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第1話

 書いても、書いても、報われている気がしなかった。

 作家の道はまだ諦めていない。だから、仕事の傍ら、小説を書いて、イベントに参加して、自分で製作した本を売っている。おかげさまでそれなりに、名前は知られてきたと思う。

 オリジナルで、小説で、百部。同人活動を始めてから、一つの目標にしていた地点に、ようやく、到達した、はずだ。

 だけど、……報われている気が、しなかった。


 万年筆から手を離す。ペン先が一瞬、ノートを噛んで、それから紙面に倒れ伏す。

 PARKERのエンブレムは元の形よりわずかに歪んでいる。この十年、どこへ行くにも持ち運んでいたせいだ。


 十年。そんなに経ったのか、と椅子の背もたれに背中を預けて、伸びをしながら、考える。この万年筆を贈られてから。

 これで文字を書く時、私は、いつだって胸にルサンチマンを宿している。

 ついでに、自分への苛立ちも。




 中学の頃まで、私は読書なんて趣味じゃなかった。突然出会って、好きになって、そして半年もしないうちに、人生の向きを決定づけられた。

 たまたま、読書感想文の課題で選んだ本。その中に収録されていた短編を読んで、涙がぽろぽろと溢れた。炎に包まれた本が、無数の蝶となって未明の空に消えていく。その場面が、どうしてだか、わからないけど、それが、切実に胸を打った。


 自分で小説を書き始めたのは、その感想を、うまく言葉ではまとめきれなかったから。小説でなら、書き起こせたから。そうして、書いて、自分で書く喜びも知った。

 自分で本を読んで、書いた。ものを食べてエネルギーを得て、活動をするみたいに本を読んだ。好きな作家の本は、溜まっていたお年玉を使って全部買った。


 創作をはじめて、しばらくすると、欲が出た。その作家が選考委員を務める、青少年向けの公募があると、母が教えてくれた。出してみたら? と何気なく言われた。もしかしたら、と思った。読んでもらえるかもしれない。


 彼女の小説のような、幻想的で、耽美な小説を書いた。拙いながらも、うまく書けた。母に見せると驚いた様子で、だけど、すぐお父さんにも見せに行った。両親に褒められて、それで、期待した。


 だけど。期待は、思わぬ形で裏切られた。

 最終選考まで残った私の小説は、私と同じ中学に通う、女の子の作品に負けた。

 全然、彼女の小説とは違う作品。スポーツに打ち込む少女が足を怪我して、練習を休まなくてはいけないけれど落ち着かないから、散歩する。ただそれだけのお話だった。

 彼女はその子の作品を、独特な感性を持って書かれた小説で、詩歌の道に進むことも期待する、と書いていた。一方で、いま一歩及ばなかった作品は、自分だけの感性を磨いてください。

 悔しかった。だって、彼女に認めてもらえなかったから。

 その上、よりによって、私が負けた相手が、私の同級生だったから。


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