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1.転生

(ここは?)


 玲也(れいや)が眼を覚ますと、一面真っ白でいて、ほのかに光り輝く空間にいた。なぜ自分がここにいるのか記憶をたどってみたが、直近の記憶が無い。


「お目覚めになりましたか?」


 声に振り向くと、そこには透き通るような白い肌、宝石のようにきらびやかな黄金の髪、大きな純白の翼をたたえた、この世のものとは思えない美しい存在、まさに「天使」と形容するにふさわしい存在がたたずんでいた。


「え、あ、はい…。」


 玲也はつい言いよどんで目をそらしてしまった。このような美しい存在に相対すると誰でもとまどってしまうだろう。困惑する玲也をよそに天使は続ける。


栗栖玲也(くりすれいや)さん。あなたに謝らなくてはいけません。私たちの手違いであなたは定命(じょうみょう)を全うすることなく先の世界を旅立たれました。」


「え…?」


 玲也は言っている意味がすぐには理解出来なかった。


(じょうみょう?まっとう?先の世界?それってつまり…)


「つまりあなたは死んでしまったのです。」


 答えに至る前に、天使によってそれはもたらされた。辺り一面の風景と天使の神々しい姿から、今いる場所がこの世のものではない気はしていたが、まさか自分が死んでいるとまでは思わなかった。


「記憶が…」


 死んだ記憶など全く無かったことを不思議に思い、問いただそうと口を開いた。だが、彼女の言葉を発するのが先だった。


「死んだ記憶がないのも無理はありません。本来あなたはまだ死ぬべきではありませんでした。それが私どもの手違いでこのようなことになってしまったのですから…」


 天使は申し訳なさそうに伏し目がちに謝罪した。憂いを帯びたその表情は全てを許したいと思ってしまうような魅力がある。。


「あなたには三つの選択肢があります。

 一つは、このまま主の御許(みもと)へと向かう、つまりあなた方の言う「あの世」へと()くこと。

 一つは、あなたのいた世界にまた一から生まれ直すこと。この場合記憶はすべて失うこととなりますが…。

 もう一つは、全く別の世界に転生すること。もちろんそこにあなたを知る者はなく、つらい旅路となりますが…。

 いかがでしょうか?」


「そんな、急に言われても…。」


 まだ自分の死も受け入れられていないのに、すぐさま今後の身の振り方について尋ねられても答えられない。

 ふと思い返せば、友人とバカ話していたのが遠い昔のようだ。両親との最後の記憶も他愛もないふつうのやりとりだけだ。こんなことになるならもっとあの時間を大切に生きればよかったと後悔の念が玲也の脳裏を駆け巡った。


「あ…元居た世界の様子とか見ることってできませんか?」


 自分が居なくなった世界を見て、せめてでも自分の生きた証を確認したかった。自分は世界に何を与えたのだろう?自分が生まれた意味は?俺は何のために生きたのか?


「残念ながらそれはできません。あなたの魂はあなたの元居た世界と完全に切り離されてしまっています。」


「そうですか…。」


 天使の無情な言葉に玲也は肩を落とした。自分がどんな結末を迎えたのか知ることさえ許されないなんて…。天上の存在の"手違い"なんかで殺されて、なんだか自分は世界にとって不必要な存在だったのではないかとさえ思えてきた。


「そんなに気を落とさないで下さい。」


 そんな玲也を見かねてか天使が慰みの言葉をかける。


「あなたの命には意味がありました。あなたの存在は無意味ではありません。あなたはあなたの周りの人に多くのことを与えました。だからこそ、あなたは主の御許(みもと)()くことが許されているのです。」


 言葉でならどうとでも言える。ただ、真実はどうであれ、こんなちっぽけな自分のために、天使ともあろう存在が言葉を尽くして慰めてくれていると思うと、少しだけ心が軽くなった。


「それに、あなた自身が自分の命に価値を見出したいというのであれば、生まれ変わるという方法もありますよ。」


「でも、記憶は全くなくなっちゃいますよね?」


「それはそうなんですが…」


 記憶が無くなるということは、今までの自分がすべて無くなってしまうということではないだろうか。また、今まで生きた境遇と全く違う境遇で生まれ育った自分は、本当に今の自分と同じ存在なのか。もはやそれは全く違う誰かではないのか?


「それなら、別の世界に転生するのはいかがですか?元居た世界以外であれば、記憶を保持したままでの転生は可能ですよ。」


(流行りの異世界転生か…)


 なぜか近年、創作などでよく見られる話題だ。死後の世界を見たなんていう人もたまにいると聞くし、本当に転生した人間がいて、そいつが話を広めたのかもしれない。なにせ今、実際に自分の目の前には異世界への切符が示し出されている。


(異世界で無双とか、確かに楽しいかもな…。だけどまあ、そこまで都合良くはないかな…?)


 少々自嘲(じちょう)的になっている玲也の思考を読み取ったのか、天使は都合のいい事実をわざと誇張してコミカルに付け加える。


「さらにっ、今ならなんと、いろいろつけほーだい!望む世界へれっつらごー!!・・・なんて…」


 言ってて恥ずかしくなったのか、まっ赤になって声もか細くなってしまった。玲也は、彼女が自分を元気づけようとわざと大げさに明るく振舞ってくれているのを理解し、その気持ちをありがたく感じた。

 そして、いつまでもクヨクヨしている自分は何とつまらない人間だろうかと思った。自分の価値云々にしても、今できることをすることが大事なのではないか?できないことはもうしょうがない。幸か不幸かまだ自分には選択肢が残されている。


(こうなったら、異世界転生をめいいっぱい楽しんでやるか!)


 玲也は覚悟を決め、天使の方へ向き直る。その表情はつきもののとれたようにすっきりとしていた。


「望む世界って言いますけど、どんな世界でも大丈夫なんですか?」


「はい!ご希望をおっしゃってくだされば、そのご希望に一番近い世界へと転生させていただきます。」


 天使も玲也が吹っ切れたことが嬉しそうだ。玲也は前向きになって、気になることを徹底的に聞いていくことにした。


「"いろいろつけ放題"って言ってましたけど、例えば転生後の身体能力を強化したりもできます?」


「はい。限度はありますが可能です。」


 これはとても助かる。やはり身体的な制限の撤廃というのは嬉しい。誰だって小さい頃は駆けっこで一番速いやつに憧れたものだ。


「剣と魔法のファンタジーな世界とかいけます?」


「もちろん!」


(即答だな。もしかすると魔法のない世界の方が()()なのか?)


「どんな魔法でも使いこなせるようにしたりとかは?」


「その世界内での話であれば可能ですね。ただ、初めから全部使えるようにすることは難しいです。魔法習得の適性があり、学べばすぐ覚えられるということなら可能です。」


(初めから知らないものを扱うことはできないということか。)


 全部は使えないというのも、もしかすると膨大すぎて処理しきれないということなのかもしれない。ただ全く何も使えないというのは不自由だ。


「初めからいくつかの魔法だけ、習得可能な状態にはできませんか?」


「転生先の世界が決まった後であれば可能です。ただし、対応した魔法が存在すれば、ですが…」


「なるほど、それなら使いたい魔法のリストを作りたいのですが、なにか紙とペンのようなものはありませんか?」


 そう伝えると天使は困った様子で玲也に告げた。


「すみません。あくまでもここは主の御許とそれぞれの世界をつなぐ狭間のような場所で、物の概念がありません。ですのでご要望の物を用意することはできません。申し訳ありません…」


 天使は申し訳なさそうに(こうべ)を垂れた。無茶なお願いをしてしまったのはこちらであるのに、平謝りする天使に対して玲也のほうが申し訳なくなる。


「いえ、そんなに謝らないで下さい。無いなら無いでいいんです。言っていくので、覚えて下されば…って、あれ?」


 全知全能の神に仕える天使であれば、多少の記憶なら朝飯前だろうと考えたが、どうやら違うらしい。


「本当に申し訳ありません!ダメ天使で申し訳ありません!」


 もう天使は土下座でもしそうな勢いだったので、慌ててそれを制止した。天使もどうやら万能ではないらしい。それなら、ということで、数個に絞って、魔法を伝える。


「あらゆる傷や状態異常を回復する魔法と、蘇生魔法、広範囲を灰燼に帰すような全体魔法、あと、できれば瞬間移動の魔法くらいは欲しいかな。」


「すごい回復魔法に蘇生魔法、高威力広範囲魔法と瞬間移動魔法ですね、あ、蘇生は世界によっては難しいかもですね。」


 さすがに蘇生は無理な世界があるらしい。普通に考えて死者を生き返らせるなど尋常ではない。


「あ、ちなみに時間を止める魔法とかってあります?」


「うーん、それも世界によりますね。」


 玲也も元々そこまで期待はしていなかったので、落胆するようなことはなかった。


(魔法についてはとりあえずこれでいいとして…)


 次は所持品などについて確認することにした。


「所持金とかはたくさん持って行けたりします?」


 また天使は申し訳なさそうに頭を下げる。


「私たちが現界する際に必要なだけの備蓄しか天界には存在しませんので…、多少なら可能ですが、億万長者とはいきません。」


「ああっ、謝らなくても大丈夫ですよ。生計を立てるまでに生活できるくらいあれば十分ですので。それくらいなら持たせてもらえますか?」


「あ、はい、承知いたしました。」


 天使の低姿勢っぷりに玲也の方が申し訳ない気持ちになってきた。あまり無理なお願いはできないなと思いつつ、尋ねるべきことは尋ねておこうと考える。


(あとで後悔したくないからな…。)


「あとは…そうだ、何か特殊な能力とか付与したりできますか?」


「はあ、特殊な能力ですか?」


「そう、例えば、瞳の力で人を絶対服従させたりとか?」


「それは魔法とは違うのですか?」


(確かに言われてみればそうか。魔法がある世界なら大体が魔法で説明がつくのか。なら全魔法使用可能な時点でかなり有利なのではないか?)


「あ、今さらなんですけど、その世界で最強の存在にとかってなれますか?」


 玲也も無茶な願いだと承知はしているが、念のため確認しておきたかった。


「うーん、最強の基準がわからないので、ご希望に添えるかどうか難しいかもですね。ただ、最大限努力はさせていただきます。」


(まあ、確かに最強ってだけじゃ抽象的すぎるか…)


「ええと、今、挙げていただいたのは、身体強化と全魔法使用可能、超回復、蘇生、高威力広範囲魔法に転移魔法、所持金付与に加え、「最強の存在」に近づけて、剣と魔法のファンタジーな世界に転生するということで…あってます?」


「あ、もう少し待ってください。ちょっと考えます。」


 口ぶりからして、彼女の記憶力はもう限界かもしれないが、玲也としては新しい世界に転生する上で重要そうなものごとを優先してもっていきたいのだ。欲張りたくなるのも無理はないだろう。


(でも正直大抵のことが魔法でなんとかなる世界なら、あんま付け足すことないんじゃないか?あ!)


「魔法を使う力を無限大にはできます?」


 いくら全ての魔法を使えるからといって、元々の魔力なんかが弱いと宝の持ち腐れだ。素の魔法を扱う力についても言及せねばなるまい。


「ええと、いろいろ工夫すれば、そのような状態にはできるかもしれませんね。」


「え、できるんですか?」


 正直この願いは無茶だと思っていたので、予想外の返答につい聞き返してしてしまった。そんなチートじみた能力を持っていけるなんて嬉しい誤算だった。


「じゃあ、それもお願いします!」


 天使がぼそぼそと魔力無限、魔力無限とつぶやいている。


(まだ何かあるかなあ。あ!)


「初めから強い武器を持っていくとかは?」


「どんな武器がご所望ですか?」


「絶対壊れないなんでも切れる刀とか?」


「うーん、残念ながらそのようなものはさすがに存在しませんね。」


(やっぱり具体的に説明できるものじゃないとダメか…)


「それなりに最強に近い武器を見繕ってくれたらそれでいいです。」


「ど、努力します!」


 もはや天使は頭を抱えて必死に忘れないように足掻いているような状態だ。


「ええと、今、挙げていただいたのは、身体強化と全魔法使用可能、魔力無限、超回復、蘇生、高威力広範囲魔法、移動魔法、強い武器、所持金付与に加え、「最強の存在」に近づけて、剣と魔法のファンタジーな世界に転生するということであってます?」


(これ以上は無理か…)


 天使の様子を見るにもう限界が近いようだ。


「ああっ、えーと、最後に…」


 玲也は最後に世界全体に関わることを付け加える。この発言がのちに大きな後悔を生むとも知らずに…。


「ゲームみたいな世界がいいかな!」


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