プロローグ
とある世界、とある豪邸の一室。そこに一人の女の姿があった。腰まで届きそうな長い金髪に、いかにも貴族といった気品ある顔立ち。その容姿は、十人に聞けば七人が彼女のことを美しいというほどだろうか。しかし、その美貌に不釣り合いなほど質素な服装をしている。
そんな美女が、部屋で一人なにかつぶやいていた。
「これで最後の一回……。大丈夫、大丈夫よ私。次こそは引けるわ。なんといったって一ヶ月分の生活費を費やしたのだもの。これで引けないなんてありえない話よ」
手に魔力の込もった石を握りしめて、そんなことをぶつぶつと言っている。
その足元には妖しく光る魔方陣と、魔力を失ってただの石となった残骸が無数に転がっていた。
「大丈夫私なら引ける私なら引ける私なら引ける……」
女は同じ言葉を繰り返しながら、魔方陣の周りをうろうろと。かと思えば急にスクワットを始め、それに飽きたのか今度は床に寝そべり目を閉じる。なんとも落ち着きのない行動を繰り返していた。
そうしてしばらくの間同じ体勢のまま動かなかったが、突然カッと目を見開き、すっくと立ち上がった。
「よし精神統一の時間は終わりよ。始めようかしら」
女は手の中の魔晶石を魔方陣の上に落とし、両手を合わせてなにか唱え始めた。
贄に魔晶石を。楔にこの身を。
あらゆる世界、あらゆる可能性から汝を此処に。
我が声に応えよ、我が召喚に応じよ。
我が名はアザレア。
汝を従え導く者なりーーー
それは異なる世界、異なる宇宙から、とある存在を呼び寄せる召喚の魔術。
女の言葉に合わせるかのように魔方陣は輝きを増す。やがてその光は銀色へと変化し、辺りをまばゆく照らした。
「こ、この光は…………!?」
光とともに鳴り響く轟音。
それからほどなくして銀色の光は収まり、それまで何もなかった魔方陣の上には一人の男が立っていた。
「ん、あ、……え? ここは一体??」
「あ、あ、......あぁあ゛あ゛あ゛」
男は困惑の声をあげ、女は声にもならない声をあげた。
しばしの沈黙。直後、
「ちょっとおおおおおお! これだけ回してR一体だけなんておかしいでしょおおおおおお?!」
女の声が、城中に響き渡った。
暗いニュースが多いので、作品は明るさ増し増しでいきます。
できるだけ毎日投稿を心がけてます。失踪はしないつもりです。