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ロスト  作者: 林 晄史
始まり
3/25

赤髪

 目前にリンが現れた。

聖母のような慈しみと憂いをたたえた瞳。


 こんな顔も持っているのだな、と感心してしまう。

おでこの布は冷たく、窓から春陽。


「ありがとう、リン」


「ごめんなさい」


 まどろむ体はそのままに、できる限り丁寧に伝える。

軽く頷き、ほほをつつかれる。


「予測の範囲?」


 ひたっと射抜かれる。


「リンはいなくなることはないと予測していた。

.…..俺の心に添ってくれると信じているぜ」


 しょぼいウインクをかました。


「私は信に背く事はない。命ある限りは」


 華麗なスルーから、直向きおめめ。

変わらぬ姿にほっとする。依存といえるかも。


「あの惨状は意図しないものだった。生死すら、俺の心を映すのはおぞましい」


 意識せずともフラッシュバックが延々と起きている。

だが不思議とコウは落ち着いていた。

先程の意識を失う瞬間から目覚めまでも受け止めている。


「声音が震えていれば精神をやられているとは思わない。むしろコウはそれ以上に心配だ」


 リンは窓を大きく開いた。暖かな風がなでていった。


「平静を保つ事と精神の強さは必ずしも一致しない。むしろ精神の弱いものほど、平静を身につける」


 外を見るリンの横顔は、透き通る肌が淡く世界に溶けてしまいそうに儚い。


「コウ……ためらいは必要な事だと私は思うよ」


 柔らかな微笑みを向けてくるリン。

彼女の感想にすぎない。決して押し付けてこない。


 ただそうかもしれないと引き寄せられる。

この感覚は悪くないものだった。


 屋根を突き破り、床に突き刺さる。

破砕音が遅れてやってくる。


 肩から上だけ出ているそいつは、例の少年だった。

ぼさぼさ赤髪に赤い目。ダメージはないらしい。


 見上げてくるその目は好奇心に満ちていて爛々としている。


「俺の名前はコウ」


 盛大に口の端をつり上げて、会釈。


「シン。よろしく!!」


 盛大に突っ込まれ、壁ごとぶち抜き、空が見えた。

春の空は雲がほんわり浮かんでいた。


 因果応報としては軽い。

後頭部を地面に強打、みぞおちにシンの頭をめり込ませ、また意識を刈り取られてしまった。

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