二話 異世界ガチャ
「おお! 異世界だ! めっちゃ異世界!!!」
外へ出ると、そこにはテンプレ通りといわんばかりの異世界が広がっていた。
これだよ、これ。俺の求めていた光景は! ありがとう異世界、さようなら現実。 俺はしばらくこの世界で生きていきます!
「まるで田舎者みたいな反応ね。サツキの元いた世界はそんなに寂れてたのかしら?」
俺のはしゃぎっぷりに、横にいるアザレアは呆れた顔で聞いてきた。
「俺の世界じゃ鉄の塊が空飛んでるけどな」
「嘘でしょ?! めっちゃ都会じゃない!」
興味津々な様子で食いついてくるアザレア。
嘘はついていないが……すんなり信じるのか。第一印象が最悪だったから気づかなかったが、こいつはアホなだけで根は悪いやつじゃないのかもしれない。
そんな会話をしながら歩いていると、街の人たち話しかけてきた。
「あっ、領主様。おはようございます!」
「アザレア様、今日も大変麗しゅうございます!」
「ええ、ごきげんよう。わたしが美しいのは当然だけど、口に出して称えるのは大事なことね。褒めてあげるわ」
どうやらアザレアは本物の貴族のようだ。そういえば、俺が召喚された場所も豪邸の一室だったし納得の話だ。
すれ違う大人はアザレアに会釈するし、多勢の子どもたちまで話しかけてきた。
「あっ、ボツラクキゾクのアザレア様だ! おはよー!」
「なんですって?! このクソガキ、こっちに来なさい!」
「あはは! 怒った! ボツラクキゾクのアザレア様が怒った! 逃げろー!」
悲報 アザレア、没落貴族だった。
鬼の形相で子どもを追いかけるアザレア。そこそこの美人も形なしだった。
数分後、アザレアが帰ってきたので再び目的地へと向かう。少しすると、立派な石造りの建物が見えてきた。
「着いたわ。ここが"迷宮"よ!」
ここが……迷宮!
今まで画面でポチポチ行っていた戦いを、俺は体験しようとしている……!
「あ、忘れてた。はい、これがサツキの武器ね」
そう言って、アザレアがなにか手渡してきた。
それは剣というにはあまりに小さすぎた。
小さく、細く、軽く、そして大雑把すぎた。
それはまさに木の枝だった。……いや、木刀……か?
枝か木刀か、絶妙に判断がつかない。
「まさかこれで戦えっていうのか?」
「そうよ、わたしの手作り。作るのに一日かかったんだから。一階層目の敵は弱いからきっと大丈夫よだいじょうぶ。さあ行くわよ!」
ふ、不安だ……。
◯
ダンジョンに入るや否や大量のスライムとゴブリンが襲いかかってきた。
「ぐぎゃ、ぐぎゃぎゃ!」
「じゅる、じゅるるる!」
「いけ、サツキ! そこで躱してカウンターよ!」
「…………俺はポケ〇ンじゃねえぞ!」
次々に湧いてくるスライムとゴブリンをアザレアの指示で倒していく。ポ〇モンにでもなった気分だ。
初めての戦闘、もうちょっと苦戦するのかと思ってたんだけどな。ドラマチックな展開なんて一切ないエセ木刀を振るだけの簡単なお仕事だった。
一つ問題があるとすれば……
「ひゅ〜! Rのくせにやるじゃなやない、見直したわ! さあ、まだまだ湧いてくるからどんどん倒すのよ!」
……こいつ、いるか?
俺が戦っているあいだ、後ろの方でチョロチョロ。たまに指示を出してくるかと思えば、そのどれもがなんかふんわりしてて、まるで役に立たない。
じゃあ次からは俺一人で来よう……と思ったが、そうはいかないらしい。
どうも召喚獣である俺は、アザレアから離れすぎると力が出せないようになっているとのこと。Bluetoothイヤホンにでもなった気分だ。
はぁ、しばらくはアザレアと一緒に行動するしかないのか。
俺が諦めて、もう何体目かも分からないゴブリンを倒したときに、変化は起こった。
「うおっ、なんだこれ?!」
倒したゴブリンの体が光り始めた。
今まで倒したスライムやゴブリンは、すぐに霧のようになって消えていったはずなのに、だ。
「よくやったわ、サツキ! これを待ってたのよ!」
うおっ! びっくりした。
後ろの方でチョロチョロしていたアザレアが、すごい勢いでこちらに駆けてきた。
「なぁ、これなにが起こってるんだ?」
「ふふふ、まあいいから見てなさい」
俺の質問に答えず、満面の笑みを浮かべるアザレア。
言われたとおりに見続けていると、やがて光は収まっていき、ゴブリンがいた場所には小さな石が一つ転がっていた。
これってまさか……!
「魔晶石か!」
「あら、知ってるのね。その通りよ。魔物を倒したときに低確率で魔晶石に変化するの。これを集めることこそ、わたしたちの当面の目標よ!」
まじか、めっちゃイージーゲームじゃないですか!
今までゲームの中では、せこせこ課金して手に入れてた魔晶石が、まさかドロップアイテム扱いだったなんて。そんなことがあっていいのか? そんなの、ガチャ回し放題、召喚し放題じゃないか!
「よっしゃ、アザレア! 今すぐ魔晶石を集めるぞ! ゴブリンでもスライムでかかってこいやあああ!」
「な、なによ。いきなりやる気出しちゃって。まあ悪いことじゃないんだけど」
………………
…………
……
……疲れた。
あれから一時間くらい戦い続けたのに、入手できた魔晶石はわずか三つ。割りに合わんぞ!
「もう無理、疲れた! あったかいお風呂に入ってあったかい布団でぐっすり眠りたい!」
「さっきまでのやる気はどこいったのよ! ……仕方ないわね。まぁでも、わたしもちょっと疲れたし今日はこのへんにして帰りましょうか」
おまえはなんにもしてねーだろーが! という言葉をグッと飲み込み、帰りの支度をする。
えーっと持ち帰るものは……エセ木刀だけか。
よし、じゃあ帰るか。俺が迷宮の出口に足を進めようとしたとき、アザレアの手が俺の肩を掴んだ。
「あっ、ちょっと待った。今からご褒美の時間だから」
「......ご褒美? なにするつもりだ?」
「ふふふ、まあいいから見てなさいって」
そう言って、アザレアは地面になにかを描いていく。まずは大きな円を。次に円の中に複雑な模様を描いていく。
これは……魔方陣ってやつか?
「さあ始めるわよ!」
そして、さきほど入手した魔晶石を魔方陣の上に落とし、なにかを唱えはじめた。
ここまでくればさすがに分かった。アザレアはガチャを……つまり召喚をするつもりだ!
「贄に魔晶石を。楔にこの身を」
魔方陣が妖しく光る。
「あらゆる世界、あらゆる可能性から汝を此処に」
魔性石も輝きはじめた。
「我が声に応えよ、我が召喚に応じよ」
その光は次第に強くなっていき……
「我が名はアザレア。汝を従え導く者なりーー」
あたりに轟音が鳴り響いた。
「きた、きた、きた! きたわよぉおおお!」
耳をつんざくようなアザレアの声……も今は気にならなかった。
俺の目は、目の前の魔方陣と魔晶石に釘付けだ。
見たことあるぞ、この光景! 見たことあるぞ、この演出!! これが…………ガチャか!!!
Rか? SRか? 男、女、どっちだ? かわいいのか?
もしかして…………SSRなのか?!
やがて光は収まっていく。そうすると、今まで見えなかった召喚されたものの正体が見えてきた。
…………?!
俺は、こいつを知っている!!!
シミひとつない綺麗な白色に、誰しもを包んでくれる包容力。
楽しいことがあった日も、嫌なことがあった日も、なにもなかった日でも優しく俺を癒してくれた、まるで聖母のような存在。
綺麗で、優しくて、そして温かい。
こいつの正体は…………!
「……………………布団?」
布団だ。召喚されたのは紛れもなく布団だった。
現状に理解が追いつかない。
俺の頭のなかは疑問符でいっぱいだ。
「と゛お゛し゛て゛な゛の゛お゛お゛お゛?!」
横から聞こえてくるアザレアの奇声が気にならないくらいには。