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2.異世界

 そよ風が頬をなでる感覚に目を覚ました。とても長い間眠っていたような気がする。視界の先には今までの生活では見ることもなかったであろう緑豊かな大地が広がっていた。

 玲也は小高い丘の上にある大木のふもとに座っていた。丘を少し下りたところには舗装もされていない、人々が何度も通ることによってできた道があった。

 周りを見ると旅の途中であろうか、同じように木陰で休んでいる人がまま見られた。服装などはRPGに出てきそうな中世西洋風のそれだ。まさに異世界にやってきたのだということを実感した。


(ほんとに異世界にやってきたんだな…)


これからの冒険を思うと心が踊る。


(おっと、まずは現状の確認か。)


「彼を知り己を知れば百戦危うからず」異世界に来たからといって浮かれていては危険だ。まずは正しく現状を把握しないと。


 最初に、自分が鎧を身に付けていることに気づいた。先程から視界の端に入ってきている。金属製の美しい装飾の施された鎧だ。


(そういえば防具については何も言ってなかったけど、天使様が気を回してくれたのかな?)


 見た感じは重装防具といって差し支えないだろう。胸や腹、腕や足まできっちりと覆っている。だが、体を動かしてみても重さはほとんど感じられず、動きづらいといったこともない。


(魔法…なのかな?)


 鉄の塊というわけでなく、随所に革でできた留め具や、継ぎ目を隠し、砂塵を退ける布をまとっている。鏡で見てみないとまだわからないが、格好の良い装束だという印象は受けた。


(うん?髪は少し伸びたかな?)


 以前よりも少し余計に視界に入る髪が気になった。よくよく見ると髪の色も少し明るくなっている気がする。


(ああ、なるほど。ファンタジーな世界観に合わせて、容姿も変わっているのか。もしかするとイケメンに生まれ変わってるかもな。)


 玲也は期待に胸を膨らませるが、すぐに自分の顔を確認する(すべ)がなかったのが残念だった。


(所持品なんかはどうだ?)


 玲也はあらためて周りを確認した。特に辺りに何か置いてあったりはしないが、自分の腰にこれまた美しい装飾の施された長剣(ロングソード)と、小さなバッグがくくり付けられていた。よくよく見ると、鎧には、袈裟(けさ)懸けに革でできたベルトなどが巻きついており、各所にいくつか収納できそうなポケットがあった。

 ベルトを一旦外して広げてみると、腰元には外に向き出しの状態で謎の液体が入った小瓶が3本あった。


(なんだこれ?うわっ)


 玲也がその内の一本を手にとって注視すると、手に持っている瓶のとなりにゲーム内におけるウィンドウのようなものが急に現れた。

 それを見ると、この瓶の名称は「エクスポーション」で、効果は「傷の完全回復」らしい。いよいよゲームっぽくなってきて玲也も心が昂ぶった。むき出しになっていたのは、戦闘中にすぐ使えるようにということだろう。


(3本しかないのか…。これがどのくらいの価値があるかわからないが、慎重に使わないとな。)


 ポーションを元あった場所にはめ込み、次に玲也はバッグの中身を確認した。バッグは外見に比べて明らかに内側が大きかった。


(こんなものもあるのか…)


 不思議に思いつつ、中身を全て取り出してみると、"キャッシュカウ"という名称の、中に沢山の金貨が入った小袋。"レムリアの水瓶"という、中に液体(おそらく水)が入っている、金属なのか陶器なのかわからない謎の材料でできている筒。「エクスキュア」「エクスマギカ」「ゲート」と記された巻物(スクロール)3本、"応急処置(ファーストエイド)用具(キット)"一式、手ぬぐい、などなど、冒険に役立ちそうなものが色々と入っていた。


  "キャッシュカウ"は袋の中に入っている貨幣を1枚ずつ増やしていくという効果がウィンドウに書いてあった。まさに"金のなる木"だ。ただ、注意として袋の容量を超えることは無理らしい。確かに天使の言うように億万長者にはなれないだろうが、当分、飢え死にすることはなさそうで安心した。

 "水瓶"は無限に水が湧いてくる瓶のようだ。これがあれば冒険中に水で困ることもないだろう。


 巻物には見たこともない謎の文字が書き連ねられていたが、玲也はそれを読むことができ、読み進めていくと一言一句がしだいに染み込んでいくように記憶へと刻み込まれていった。一読するだけで全て暗記してしまうという不思議な感覚だ。

 全て読みきったところで、いつの間にか巻物の文字は全て消え去っていた。一つの巻物につき魔法を覚えることができるのは一人ということなのだろう。

 書いてあったのは魔法の詠唱だろうか。試しにエクスキュアを唱えてみると、体中の何らかの力が手のひらに集約されていくことを感じた。おそらくこの調子で手のひらを患部にかざすと治療できるのだろう。今は怪我をしていないので試しようがないが、いずれ試してみようと心の中に留め置いた。

 エクスマギカとゲートも同様に習得したが、人目につくこの場所では範囲魔法は試しづらく、ゲートにしても、二点間をつなぐ魔法陣を作成するというものだったが、膨大な時間がかかるらしく、今すぐに試すことはできなかった。


(さて、だいたい持ち物については確認できたし、スキルとかステータスとも同じように見れたりするのかな?)


 玲也が思考を巡らすと、目の前にゲームのメニュー画面のようなものが現れた。


(お、やった。ほんとにゲームみたいな世界なんだな。さてと自分のステータスはと…)


「ん?」




自己

人物

勢力

都市

拠点

軍勢

履歴




 映し出されたメニュー画面は玲也の想像したものとは全く異なっていた。


(これは…)


 嫌な予感がしつつ、自分のステータスが確認できそうな"自己"の項目を開いてみた。




名:クリス=レイヤ

種族・性:人間(ヒュマ)・女、齢:20

統100 武100 知100 政100 魅100

義理100 野心100

歩兵:S、騎兵:S、弓兵:S、魔術:S、兵器:S、特殊:S

特能:

治安、監視、補修、農耕、屯田、繁殖、採掘、商才、文化、技術、開発、造船、建設、徴税、徴収、徴兵、訓練、指導、設営、築城、早建、交渉、探索、眼力、人脈、能吏、弁舌、博識、神眼、火計、撹乱、偽報、同討、足止、挑発、鬼謀、百出、連環、傾国、掛罠、鎮静、洞察、看破、神算、反計、調略、隠密、暗殺、調教、地理、天文、突撃、一斉、斉射、火矢、攻城、鼓舞、伏兵、奇襲、行軍、強行、踏破、操舵、兵站、運搬、神速、潜行、昂揚、連戦、強襲、乱戦、掃討、威圧、威風、射程、支援、疾走、籠城、奮戦、猛者、逃走、捕縛、強奪、心攻、不屈、堅守、金剛、鉄壁、殿軍、怒髪、血路、護衛、規律、沈着、名士、富豪、軍師、将軍、提督、副官、論客、豪傑、学者、間諜、医者、人徳、神童、教祖、王者、覇王




 玲也は唖然(あぜん)とした。この画面、ステータスの項目こそ玲也もよく見たことがあるものだった。ただ、それは今回玲也が望んだものではなかった。そうこれは…


「SLGじゃねーか!!!!!」


 驚きのあまり声をあげてしまった。周りに居た人々が何事かとこちらを注目する。玲也は気恥ずかしくなり、誰にともなく謝り、体を小さくして再び画面に向き直った。


(おいおい、まじかよ…)


 予想外の事実に困惑しながらも、まだ決めつけるのは早いと心を落ち着かせ、詳細を確認しようとするが、一つの事柄が気になってしまった。


(ん?、って、ちょっと待てよ、女っっ⁉︎)


 鎧兜で身を包んでいたため気づかなかったが、どうやら自分は女性になってるらしい。ステータス画面の端に載っている、鎧を着た中性的なイケメンの顔グラもよくよく見たら女性だ。


「ええ…」


 女性になりたいと天使に願ったわけでもないのになぜこんなことになってしまったのか。心当たりがあるとすれば、最後にやったSLGで「優秀な既存キャラと結婚して夫婦で天下統一、自分も能力MAXにして生まれる子供もめちゃつよとか楽しそーじゃん」という気持ちで女性武将プレイをしたことくらいか…。


(確かに"ゲームみたいな世界"とは言ったが…)


 まさか直近の記憶で判断されてしまったのか。天使なんだから頭の中覗いてイメージ通りの世界に送ってくれてもよかったのにと少々恨めしくも思ったが、過ぎたことは仕方がないし、天使は充分気遣ってくれている。悪いのはちゃんと説明しなかった自分なのだ。

 玲也は気をとりなおし、もう一度ステータス画面を眺める。それにしても変えられてしまった姿は、端正な顔立ちという言葉がまさにふさわしかった。ツンと通った鼻梁に切れ長で涼しげな目元。表情はSLGの武将顔グラよろしく、やや険のあるキリッとした表情であるが、普通に着飾ればそこらの舞台女優では敵わない美貌だ。

 急に性別を変えられてしまって、どうしていいかわからなかった玲也だが、新たな自分の容姿に惚れ惚れとし、「なんかもうこれでもいいか」とも思えてきた。そして、再びステータス画面目をやる。




名:クリス=レイヤ

種族・性:ヒト・女、齢:20

統100 武100 知100 政100 魅100

義理100 野心100

歩兵:S、騎兵:S、弓兵:S、魔術:S、兵器:S、特殊:S

特能:

治安、監視、補修、農耕、屯田、繁殖、採掘、商才、文化、技術、開発、造船、建設、徴税、徴収、徴兵、訓練、指導、設営、築城、早建、交渉、探索、眼力、人脈、能吏、弁舌、博識、神眼、火計、撹乱、偽報、同討、足止、挑発、鬼謀、百出、連環、傾国、掛罠、鎮静、洞察、看破、神算、反計、調略、隠密、暗殺、調教、地理、天文、突撃、一斉、斉射、火矢、攻城、鼓舞、伏兵、奇襲、行軍、強行、踏破、操舵、兵站、運搬、神速、潜行、昂揚、連戦、強襲、乱戦、掃討、威圧、威風、射程、支援、疾走、籠城、奮戦、猛者、逃走、捕縛、強奪、心攻、不屈、堅守、金剛、鉄壁、殿軍、怒髪、血路、護衛、規律、沈着、名士、富豪、軍師、将軍、提督、副官、論客、豪傑、学者、間諜、医者、人徳、神童、教祖、王者、覇王



 能力値は「とりあえず全部乗っけてみました」感があった。自分がそんなに義理堅く、野心家であるとは思えない。おそらく天使は能力を"MAX"にしてくれたのだろう。ありがたいのだが、そもそもこれらの能力はちゃんと反映されるのだろうか。"知"が100と表示されているが、自分自身それほど賢くなった気はしない。

 あと"特能"、特殊能力だろうか。たくさん書き連ねられているが、肝心の効果は表示されない。元世界のSLGでは、"治安"や"農耕"などは該当する内政コマンドを実行した時に、なんらかのボーナスがあったのだが、同じだろうか?一番下にある"覇王"にいたっては全く予想がつかない。


(まあ、考えても仕方ないか…、おいおい確かめていこう。)


 玲也はステータス画面を閉じ、メニュー画面の”勢力”という項目を開いた。SLGの場合、大抵は戦乱の世だ。異世界転生でチート能力をもって、のんびり冒険者ライフでも楽しめると思っていたが、いつ殺されるかもわからない群雄割拠の世界に飛ばされた可能性が高い。

 現れた映像には見事に色鮮やかに区切られた勢力図が映し出されていた。


(はい、確定!大荒れの時代ですー!!!)


 確かにゲームでは群雄割拠の時代はプレイしていて楽しい。無限の可能性があるからだ。だが、実際に自分がそこに放り込まれるとこんなにも心細いものかと身にしみて実感した。ワクワクよりも不安が勝りすぎている。


(あの時、ちゃんと言っていれば…)


 ふと思ってしまったが、今更嘆いていても始まらない。この世界で生き残っていかなければならないのだ。気を取り直して残りのメニューもあらかた調べてみる。


 "人物"画面には「クリス=レイヤ」という自分の名前しか載っていなかった。人と知り合うまで情報は手に入らないようだ。ちなみに武将と一般というカテゴリーに分けてソートもできるらしい。

 "都市"画面では先ほどの勢力画面よりも詳細に地図上の情報にアクセスできた。

 この世界の人の居住区というのは規模からいって、おおよそ3段階に分けられるようだ。城壁に囲まれた「都市」と、高い塔などを備え、ある程度の自衛能力がある「街」、よくて物見櫓がある程度でほとんど自衛能力のなさそうな「村」である。

 現在地の近くにはイェルケという都市があり、詳細情報が確認できた。




イェルケ

規模大

人口52154

常備兵力5158

徴集兵力12514

城壁5000/5000

農業2518

商業4258

技術3264

治安99




 周りの他の都市や拠点とも比べてみたが、このイェルケがこの辺りで一番大きな都市のようだ。まずは生活の拠点をここに作るのがいいかもしれない。


 "軍勢"を開いてみると、山賊から騎士たちまでたくさんの軍勢が表示された。もうすでに戦火は各地に広がっているようだ。いきなり戦争に巻き込まれないよう気をつけなければ。

 "履歴"もいまだ、「クリス=レイヤが転生」という一文しか載っていない。これがしだいに増えていくのだろうか。そう思った矢先、さらに一文が増えた。そこには「メルメド侯勢、ビスタを占拠、バラク=ミルダ討死」ということが書かれていた。もうすでに他勢力に蹂躙(じゅうりん)されている都市があるらしい。


 とりあえず現状はだいたい把握したが、まずは情報収集をしなくてはならないだろう。自分の拠点もつくらないといけない。


(はぁ、RPGなら冒険者ギルドとか行けば、いろいろ説明してくれるんだろうけどな…。やっぱSLGだと酒屋か?宿も探さないといけないし…)


 前途の多難さにうんざりしながら、都市イェルケを目指して歩み始めた。


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