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迷宮&召喚獣  作者: くじら
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一話 迷宮&召喚獣 (前編)


 またR。

 スマホの画面を数回タッチするごとに、諭吉が一人消えていく。

 それでも、それでも次こそは引けると信じて、ガチャを回し続ける。


「大丈夫、大丈夫だ俺。ここまで外れてきたのはこのときのため……次こそは必ず引けるはず!」


 狙うのは最高レアのSSR。震える指先でスマホの画面に触れる。

 そのとき世界がいつもより何倍もゆっくりに感じた。


 R!


 R!


 R!


 R!


 R!…………R!!!



「ああぁああああ!! これだけ回して出ないのはおかしいだろおおおおおお!」


 スマホを握る手に力が入り、思わず壁に投げつけそうになる。そうして手を振り上げた瞬間、不自然なほど冷静さを取り戻し、壁ではなく布団にスマホを投げつけた。ボフッという音ともにスマホが跳ね、そのまま流れるように自分も布団へと倒れこむ。


 ああ、自分はなんて馬鹿なことをしたんだろう。この短時間で消えた諭吉は五人。

 もうやめよう。ガチャは悪い文化だ。

 目当てのSSRを手に入れることはできなかったが、とうの昔に財布の中身は素寒貧。これ以上回すと生活に支障をきたしてしまう。いやもう既にきたしているが、生きていけなくなるという意味合いだ。



 迷宮&召喚獣 <ダンジョン&サモンズ>

 スマートフォンの普及とともに台頭し、今なおサービスを続けている息の長いソーシャルゲームだ。

 召喚したキャラクターやモンスターの"召喚獣"とともに"迷宮"を攻略していくという、テンプレートに沿ったような神ゲーだ。

 ……いや、嘘。ちょっとキャラ絵が良いだけの、金食い虫のクソゲーだ。


 迷宮&召喚獣がクソゲーたる所以。それはソシャゲ特有の"ガチャ"の存在だ。

 召喚獣は強さによってランク分けされている。R、HR、SR、SSRの順だ。

 そして最高レアのSSRは、そのガチャでしか入手できないのだ。有償アイテムの"魔晶石"を5個使用することで、レアリティの高い召喚獣を入手することができるガチャを回すことができる。

 このガチャが、はっきり言って沼だ。それもドブ沼。何人もの人が沈んできたことか。かくいう俺もその一人である。


 一万課金しても最弱のRしか出てこない、なんてのはよくあること。次こそはSSRを引くんだとガチャを回しつづけて、気づけば課金額が家賃を超えていたなんて話も聞く。おぞましい話だ。まあ俺の話なんですけど。


 だからこそ、もうガチャを回すのはやめにするんだ。今までの課金額を想像しただけでめまいがする。

 その金があれば、一年は働かないで暮らしていけただろうに……。いや、今も働いてないけど。


 迷宮&召喚獣もやめよう……と何度決心したことか。

 でもできなかった。これまで歩いてきた自分を否定するみたいで……。あっ、今のなんか感動的。

 せめて、せめて課金だけはもうやめよう。こんなクソゲーに課金するなんて馬鹿みたいじゃあないか。


「……よし! 次の十連を最後にしよう!」


 そう決心して、コンビニに行こうと布団から立ち上がったそのときだった。


「な、な、なんだこれ?!」


 突如、銀色の光が辺りを照らしはじめた。足元には魔法陣のようなものがあらわれ、そのあまりのまぶしさに目を開いていられない。


「ぬわあああああああああ?!」


 体が妙な浮遊感に包まれ、この世界から離れていくような感覚におそわれた。



 ………………

 …………

 ……



 銀色の光が収まって目を開いたとき、俺は見知らぬ部屋に立っていた。無駄に広くて、中世ヨーロッパを彷彿させるような装飾が施された部屋。


「ちょっとおおおおおお! これだけ回してR一体だけなんておかしいでしょおおおおおお?!」


 そして目の前には、一人のうるさい女が立っていた。



 〇




 女が立っていた。

 腰まで届きそうな長い金髪に、街ですれ違ったら10人のうち7人は二度見しそうな美貌。それに不釣り合いな質素な格好をしていた。


「うぅ……、一ヶ月分の生活費を費やしてノーマル一人だけなんておかしいでしょぉ……」


 だが、美人が帳消しになるほどうるさい。

 両手を床についてうなだれながら、ガチャがどーの、低レアがどーのと言っている。背景にわなわなとかいったオノマトペがでてきそうだ。


「あの、そろそろ状況を説明して……」


 全く意味不明な状況だったので、目の前のうるさい女に詳しい話を聞こうとしたら、女はキッとこちらを睨みつけてきた。


「うるさあああーい!!! ノーマルなんかに用はないのよ! 説明してあげる義理もないわ! あんたなんか"売却"よ、"売却"!!」


 なにやら手を動かし、こちらに向かってこれまたよく分からないなことを叫ぶ女。

 途端、俺の体は覚えのある浮遊感に包まれた。


「じゃあね、二度と会わないことを願ってるわ!」


 そんな声が最後に聞こえてきた。



 ………………

 …………

 ……



 次に俺が目を開いたとき、そこは馴染みのある光景だった。荒い木目の天井、安っぽい家具、ほどほどに散らかった六畳間の部屋。うん、俺の部屋だ。


「…………なんだったんだ、さっきのは!」




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