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ロスト  作者: 林 晄史
劇場
22/25

解説


「どこから話そうかしら」


 シルビアは悠然と足を組み、腰掛けた椅子の肘置きに優雅に頬杖をついた。

美しい銀髪がさらりと流れる。


 考えを深めるために細めた紅眼は、ぞっとするほど妖艶だ。


「ロストに来た理由が、本当に力を求めに来たと?

こんな未知の領域に、それだけの理由でのこのこと来るニホンジンが、本当にいるかしら。


 聞いたことあるでしょう。電波に混ぜる洗脳法。

この国ほど容易く使える場所はなかったわ。


 それは幸運な事なのよ。

チャンスを得たのだから。


 察したわね? その通りよ。

この国以外は問答無用で滅ぼしたわ。


 ウフフ……核兵器を始めとした全ての軍事は、私達の能力の前では無意味だったわ」


 シルビアはコーヒーを手に取ると、美しい所作で飲み、またも足を組み替えた。

まだ一口も飲んでいないものだ。


 この戦いが終わった後、みなと飲もうと考えていた。


「……さっきから丸見えよ。はしたない」


 実際は同性でありながら、少しほほが赤くなるほど魅力的な所作であった。

あまりに低俗な物言いでもある。


 だがどんな些細な事でも反撃のキッカケにする必要がある。


「欲情していたのかしら」


 シルビアは舌を這わす。

あまりの妖艶さに硬直するシズクに近づくシルビア。


「可愛いわ。私が連れて行ってあげる」


「果てのその先まで」








 シズクに手を伸ばし、それが触れる前。

シルビアは、この洞窟そのものが移動したような浮遊感に包まれた。


「……これで動けないわね」


 シズクがスイッチを押すと、シルビアの全身が縛り上げられる。

不可視の縄は容赦なくシルビアを締め上げ続ける。


「私には無効……」


 シルビアが初めて動揺を見せた。


「地獄に落ちてもらう」


  コウが現れる。

シルビアは刺すように、コウの全身を隈なく見る。


「能力を発動させる。それが自力だけだと思っていた」


「気づいたのね」


 コウの言葉にシルビアが察する。

コウもシソとシルビアに並んだのだと。


 辺りを見渡すとシズクの姿はなかった。


「能力は譲渡あるいは略奪できる。そんな事に気付かなかった自分が」


 コウの足跡と共に、空気が震えを増していく。

洞窟の寒気だけではない、強い冷えをシルビアは感じていた。


「許せない」


 その一言は凄まじい暗さと強さを感じさせた。

そしてシルビアははっきりと認めた。


 コウを恐怖していると。


「あの男とお前だけは必ず地獄に落とす。俺の手で」


 コウの宣言と共に、凄まじい重力がかかる。

シルビアの体が軋み、堪え切れない圧力に声が出る。


 シルビアの全身は汗にまみれ、地に縫い付けられたように、微動だにできなかった。

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