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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

音のない歌詞

黙れ、化け物。

作者: 渋音符


 『黙れ、化け物。』



 傾き-1/3(マイナス三分の一)、下り坂。

 右肩にはずっと重石を乗せている。

 落とした缶コーヒーが転がり落ちていく。

 直線は上へ曲がらない。

 波動はずっと谷底をうろうろしている。

 山なんて登れない。

 コーヒーを拾い上げて、空を見上げた。

 月がやけに大きい。


 誰かが、僕に叫んでいる。

 それは、皐月(さつき)(はえ)のようだった。

 やめろ。

 お前の言葉は僕に深くつき刺さる。

 見えない血しぶき、聞こえる幻聴。

 熱と黒いものを喉におし込む。

 お前につけられた傷もいっしょくたにして。

 苦い。

 どうってことない、ただのブラックだ。


「ねえ」

 声をかけられた。

「何をしてるの?」

 声は出ない。

 何も喋れない。

 君に返す言葉なんて、僕は持ち合わせていない。

 何も言わずに離れる。

 蠅が僕を笑う。悪魔が僕を嗤う。

 耳障りな声で、おかしくなりそうだ。

 否、否、否々。

 もう、狂ってるのかもしれない。

 僕の人生はもう、元に戻せないのだろう。

 

 昔、父親が言った。

「お前は、立派になれ」

 それは、どういう意味だったのだろう。

 少なくとも、今の僕にはもう、叶えられない。

 家が息苦しい。

 体が、震えるんだ。

 母さんを見ると、姉ちゃんを見ると、兄貴を見ると。

 父親の、仏壇の前にいると。

 蠅がほざいた。

 お前に、生きている価値があるのか。

 悪魔が首をもたげた。

 周りは、生きている価値があるのか。


 ぐるり、と、未来を見た。

 血、死、涙、吐、命、消。

 殺した。

 刺殺、絞殺、銃殺、焼殺、溺殺、斬殺、撲殺、毒殺。

 そして最後には殺された。懲役はなかった。

 死んだ。

 一酸化炭素中毒、リストカット、首吊り、身投げ。

 そして最後には悲しまれた。葬式は薄っぺらかった。


 狂っている。

 僕はもう狂っている。

 誰かを殺しそうだ。

 自分を殺しそうだ。

 手が、震えるんだ。

 吐きそうだ。

 泣きたい。

 泣きたいんだ。

 期待が重い。

 押しつけがひどい。

 苦しいんだ。

 相談なんて、出来ない。

 だって、善意が見えるから。

 拒絶なんて、出来ない。

 そうやって、また、へらへら笑って。

 誤魔化して。

 死にたくなっても、まだ死ねないんだ。


 うるせえ。

 黙れ、化け物。




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