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ロスト  作者: 林 晄史
始まり
2/25

夢とは

「夢とは何だ?」


「随分と素直になった」


 典雅な微笑みを向けてくるリンに、思わず顔を背けた。

拍子に関節が鳴り、思わずうずくまる。


「ずっと座っていたのだから、当然。ゆるゆると動く事」


 人差し指をぴんっと立て、ゆるやかに揺らされる。

無言で頷く他ない。


「抽象的な説明になる。夢は3つに大分される。

対人は家庭、組織。国も含まれる。大望を抱くというやつ」


 指がひょいっと上がる。


「個人は賭け事、趣味にあたる。破滅と表裏。

最後に無。土俵にすら上がれなかった」


 さらりと話し終え、神妙に覗き込んでくる。


 眼差しに包まれながら思案。

俺はどれなのだろうか?


 無……ではなさそうだが、選びきれない。


 足音をふわりと受け止める苔草。

時折、涼やかな春風に花びらが混ざる。


 リンの間合いは心地よく感じる。

決して逃してはくれないが、ペースは任されている。


「ぶつかるぞ」


「ここは私の庭。有り得ない」


 星が流れた気がした。


「俺の庭でもあるのかな?」


「そうでもある」


 気づけば目前に池。ほとりに仙水がしとやかに咲いている。

月が映える水面が波打つ度に煌めく。


 知っているものが、幼少の記憶にある光る草の光景のような感動をもたらしている。


「詩人にでもなれそうな気がする」


「聞かせてほしい」


 遊として 黒煙と月 交わりて 駆け巡る羽音 静謐な春夜


 目を閉じて聞いてくれたあと、リンはさらりと言った。


「私は詩人ではないらしい」


「同感」


 二人で笑った。

案内人でお堅い口調な麗人は、異常に居心地がよい。


 甘美な時間とさえ感じる。

昨日も明日もないことに焦慮なく泰然としている自身に気づく。


 それで良いのだ。

結果に善悪はなく、そうした縁であったということだ。


 この状況は悪くはない。


 とりとめない理由などない話を始めた瞬間、轟音。

火花が明滅し、意識が飛び、瞬時に戻る。


 痛みよりも原因を探し、全身を捻る。


「………」


 文字通りに頭を抱え、悶絶している少年を見つける。


「これがコウの心か」


 典雅に微笑むリン。

少年に対し苛立ちと排除の念が浮かんだ。


 邪魔しやがって、死ね……と。

瞬間、目の前が炸裂し辺り一面血にまみれた。


 赤黒いコントラストがデタラメに塗りたくられる。


 理解が追いついたコウの周りには誰もいなくなっていた。

血肉の臭いに絡みとられ意識を手放した。

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