解説
「どこから話そうかしら」
シルビアは悠然と足を組み、腰掛けた椅子の肘置きに優雅に頬杖をついた。
美しい銀髪がさらりと流れる。
考えを深めるために細めた紅眼は、ぞっとするほど妖艶だ。
「ロストに来た理由が、本当に力を求めに来たと?
こんな未知の領域に、それだけの理由でのこのこと来るニホンジンが、本当にいるかしら。
聞いたことあるでしょう。電波に混ぜる洗脳法。
この国ほど容易く使える場所はなかったわ。
それは幸運な事なのよ。
チャンスを得たのだから。
察したわね? その通りよ。
この国以外は問答無用で滅ぼしたわ。
ウフフ……核兵器を始めとした全ての軍事は、私達の能力の前では無意味だったわ」
シルビアはコーヒーを手に取ると、美しい所作で飲み、またも足を組み替えた。
まだ一口も飲んでいないものだ。
この戦いが終わった後、みなと飲もうと考えていた。
「……さっきから丸見えよ。はしたない」
実際は同性でありながら、少しほほが赤くなるほど魅力的な所作であった。
あまりに低俗な物言いでもある。
だがどんな些細な事でも反撃のキッカケにする必要がある。
「欲情していたのかしら」
シルビアは舌を這わす。
あまりの妖艶さに硬直するシズクに近づくシルビア。
「可愛いわ。私が連れて行ってあげる」
「果てのその先まで」
シズクに手を伸ばし、それが触れる前。
シルビアは、この洞窟そのものが移動したような浮遊感に包まれた。
「……これで動けないわね」
シズクがスイッチを押すと、シルビアの全身が縛り上げられる。
不可視の縄は容赦なくシルビアを締め上げ続ける。
「私には無効……」
シルビアが初めて動揺を見せた。
「地獄に落ちてもらう」
コウが現れる。
シルビアは刺すように、コウの全身を隈なく見る。
「能力を発動させる。それが自力だけだと思っていた」
「気づいたのね」
コウの言葉にシルビアが察する。
コウもシソとシルビアに並んだのだと。
辺りを見渡すとシズクの姿はなかった。
「能力は譲渡あるいは略奪できる。そんな事に気付かなかった自分が」
コウの足跡と共に、空気が震えを増していく。
洞窟の寒気だけではない、強い冷えをシルビアは感じていた。
「許せない」
その一言は凄まじい暗さと強さを感じさせた。
そしてシルビアははっきりと認めた。
コウを恐怖していると。
「あの男とお前だけは必ず地獄に落とす。俺の手で」
コウの宣言と共に、凄まじい重力がかかる。
シルビアの体が軋み、堪え切れない圧力に声が出る。
シルビアの全身は汗にまみれ、地に縫い付けられたように、微動だにできなかった。




