことは分かっていた。
いますぐ、ロイを助けにいかなければ、ロイは死ぬ。いやもう死んでいるかもしれない。
・・・夢の中でさえも自分は勇敢に戦うこともできないのか。
根拠のない自信でもいいじゃないか。言い訳ばかり考えて動かないのはもう、ーーーやめよう。
キィーーーーン、ヴォンッ!!
***
「うおぉぉぉ!」
ロイは叫びながら一心不乱にフードの男に斬り掛かる。
だが、全く剣が届かない。相手は何かを気にかけているのか、
攻撃してこないが、俺はもうすぐ殺されるだろう。ソラは上手く逃げれただろうか。
キィーーーーン、ヴォンッ!!
突然ロイの目の前の時空が歪み、ソラが現れた。
「ロイ!無事かっ!!」
「な、なんで逃げなかった!お前が来ても死ぬだけだぞ!!」
「そんなことはどうでもいいんだ。あのまま逃げたら俺は死ぬより後悔する!
ロイ、一緒に逃げるぞ!」
勝算はまるでなく、逃げることも難しいことは分かっていた。
だが、ソラは強く、ロイの場所に戻りたいと願ったことで時空を超えていた。
なぜ、時空を超えれたのかは分からない。やはり夢の中なのか。
でも、もう一度。もう一度だけ、ロイと一緒に時空を超えられれば・・・。
ソラはロイの手を掴み、寮の部屋を強烈にイメージした。
ーーー集中しろっ!神経を研ぎ澄ませるんだ!こんなところで死んでたまるか!!
キィーーーーン、ヴォンッ!!
次の瞬間ソラとロイは寮の中にいた。
「・・・どうなってる?」
ロイは突然のできごとに混乱している。正直、俺自身もそうだ。
「・・この世界は俺の夢だって言っただろ?
夢の中で移動しようと思えば違う場所に移動できた経験ないか?」
「まさか、ソラが? 時空間移動の魔法を?」
「あぁ、多分。。とにかく無事でよかった。」
「・・・信じられないが、とりあえず、警護所へ向かおう。・・・警護所にも跳べるのか?」
「ちょっとまって、・・・あれ、無理みたいだ。警護所の位置もよくわからないし」
少し落ち着いて気づいたが、時空を移動した後から、すごく頭が痛い。。
「そうか、それじゃあ、あいつに見つからないように急ごう!」