表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロスト  作者: 林 晄史
劇場
19/25

返り討ち


「シズク!! リンが死んだ。生き返らせろ!!」


  洞窟に転移してきたコウは完全にキレていた。


「……寝てなさい」


 シズクは素早くリンを奪うと、コウを眠らせた。

睡眠薬と回復薬を配合した、シズクお手製のポーションを、手早く注射器でぶっ刺したのだ。


「……器官を貫かれたのね。頸椎の状況しだいね」


 手早く傷口をヒールをかけながら、血を抜き呼吸できる体制を作る。

どういう理屈か、血溜まりは肺にいっていない。


「……リン、まさか意識があるの?」


  ヒールで血が止まり、徐々に復元していく。

血塗れのガーゼが周りに溜まる。


 シズクは紅い献花を連想し、すぐにかき消す。


「……私も女の子なのよ」


  度重なる凄絶な治療を受け、シズクの精神は少なからず負荷がかかっている。

やることをやるしかないのだが、役回りを恨む権利はシズクにはあるはずだ。


  コウの様子を見ようと目を向けると、そこには何もなかった。

シズクは音もなく吐息をもらした。





「よい判断だ」


 シソはシルビアの報告をにこやかに受けた。

そして、瞑目し、静かに気を高めていった。


 全身全霊を最高潮に高める。


 やがて空気が震え始める。

それは部屋に置かれた豪奢な家具に伝わり、亀裂が入るそばからすぐに修復していく。


「素晴らしい」


 シルビアは恍惚とした表情を浮かべ見守る。

シソの力と自らの力が連鎖して起きる。


 愉悦といえる芯から起こる感情に身悶えしてしまう。


「来たな」


 シソがひとっ飛びすると天井を突き破り、外へ出た。

瞬時に塞がる屋根の上に悠然と降り立ち、手を掲げた。シルビアももちろん隣に立つ。


 山が丸ごと降ってきた。

3000m級のそれは活火山なのか、溶岩がはみ出している。


 シソは軽く人差し指をまっすぐ立てた。


「見つけたぞ」


 伸ばした指をそのままにシソは垂直に飛んだ。

山を貫き、その先のコウの心臓を的確に突き刺した。


「ふふっ、移動しないのか?」


 コウはシソの問いに答える事ができない。

心臓を突き刺された指で、心音を聞かれているという異常事態になすすべがない。


「力がないのだな。言葉すら持たないとはな」


  シソは静かに指を抜き取る。

すぐさまコウは空間移動を発動した。


  静かに降り立つシソ。

そっとシルビアが指を拭う。


「あの程度とはな。興醒めである」


  そう言いながら、シソは己を倒す可能性があるものを決して害さない。

当人の心が折れたら即殺する反面、心が折れていないものは必ず逃す。


 シルビアはシソと全てを共にすると決めている。

故に心はブレない。


 だが無意識に願ってしまう。

ずっと生きていてほしいと。


 これはシソへの全幅の信頼とは別な、シルビアの本能によるものだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ