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【書籍化】Fake Earth  作者: Bird
第1章 Game Start
17/95

17話 世界の理を動かす歯車

【ルール】

 ゲーム攻略に役立つ『ギア』を手に入れる方法は3つある。

①《ガチャストア》という専用アプリより、他プレイヤーのコイン1枚でギア1つをランダムで交換する

② 運営が開催するイベントを攻略する

③このほか一部の特殊な条件を満たす

 雨漏りで水滴の落ちる音がした。

 廃墟化した壁や床が劣化しているからなのか、落ちた水滴が弾ける音は100坪以上ある部屋によく響いた。

 50人のプレイヤーたちはレキトたちにスマホカメラを向けた状態から動かない。

 ガラス張りの前に並んでいるコンクリート柱から、不気味にミシッと音が鳴るのが聞こえる。


「──《始まりの分岐点の前へ(デュアル・チョイス)》」


 ふたたび雨漏りの水滴が落ちた瞬間、凛とした女性の声が聞こえた。

 彼女の呼びかけに応えるかのように、50人のプレイヤーのスマホカメラが一斉に点灯した。

「《対プレイヤー用ナイフ》と《対プレイヤー用レーザー》が両方使えるようになるギアよ」と紫藤が声をひそめて言った。

 50本の親指が揃ったように動いて、端末下部のホームボタンを同時に長押しする。

 輝きを放ったイヤホンジャックから、色とりどりの光の刃が構築されていった。


「ねえ、レキトくん。もしかして君って運が悪い? いきなり私に狙われるし、ヤバいギルドのところに飛ばされるし」


「ツイてる方だと思いますよ。このピンチを切り抜けられれば、また1つレベルアップできるんですから」


「うわ、何その発想。こんな状況でよく言えるね」


「こんな状況だからですよ。とりあえず作戦を考えましたので、引き続き協力してもらいますよ、紫藤さん」


 レキトは紫藤に微笑み、話している最中に「メモ」アプリで書いた作戦をスマホ画面で見せる。

 ゲームオーバーになったプレイヤーのコインを投げ渡した。

 紫藤は呆れたように笑って、華奢な手でコインをキャッチする。

 親指でホームボタンを長押しして、起動していた対プレイヤー用ナイフの刀身をロングソードくらいの長さまで伸ばした。


──今回の対戦は、50人VS2人のチーム戦。

──勝利条件は「教団ギルドからの逃げ切り」。


 全方位から殺気が鋭く刺さったのを感じたとき、50人のプレイヤーたちが素早く走り出した。

 囲んでいるレキトたちに向かって、光り輝くナイフを握って全員が疾走するように迫ってきた。

 血の匂いに群がってくるピラニアのような勢い。

 大勢の走る足音が重なって響き、荒れ果てたコンクリートの床がビリビリと揺れる。


 レキトと紫藤は反対方向を向いて、背中を合わせた。

 レキトは高くジャンプして、空中でエナメルバッグを肩から外す。

 紫藤は片膝をついて、長く伸ばしたナイフをコンクリートの床に根元まで突き刺す。

 そして、肩越しに2人で目配せを交わして、お互いのアバターを反対方向に回した。

 レキトはエナメルバッグをハンマー投げのように回して、紫藤はコンクリートの床に突き刺したナイフで大きな円を描いていく。


 レキトがぶん回したエナメルバッグは、急接近してきたプレイヤーたちに次々とヒットした。

 直撃したプレイヤーたちはよろめき、装着していたガスマスクが横にズレてひるんだ。

 紫藤が突き刺したバイオレット色の光の刃によって、円状に切り裂かれたコンクリートの床が凹み始める。


──「対戦ステージ」をどう利用するのか。

──誰にでも平等に使える「ステージギミック」を『敵』にするのか『味方』にするのかで、プレイヤーの形勢は大きく変わる。


 真上に跳んだレキトが踏みつけるように着地したとき、円状に切り裂かれたコンクリートの床が下の階へ抜け落ちた。

「50人のプレイヤーたちがいる部屋」から「1つ下の階の誰もいない部屋」へ。

 廃ビルのステージを破壊して、逃げ場のなかったギルドの包囲網を真下へ突破する。


 紫藤は抜け落ちた床から飛び降りて、片足でふんわりと着地した。

 落下中に体勢を崩したレキトは転がるようにして受け身を取る。

 そして、50人のプレイヤーたちが下りてくる前に、急いでレキトたちは部屋の外へ飛び出して、廃ビルの出口につながる階段へ走った。


「──交代です、《貴方は誰かの代わり(キャッスリング)》」


 凛とした女性の声が遠くから聞こえた。

 急に視界がグニャリと歪んだ直後、走っていたレキトは目の前に現れたコンクリート柱に激突した。

 金属バットで頭部をフルスイングされたかのような衝撃!

 強烈な痛みとともに、目がチカチカと明滅する。


 いったい敵プレイヤーは何のギアを使ったのか?

 思わず頭を手で押さえると、「レキトくん!」と紫藤が名前を呼ぶ声がした。

 さっきまで近くにいたはずの彼女の声が、10メートル以上離れたところから聞こえる。

 後ろを振り返ったレキトは息を呑み、最悪の状況に置かれたことに気づく。


──おそらく《貴方は誰かの代わり》は、プレイヤーの位置情報を操作するギア。

──階段を駆け上がる2人分の足音から推測するに、正確には「プレイヤー同士の位置を入れ替えるギア」なのだろう。


 50人のプレイヤーたちがいる部屋に、レキトたちは戻っていた。


「素敵な目ですね、あなた。もっと近くで見てもいいですか?」


 隣から凛とした女性の声がレキトを呼びかけたとき、真っ白な手袋を()めた手に頬を触れられた。

 赤ん坊に触れるような優しい手つき。

 しかし、指先からとてつもなく冷たい感触が伝わった。

 凍るような寒気が背筋を走って、全身に鳥肌が立つのを感じる。

 女性プレイヤーは指先に力を込めて、レキトの顔を右の方へ向けた。


 レキトは触られた手を払いたかったが、自分の腕を上げることができなかった。

 正確に言えば、顔を背けることも足も動かすこともできない。

 左手の小指すら曲げることもできなかった。


《忘却を願う悪貨》の力によって、アバターが操作できなくなったときと明らかに違う。

 凛とした声の女性プレイヤーの存在に、息もできなくなるほどの恐怖で動けなくなっている。


 今この瞬間にゲームオーバーにならずに済んでいることが、奇跡としか思えずにはいられない相手だった。


「……ああ、あなたは本当にいい目をしてますね。揺るぎない意志を宿した左目に、誰かのために戦う覚悟をした右目、そして原石の輝きを持った瞳。運営に選ばれた挑戦者の中でも、あなたは1万人に1人の逸材のようですね」


 凛とした声の女性プレイヤーは惚れ惚れしたように語りかける。

 真っ白な教団服のフードをかぶり、フルフェイス型のガスマスクを装着した顔。

 黒塗りのゴーグルのレンズから、女性アバターの目が透けて見えた。

 色素の薄い緑色の瞳は、恋に落ちた乙女のようにレキトをうっとりと見つめている。


「『Fake Earth』はプレイヤーのコインを集めるゲーム。賞金10億円の報酬を目指すにせよ、《ガチャストア》でギアを手に入れるにせよ、他プレイヤーのコインが必要になります。もっとも、誰のコインなのかは問われません。初心者のコインでも、古参のコインでも、運営は1枚のコインとして等しくカウントします。ですが、プレイヤーの命となるコインは、本当に同じ価値なのでしょうか?」


 凛とした声の女性プレイヤーは、レキトの目を見つめたまま問いかける。


「多くのプレイヤーたちの考えと違い、私たちギルドはそうは思いません。これが現実世界を再現したゲームなら、交通事故で亡くなった人の年収に応じて賠償金が変わるように、人間の命の価値は平等でないところも再現されているはずだからです。強いモンスターあるいはレアモンスターを倒せば、経験値が多くもらえるように、実力のあるプレイヤーや類いまれな素質を持ったプレイヤーを倒せば、彼らのコインは価値が高いでしょう。──あなたのコインでガチャを回せば、いいギアが引けそうです」


 色素の薄い緑色の瞳が嬉しそうに輝く。

 女性プレイヤーはレキトの頬を()でた。

 反対の手には、対プレイヤー用ナイフが握られている。

 真っ白な光の刃がレキトの胸の高さまで持ち上げられる。


 女性プレイヤーから10メートル離れた場所で、紫藤が教団ギルドのプレイヤーたちと戦っているのが見えた。

 整った顔をしかめて、迫りくる対プレイヤー用ナイフを辛うじて避けている。

 素早くバイオレット色の光の刃で斬り返す余裕もなく、防戦一方に追い込まれている。

 急いで助けにいかなければいけない状況なのに、レキトは身がすくんで動くことができなかった。


「……ほんの少しだけ痛みます。ですが、ご心配いりません。この痛みも、あなたは忘れてしまいますから」


 穏やかな口調で言った女性プレイヤーは、フルフェイス型のガスマスクを外した。

 ()(れん)なドールフェイスの口元を綻ばせて、真っ白な光の刃をレキトの胸へ近づけていく。

「攻撃」というより「儀式」を行っているような振る舞い。

 真っ白な光の刃に照らされて、レキトの胸は徐々に明るくなっていく。


 速くなる心臓の鼓動を感じながら、レキトは迫ってくるナイフを見つめた。

 頭では逃げなければいけないことはわかっていた。

 このまま何もしなければ、ゲームオーバーになることは目に見えている。


 しかし、死が間近に迫ってきても、レキトは指一本動かすことができなかった。

 恐怖に陥った本能が逃げろと訴えかける理性を抑え込んでいる。


 頭の中で記憶が走馬灯のように駆け巡り、凛子と一緒にゲームセンターで遊んだ思い出が色鮮やかに蘇った。



──ピ、ピ、ピ、ピー!



 そのとき時報がレキトのスマートフォンから鳴った。

 100坪以上ある部屋の中で、その音は余韻を残して響く。

 女性プレイヤーのナイフを近づける手が止まった。

 嘘みたいに重かったアバターが一瞬だけ軽くなる。


 レキトは女性アバターの手を払って、苦戦している紫藤の元へ全速力で走った。

 最大限の力を込めてエナメルバッグを投げつけて、紫藤を対プレイヤー用ナイフで斬ろうとしたプレイヤーにぶつける。


 時報を鳴らしたスマートフォンを見ると、プレイ前のルール説明のときに見た「地球」がスマホ画面に映っていた。


『プレイヤー名「(あそ)()(れき)()」様、アーカイブ社運営局よりゲームに関するお知らせです。ただいまをもちまして、ゲーム開始時からプレイ時間が1時間を経過しました。現実世界でご活躍されていた頃のように、この世界でも「最善」を尽くされていることを心より感謝申し上げます。よって、運営局より新規プレイヤー応援特典として、「ギア」をランダムで1つ提供させていただきます。ぜひゲーム攻略に役立ててください』


 中性的な声のアナウンスが流れたとき、赤色のスマートフォンが光り輝きはじめた。

 青白い光がスマホ画面から放たれて、部屋の天井まで照らしている。


 そして、赤色のスマートフォンは激しく揺れた。

 強く握りしめていなければ、手のひらから滑り落ちるほどの振動。

 新たな生命がスマホ画面の中から飛び出してくるかのような震え方だった。


『それでは「遊津暦斗」様が入手するギアをご紹介させていただきます』

『未知の可能性を秘めた、この世界の理を動かす、第一の歯車』

『No.25:《小さな番犬(リトル・ケルベロス)》』


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 私ならば「悪い、こんな事になった」軽いの謝るです、「本当にごめん、...私のせいで...」は主人公に対しての感情は重いすぎと感じます。
[気になる点] >「本当にごめん、レキトくん。 > 私のせいで、こんなトラブルに巻き込んじゃって……」   紫藤さんは主人公に仲間の感情生みますでも、この段階はこのようなセリフを言うの人間ではない気…
[一言] レベルが違いすぎる。 頭が空っぽだと読めない文章だが、ちゃんと読もうとすると描写が分かりやすい。 (;`皿´)グヌヌ
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