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9.戦闘

 村は地獄のありさまだった。累々と横たわる死体、燃え盛る家屋、今まさに剣を振り上げ、初老の女性を殺そうとしている盗賊。


「やめろっ‼︎」


 クリスは叫びながら、剣を抜き、盗賊へと疾走した。


「なんだ、てめえっ!」


 盗賊は向かってくる女騎士に対して剣を振るった。クリスは振り下ろされた剣を弾き飛ばすと、身体を翻し、盗賊に回し蹴りを放ち、地面へとひれ伏させた。


「ぐっ…!!」


さらに盗賊が怯んでいる隙に馬乗りになって、剣の柄で意識を失うまで顔面を殴りつけた。



うわああぁぁ!!!



その間にも周りではつぎつぎと村人たちが殺されていく。クリスはすぐに、助けに向かった。村の青年が果敢に盗賊に立ち向かうも腕を斬り落とされてしまった。


(目には目をっ!)


クリスはその盗賊の右腕を斬り飛ばした。


「ぐわあぅッ!」


「テメエ!!」


(しまった、もう一人っ…)


 背後をとられたが、瞬時、振り向きざまに剣を横薙ぎに払った。背後の盗賊は首から血を吹き出しながら、力なく倒れた。地面に転がりながらも必死に流れ出る血を止めようと首を抑えてもがいていたがすぐに動かなくなった。


(はぁはぁッ…)


これで2人殺した。疲労と緊張で考えが追いつかなかったのが幸いか、2度目は初めてほどの感傷はなかった。


「ひぃッッッ!!」


 仲間が一瞬でやられたのを見て恐怖に駆られたのか、右腕を失った盗賊が、地面を這って逃げようとしていた。


(このままじゃラチがあかない…)


 このまま逃してしまっても構わないのだが、一人で村人全員を守るのは難しい。盗賊たちのリーダーを打ち倒すべきだ。


「おい貴様!」


 わざと強い言葉を使い、逃げようとする男の背中を踏みつける。普段の自分がしない行動をとる。こうでもしないと、この地獄のような状況についていけないのだ。"自分"が壊れる前に"強い自分"で自分を武装した。

 クリスは男の首のすぐ隣に剣を突き立て言う。


「貴様らの頭目はどこだ?三秒以内に答えなければ首を刎ねる!さん、にぃ、い…」


 クリスは地面を大げさに削りながら、刃を男の首元へと滑らせた。


「わ、わかった、答えるっ、答えますからっ!」


 クリスの演技は真に迫っていたのだろう。男は本気で殺されると思い、すぐに折れた。


「はあはあ…。頭は教会だ…。」


男が一度心を落ち着けて我に帰った結果、面目を取り戻そうと試みた。だがそれは間違いだった。


「はぁ?なんて言ったか聞こえないなあ!」


クリスは男を踏みつける足に力を込めた。そして苦悶の声をもらす男の耳元で囁いた。


「口の聞き方には気をつけろ。」


感情の入っていない冷たい声だ。それを聞いて男の危機感は煽られた。なりふり構ってなどいられない。


「カシラはこの村の教会に向かいました!教会はあちらです!!」


男は残った左手で村の中央を指し示した。男の表情は恐怖に凍りついており、もはや嘘をつく余裕などない。


「ふむ…」


そう言うとクリスは男の左手を突き刺した。激痛に男は悲鳴をあげて身悶える。


「足だけは残しておいてやる。さっさとこの村から消えろ!」


クリスの言葉に男は痛みも忘れて一目散に逃げ出し、森の奥へと消えていった。もう戻って来ることはあるまい。クリスは振り返り、腕を切り落とされた青年に駆け寄る。


「大丈夫か?」


 青年は苦しそうに息を荒げ、右腕の傷口を押さえている。クリスは切り離された腕を拾い上げると、傷口を"水瓶"の水で洗い流し、接合させた。


「押さえていて」


 青年が痛みに悶えるのも構わずに言うと、エクスヒールを唱え、傷口はあっという間にふさがった。


「騎士様…?」


 青年は何が起こったかわからないという表情でクリスを見上げる。そして、痛みが消え去ったことを理解すると、まるで神に縋るかのような眼差しで見つめる。


「安全なところに避難して。」


「お、俺も…!」


助力を願い出る青年が言葉を言い終わる前にクリスは駆け出し、教会を目指した。




~~~~~~~~~~




 教会は村の中央に位置しており、その周りにはこれまでよりはるかに多くの盗賊が屯していた。


(これはさすがにムリか…)


 "不殺"で切り抜けることは難しそうだ。剣を見つめる。いまだ拭いきれない血の匂いがする。瞼を閉じ自分に言い聞かせる。


(やらなきゃやられる…。覚悟を決めろ…!)


 再び眼を開けると、クリスは盗賊の集団へと突入した。一人目、クリスに気づいた盗賊を振り向きざまに首筋を斬った。血が吹き出す。二人目、一瞬のうちに仲間がやられたことに動揺しつつ、咄嗟に剣を抜こうとした盗賊の指を返す太刀で斬り落とす。三人目、ほとんど抜きかけた剣を握る腕を刎ね飛ばす。四人目、剣を抜き放ち斬りかかろうとする男を、振り向きながら蹴り飛ばし間合いをとる。五人目、振り下ろされた刃を躱し、すれ違いざまに脾腹を斬りつける。六人目、刺突を払いのけ、そのまま胸を突き刺す。

 男たちが崩れ落ちる中、さきほど蹴り飛ばした男の元へと歩いていく。男は教会の壁を背に倒れていたが、再び剣をとろうとしていたので、その肩に剣を突き立てた。


「ぐわっ…!」


「おとなしくしてろ。」


 苦悶の声をあげる盗賊を冷たい眼差しで見下ろし、男の肩から剣を引き抜き、その顔面を蹴り上げ気絶させた。ドアはすぐ目の前だ。だが、クリスが手をかける前に、それは内側から開かれた。


「てめえら何やってん…な⁉︎」


 大柄の男が乱暴にドアを開けて出てきた。男は仲間がやられているのを見て言葉を失う。


「おい。」


 男は目線を落とす、そこには自分の胸ほどの背丈の娘が立っている。男が状況を理解できないでいると、その身体は宙を舞っていた。

 轟音とともに男は中央奥の祭壇に打ちつけられた。突然の出来事に、室内の全員が入口を見る。そこには鎧を纏った女性が立っているだけで、何が起こったのか全く想像がつかなかった。

 中はひどい有様だった。逃げ込んだ人々が無残に切り裂かれ、あたりで若い女性が盗賊どもに犯されている。


(下衆が…)


 クリスは中に踏み込むと、盗賊たちが女性を犯すのをやめて、クリスに襲いかかった。



ーー!!



 一瞬の出来事だった。襲いかかった男たちは一瞬にして只の肉片に変わった。クリスは一片の躊躇なく力を奮った。人間相手ではなく、ただの物を相手にするよう膂力に任せて撫で斬りにしたのだ。


「やるじゃねえか。」


 最奥でいまだ寛いでいた大男がようやく立ち上がり、鷹揚とクリスに向かって歩いてくる。手にはクリスの身の丈ほどある長柄の大斧を提げている。立ち居振る舞いからして、この男が盗賊の集団の首領だろう。

 さすがのクリスも強敵の予感に身構えた。相手の挙動を観察していると、大男の右上に「武79」と表示が出てきた。今まで戦ってきた敵と比べて30近く武力が高い。それでもクリスの100に比べれば大したことはないが、それでも油断はすべきではないと、クリスはいつも以上に警戒を強めた。

 先に動いたのは大男の方だった。巨大な戦斧を大上段から振り下ろす。クリスは難なく躱すが、粉々に砕けた床の破片とともに、巨大な岩の柱が隆起し、クリスに襲いかかった。


「くっ…」


 岩柱に弾き飛ばされたクリスは壁に着地し、態勢を整えるが、男の追撃は止まらない。


「おらあっっ!!」


 教会の壁は粉々に砕かれ、外の炎の明かりが漏れ出ている。男は決着を確信した。だが、崩れ落ちた欠片のなかにクリスの姿はなかった。


「殺った…!」


 声に気づいたときにはもう遅かった。長剣は肩から男の体内を貫通し、臓器を著しく損傷せしめ、男は膝から崩れ落ちる。クリスは剣を引き抜くと、そのまま男の頸部めがけて横薙ぎに払った。




~~~~~~~~~~




 村内では未だ家屋に立て篭もり抵抗している人々や逃げ出そうとする人々を盗賊が追いたてていた。



カーンカーンカーン



 突如として鳴り響いた鐘の音に、村内にいる者すべてが教会の方向を見た。そこには、首を片手に掲げた女騎士、クリスの姿があった。盗賊たちがざわつき始めるなか、クリスは続けた。


「聞け!!!!」


 クリスの声は喚声のなかでもよく響いた。一斉にあたりが静まり返り、皆、教会の屋上を注視する。


「貴様らの首領は私が討った!!まだ、戦いたいという輩がいるのであれば…」


 そう言い放つと、クリスは先ほど討ち果たした大男の頭を宙に放り投げた。何が起こるのかと皆が注目するなか、白刃がきらめき、大男の頭は唐竹割りに真っ二つに斬り離された。

 鮮血がほとばしるなか、返り血を受けて真っ赤に染まったクリスが、不敵な笑みを浮かべ、静かに、だが、はっきりとした声で告げた。


「私が受けて立とう。」


 盗賊たちは首領を討たれた失望だけでなく、わざわざその首を無残に虐げたその狂気に恐怖した、彼らは蜘蛛の子を散らしたように一斉に村から去っていった。


(さて…。)


 クリスが村内を見下ろす。そこには、畏敬の念を抱き跪く者、恐怖に怯えた眼差しで見つめる者、剣を構え警戒を続ける者など、様々だった。


(まずは誤解から解かないといけないかもな…)


 空が白み始めるとともにクリスの初戦は幕を閉じた。


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